対話をビジネスの「資産」に変える。IVRy Data Hubが描く、対話データ活用を支える技術
こんにちは、IVRyです。 対話型音声AI SaaS「アイブリー」はこれまで、多くの企業の「電話」を起点として業務効率化や従業員満足度の向上、電話をかけるお客様の利便性向上などをサポートしてきました。
しかし今、私たちは大きな転換期を迎えています。 その中心にあるのが、企業内に蓄積される通話・メールなどのコミュニケーションデータを一元的に統合・解析するデータプラットフォーム「IVRy Data Hub(アイブリーデータハブ)」です。
これまでの「電話の自動化・効率化」という枠を超え、電話などを通じて生まれる膨大な「対話データ」を、ビジネスを加速させる資産へと変換する。 今回はそんな「IVRy Data Hub」の裏側にある設計思想と技術的なこだわりについて、開発責任者の大曽根 圭輔さんに詳しく聞きました。
株式会社IVRy Head of Data 大曽根圭輔 @dr_paradi
筑波大学にてAIの研究に従事し博士(工学)取得後、2012年に株式会社サイバードにてデータ分析部門立ち上げ等を担当。2015年に株式会社Gunosyに入社し、記事配信アルゴリズムの改善および執行役員・取締役CDOとしてメディア事業責任者、全社のデータ戦略を担当。2024年11月、株式会社IVRyに事業開発として参画。
構想のきっかけは「電話のブラックボックス」を解消したかったから
―― まず、IVRy Data Hubを構想したきっかけを教えてください。
大曽根: きっかけはシンプルです。「対話というブラックボックスなデータを、ITシステムのようにリアルタイムで観測・可視化できたら面白いのではないか」という発想から始まりました。
従来の電話は、受けて電話を切ったら記録が残りにくい「フロー型」のコミュニケーションになっていました。
しかし、「対話」にはお客様の本音や現場の課題といった貴重なデータが眠っています。これらを「ストックデータ」として可視化し、システムの状態を監視するように対話の内容を把握できれば、ビジネスの意思決定を劇的に変えられるはずだと考えました。
従来、電話などでの対話内容を経営に活かすには、現場からの報告を待つ必要があり、情報の劣化や主観が混ざってしまうこともありました。
しかし、IVRy Data Hubによって対話がリアルタイムに構造化されれば、ブラックボックスだった顧客との接点などの「対話」をリアルな情報として活用でき、より迅速で精度の高い判断が可能になるのではと思いました。
―― 具体的にどのような課題を解決しようとしたのでしょうか?
大曽根: 例えば「カスタマーハラスメント(カスハラ)の対策」です。
これまでは、後から録音を人間が聞き返してカスハラの有無を判断するしかありませんでした。
私は前職でも異常検知システムの開発をしていましたが、それは信号や画像を数値化した「構造化データ」が対象でした。
一方、電話の音声から文字起こしされたデータは、文脈もバラバラで揺らぎが多い「非構造データ」です。このカオスなデータからどうやって異常を検知するのか。そこが最初の大きな挑戦でした。
―― 「対話データ」という非構造データを扱うのは、かなり難易度が高いのでは?
大曽根: そうですね。私は前職では、画像データを対象にしていましたが、非構造データである対話から、特定のテーマ、例えばカスハラなどを検知するのは全く別次元の話です。
当初、社内では「NGワードを設定すればいいのでは?」という話もありましたが、実際の対話はもっと複雑です。文字起こしの精度も影響する環境で、単純なワードマッチングだけで検知するのは不可能に近い。
設計段階では、社内からも「それは難しそうだ」という指摘がありました。ただそこで諦めず、「Agentic-RAG」というアプローチを採用して検証することにしました。

2年前には不可能だった。LLMと「Agentic-RAG」が切り拓いた突破口
―― 具体的にどのような仕組みなのでしょうか?
大曽根: 概念としては、話題や単語を数値化して検索する「ベクトル検索(Vector Search)」に近い技術ですが、IVRy Data Hubではさらに一歩踏み込んだ活用をしています。具体的には、複数のAIエージェントを同時に走らせ「この会話の中に不適切な表現はないか?」「お客様の困りごとは何か?」という問いに対し、複数のAIがそれぞれの視点で全文章を精読し、クロスチェックを行う仕組みです。詳細はあまりここでは話せないのですが。
正直、これは2年前には技術的に不可能でした。
ここ1年でLLM(大規模言語モデル)の推論スピードと処理能力が飛躍的に向上したことで、ようやく実用レベルに達しました。AIは人間と異なり、膨大かつ断片的な文字起こしデータに対しても、休まず解析し続けることができますし。
「守り」は絶対、「攻め」は大胆に。対話データの真価を引き出す設計の妙
―― 設計において、技術的に「ここだけは譲れなかった」というポイントは?
大曽根: 「セキュリティとプライバシーの徹底」です。電話での対話は、法律で保護されている非常にセンシティブな領域(※)。
アーキテクチャの設計段階から、権限管理やデータの匿名化、マルチテナント対応など、セキュリティが破綻しない構造にすることは絶対条件でした。その基盤の上に、最新のAIを組み合わせ、AIエージェントの仕組みを追加していく。この「守り」と「攻め」のバランスを考えて開発することが、IVRyのエンジニアリングの面白いところだと思います。
※憲法第21条および電気通信事業法に基づき、通信の内容だけでなく、通信の当事者の氏名、住所、通信日時、場所などの「通信に関する一切の情報」を、正当な理由なく知られたり漏らしたりしてはならないという原則があります。
―― 大曽根さんから見て、IVRy Data Hub開発の「挑戦」はどこにありますか?
大曽根: 「独自データ」の圧倒的な優位性ですね。店舗や他業種での「対話データ」、このユニークなデータがあるからこそ、汎用的なAIでは作れない、実社会に手触り感のあるソリューションが生み出せる。
エンジニアにとって、これほど刺激的な環境はないですよ。
声の大きいお客様だけではなく、全ての「顧客の声」をフラットに届ける
―― IVRy Data Hubによって、今後のIVRy、そして社会はどう変わっていくのでしょうか。
大曽根: これまでのプロダクト開発では、顕在化しやすい一部の要望が優先されがちな側面もありました。
しかしIVRy Data Hubがあれば、全ての対話データから「何に困っている人が多いのか」をフラットに、定量的に可視化できます。営業担当がお客様に褒められている瞬間や、プロダクトが本当に喜ばれている瞬間。そうした「現場のリアル」を開発チームがダイレクトに体感できるようになります。
電話を単なる「コスト」として効率化する時代は終わりました。これからは、電話を含めた「対話データ」をビジネスを加速させる「資産」に変えることができる。IVRy Data Hubは、そのための心臓部になります。
人の役に立つ、本当にいいものを作り続けたいエンジニアにとって、今が一番面白いフェーズだと確信しています。

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