8.神々と星々②
神々と星々の二回目です。
一回目では、「死んで蘇る神」という神々の原型と、太陽および季節のサイクルの関係についてお話しました。
ニムロデは自らを神として崇めさせました。神なので、死ぬのは問題です。なので妻のセミラミスは、夫は冥府に留まったという設定、息子は父の生まれ変わりだという設定を生み出しました。母の愛が神を蘇らせたのです。
ローマ教会はこの設定をキリスト教に取り入れます。神話や祭りなどで連綿と受け継がれてきた、人気のある設定だからです。
天体の解明
タンムズ(ニムロデ)は毎年クリスマスに死に、イースターに復活します。沈む太陽のように消える「死にゆく神」の原型です。
ニムロデはバビロニアの主神マルドゥクと同一視されていました。

バビロニアの宗教は三位一体が採用されていました。シン、シャマシュ、イシュタルという三つの神格であらわされます。
シンは月の神で、多くの子供をもうけましたが、その中の双子の兄妹、シャマシュとイシュタルは、それぞれ太陽と金星になりました。
ニヌルタは土星で、火星の兄弟です。火星はネルガルで、戦争の神、死者の主、冥界の神です。水星はナブ。神々の使者であり、知恵、文章、帳簿を司り、書記と文章の守護神でした。
また、死にゆく神の重要なシンボルに、オリオン座があります。ニムロデは「主の御前に立つ力強い狩人」です。ユダヤ教の伝統では、ニムロデをオリオン座と同一視していました。

大洪水から数世紀後は、ライオンなどの野獣が人間より多くうろついていたため、強い狩人はふつうに「神」です。オリオンを殺したサソリは旧約聖書の蛇に当たります。
こうして星々と神々を結びつけるのは、原始的な信仰心からではなく、占星術というテクノロジーの体系に重要な役割を果たすからです。
昔の人はアホだったと思いがちですが、バビロンの宮殿の門は馬車が六つ並んで通り抜けられるほど巨大だったといわれています。賢い人がいて、テクノロジーもあったということです。

テクノロジー、科学、魔術。これらは同じです。なので占星術も科学であり、魔術です。
天体には不変の規則性があり、星座が運動しています。とりあえず解明したくなります。
バビロニアでは、星々はすべて神々でした。紀元前三千年ごろ、メソポタミアでシュメールの楔形文字が開発され、その後線文字に変化したのですが、「神」をあらわす記号は星型に並んだ線です。
グスタフ・アドルフ・ショーナー博士の記事によれば、「神」と「星」はシュメールの楔形文字の中で同じ言語的ルーツを持っていると結論づけることができます。
神々はさまざまな「属性」を持っています。火星の神は戦争と死、水星の神は知識、などです。マルドゥク=ゼウス=ユピテルのように、時代によって名前は変わっていきますが、ルーツは同じなので役割も同じです。
さらには神話において、神々はさまざまな関係性を見せます。
一年には春夏秋冬があります。古代人は太陽を観察しまくった結果、まず周期を十二等分しました。
十二等分した太陽の軌道のあいだには、それぞれ星々が瞬いています。これを星座とし、黄道十二宮ができあがりました。

星座にも生命があり、役割があります。なので神々を当てはめます。
時代の前後は不明ですが、原始的な星崇拝から科学的な疑問に行き着くのは、当然の成り行きです。天体もまた神の被造物であり、天体の法則の解明は唯一神の解明にもつながります。
季節のサイクルは人の生活を支配しています。なので天体を調べれば、人の運命がわかるようになるかもしれません。
法則といえば、数学です。数学を駆使して科学的に解明したら、今度は未来を予測することもできるようになるでしょう。
占星術はバビロニアのカルデア人が発明しました。「カルデア」は神官をあらわす意味もあり、占星術は神官だけの秘儀でした。
時代を経るにつれ占星術は発展し、紀元前六世紀ごろのバビロニアの占星術は、ほかのどの占いよりも未来を正確に当てることができたといわれています。
科学でありたい宗教
占星術は現在でも人気です。
占い師はそれこそ星の数ほどいますし、新聞や雑誌、テレビやネットなどでも毎日のように見かけます。「ロマンチックな夜が訪れるかも?」などの「予言」は、洋の東西を問いません。
本当に未来を予測できるのでしょうか。「今日の運勢」は、なにを根拠にしているのでしょうか。星座占いはじつは科学だったのでしょうか。
現在でも科学者や心理学者が、惑星や星座と人の運命、行動などの関連性を調べています。火星(戦争と死)に対応する人は軍人やスポーツ選手に多く見られるのか、などです。
ですが、仮に多く見られたとしても単なる平均値なので、いくら統計を取っても「科学」であるとは実証できません。
科学と宗教は同じようなものです。権威の言葉は実際に人に影響を与えます。
古代の占星術師でも、占いが趣味の一般人でも、「あなたは短命に終わる」などと言えば、その人は大なり小なり影響を受けます。「あなたは蠍座なのでスポーツに向いている」と言えば、その人は占いがきっかけでスポーツをはじめるかもしれません。
グスタフ・アドルフ・ショーナー博士の記事によると、古典言語学者フランツ・ボルは占星術について、「占星術は宗教であると同時に科学でありたい」とまとめました。
人はなんでも擬人化して認識するものなので、愛の女神、知恵の女神などは、単なる丸い星より万人受けします。宗教としてはこのほうがいいでしょう。
一方、完全な「科学」になりたいのであれば、神々などの不純物は完全に除去しなければなりません。
結局、占星術は完全な「科学」にはなりきれず、それは五千年の時を経た現在でも変わっていません。
ですが占星術師としては、それでいいのです。宗教の要素がなければ占星術ではなくなってしまうからです。

医者がガンだと言えば、患者はガンになります。もって半年、などとも言われます。科学的な裏づけがある(らしい)ので、患者は「科学」として信じ込みます。
「ガン」は「女神アフロディーテ」と同じで、だれかが発明し、その症状(属性)に当てはめたコトバです。かつて世界には、「ガン」も「女神アフロディーテ」も存在しませんでした。
多くの人に「ガン」「女神アフロディーテ」を信じさせるには、「科学でありたい」と体系を発展させていかなければなりません。
ですが「ガン」も人の創造物である以上、完全な「科学」にはなり得ません。いくら症状を定義し、統計を取って平均値を出しても、「これがガン」というものは存在しないのです。「花」もいろいろ、「人生」もいろいろです。「人生」というものを(勝手に)定義し、あなたに当てはめているわけです。
神託を受けた患者は驚き、救いを求めます。ですが現代のシビュラ(巫女)も、ふつうに余命宣告をまちがったりします。
もちろん、大半の祭司(医者)はまじめに研究しています。ただ、その叡智(信じさせるテクニック)が古代から受け継がれたものだとわかると、盲信は身の破滅を招くかもしれないと考えることができます。なぜ宗教は「気持ち悪い」と忌避するのに、占星術やお医者さんの言うことは信じるのでしょうか。
人は、たくさん勉強した人が言うコトバを信じます。正しいかどうかは関係ありません。なので人を信じさせるには、たくさん勉強をしなければならないのです。作家になりたければ医者になってください。
わたしたちは生年月日から、勝手に星座を割り振られています。新聞や雑誌、テレビなどで「今日の運勢」を目にし、今日は悪い日なのか、と考えてしまいます。
宗教の科学的発展、それが占星術です。
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