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最初の断片 | 石と漆   

2025年夏、漆の世界に足を踏み入れた。

学びの記録を丁寧につけたいと思いながら、気づけばもう新緑の季節。

昨年から少しずつ向き合ってきたものが、ようやく一つの形になったのは今年の1月。
「作品」と呼ぶにはまだ心許ないけれど、最初の一歩として、残しておきたいと思う。

白漆を塗った石のオブジェ。
真鍮粉で蒔絵を施した。


石と漆

漆といえば、朱や黒の器といった木地に塗られた姿を思い浮かべる。

けれど、せっかく新たな挑戦として始めるのだ。
何か面白い組み合わせで実験がしたいと思った。

そこで試してみたくなったのは、石と漆という組み合わせ。

石の持つ原始的な強さと、漆の艶やかな質感。
正反対の素材が隣り合うことで、お互いの存在感がより際立つのではないか。そんな予感があった。

 漆と対話する、4ヶ月の記録

蒔絵の師のもとで始まった制作。
想像以上に、時間を積み上げていく地道な作業だった。

(制作期間:2025.9 - 2026.1)

2025年9月-10月:塗り / 研ぎ
石に漆を塗る、室(ムロ)で乾かす、表面を研ぐ。
この繰り返し。
塗った漆の層を研ぎ破らぬよう、集中して表面を整え、少しずつ漆の層を重ねていく。

※ 室:漆を乾かすため、内部の温度/湿度を調整した専用の箱

1回目の塗りと研ぎ終了時。
3目の塗り。完全に乾くまで研げないので、
研ぎの工程は1週間後。先は長い。


2025年11月:磨き 
塗りと研ぎが終わり、次は艶出しのための磨き。全体のムラが無くなり、艶が出るまで磨く。

5回ほど塗り重ね、だいぶ漆の層が厚くなった。
首と手が痛くなるほど磨き続け、
ようやく滑らかさと艶が出てきた。


2025年11月後半-12月:置目 / 高上げ/ 蒔絵 
・蒔絵の下書きである「置目(おきめ)」をする
・一部を炭粉で高上げ
・絵漆で本書きし、真鍮粉を蒔く

置目:下書き用に目安をつける
高上げ:少しぷくっとさせたいところに高さを出す
粉を蒔くところに絵漆で本書き
真鍮粉を蒔く


2026年1月:仕上げ
余分な粉を払い、艶出し用の漆を蒔絵の上に薄くのせる(コーティング効果)
漆が完全に乾いたら完成

雪の結晶
木の実


漆の層ができるまで

今回初めて漆を扱ってみて、その工程の多さと費す時間に驚いた。

漆の乾燥には丸1日から1週間ほどかかる。とにかく待つ時間が長い。

研ぎの工程も延々続くように思えた。

完成した作品は、一見すると湯煎したチョコレートにくぐらせたような、一瞬でできた滑らかさに見える。

けれど実際は、刷毛目を消し去るための、果てしない研ぎの反復。
石の半分を塗るだけで、これほどまでの手間がかかるとは思ってもみなかった。

世の漆職人による作品は、どれだけの果てしない工程と時間が費やされているのだろうと思うと、気が遠くなる。



最初の作品

正直に言えば、まだ表面に凹凸があるし、刷毛目も残っている。
けれど、完成した石を手にのせたときの喜びは、想像以上に大きかった。

漆の、いつまでも触れていたくなるような艶。
その上に小さくきらめく蒔絵。
石との組み合わせも、想像していた以上にずっと素敵だった。

数ヶ月分の時の層が重ねられた、魔法のかけら。


まだまだ未熟な作品だが、確かな形として完成させたことで、「漆の旅」がようやく幕を開けた気がしている。
創作とは、終わりのない冒険のようだ。

そして今、また新しい冒険の真っ只中にいる。
その道のりも、またここで記したいと思う。


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