永遠のロマンスが始まる
夫との結婚前、初めてのデートは横浜のみなとみらいエリアだった。
中華街で立ち食いしたり、占いの館で手相を見てもらったり。未来のことを話しながら、この人とは長く一緒にいられるかも、と思った。
下手な恋愛ばかりしてきた。
いつもわたしから告白して、交際して、二股をかけられたり、暴力を振るわれたり。
だから、待ってみた。
3年半もの時を経て、交際を申し込んでくれたのが夫だった。
といっても、夫がわたしを好きだという情報はなかった。わたしも夫に恋をしていたわけではなかった。
大人同士の交際も、結婚への道のりも、現実はこんなふうに落ち着いたものなんだろうな。だからこそ、何十年も一緒にいられるのかもしれないな。
かえってそう安心したのを覚えている。
横浜中華街から赤レンガ倉庫への、少し長い散歩も楽しかった。広場にはテントが張ってあって、鍋系のフェスが開催されていた。
好物のきりたんぽ鍋を食べている間に、夫が飲み物を買ってきた。
「はい。とうもろこしひげ茶でいい?」
「ありがとう。なんでとうもろこしひげ茶?」
「好きそうだと思って」
とうもろこしひげ茶が好きそうな女とは、どんな女なんだろうか。
実際、とうもろこしひげ茶は好きだった。わたしはコーン茶や黒豆茶、そば茶など穀物のお茶が好きなのだ。
とはいえ、初デートでいきなりこのお茶を買ってきてくれる男性は初めてだった。勇気に驚きながら、冷めないうちに鍋を頬張った。
落ち着いた頃、夫がバッグから小さな紙袋を取り出した。
「これ、受かったって言ってた資格試験のお祝い」
開けてみると、ピアスが入っていた。
ゴールドのものとシルバーのもの、一つずつ。
「アクセサリーのプレゼントは重いかなと思ったけど、合格のお祝いならいいかなって」
夫は言い訳をしたそうに言っていたけれど、とうもろこしひげ茶を買ってきてもらった後だ。何もかもが無重力に感じた。
端的にいうと、わたしは舞い上がった。
男性からサプライズでプレゼントなんかもらったことがなかった。サプライズでなくとも、記憶の限りではまともで形が残るものなんて、一度も。
手をつなぐだけのデートだった。
一人の部屋に帰って、大喜びで親友に報告した。
「そんなの好きになっちゃうよね」と言われた。
そこで気付いた。
恋から始まった交際ではなくても、夫がわたしを、本当に大事に思ってくれていることに。
そして「わたしはこの人を好きになっても大丈夫なんだ」ということに。
あれから5年以上の年月が経った。何度もケンカをしたし、未来を信じられない日々が続いた。
わたしの精神疾患が快方に向かわず、死を検討した日もあった。実行しないで済むように、子供を望まない選択をした。
死ぬまで、ふたりきりで生きると決めた。
だから、あの日の自分に伝えたい。
病はすぐには去らないし、過去のトラウマもそうそう晴れない。だけど夫が差し出してくれたものを、どうか笑顔で受け取ってほしい。
その瞬間から、永遠のロマンスが始まる。
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