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1カラット

 妻とは、一度別れた。ささいなことが原因で。
 結婚するはずだったのに。

 婚約指輪はダイヤがいい。それは、どちらもそう思っていた。
 妻は、1カラットのが欲しいと駄々をこねた。気持ちはよく分かる。
 確かに、1カラットには、何かずしんとした特別な重みがあるような気がする。
 だが、当時のわたしは、とても裕福な身とは言えず、指輪の予算もあらかじめ決めていた。
 1カラットでは、最安のものでも、予算オーバーになるはずだった。
 まさか、デパートで値切り交渉もできまい。
 正直になって、これくらいの予算だと、どんなものがありますか、と店の人に尋ねてみた。

「1カラットのものになりますと、これくらいでしょうか。お客様、少し品質が落ちますが」
「1カラットでなくても構わないようでしたら、0・95カラットになりますが、このダイヤなどは、素晴らしい品質のものでございます。品質保証書も付いておりますので、ご安心してお買い求めいただけます」と、お薦めの品をケースから取り出してくれる。
 まばゆいばかりの美しさ、その言葉が口からでまかせの、嘘偽りの表現ではなかったこと、この世界には、わたしが知らなかっただけで、不思議なものがまだまだ残されている、こんなに小さな存在であっても、宇宙の片隅まで一瞬にして輝かせてしまう、なんて素敵なんだろう。
 わたしは、虹色の雷にでも撃たれたように、くらくらしていた。
 誰かしら、ひそかにわたしの名を呼んでいるような気がした。
 彼女は、少し不機嫌な顔をして、別のお店も見てみましょう、と言った。

 デパートの帰り、口論になり、他の店には行かなかった。
 彼女と別れてから、あのときのわたしのどこがいけなかったのか、色々考えてみたが、結論は出なかった。

 偶然というか、彼女と再会し、お互いの気持ちを確かめ合い、もう一度、指輪を買いに出掛けた。
 同じ店で、0・95カラットのダイヤモンドの指輪を幾つか見せてもらい、一番品質の良いものを選んだ。
 あのときのダイヤだった、そう思う。
 店員もわたしたちのことを覚えていたのか、わたしたちに祝福の言葉をくれた。
 彼女も嬉しそうに指輪を手に取ると、しばらく、じっと眺めていた。

 結婚三年目の記念に、何かプレゼントをと思ったが、さすがに1カラットには手が出なかった。
 その日の夕食は、洒落たレストランで待ち合わせにした。
 予約してあったテーブルに着くと、どこかでキラキラと輝いている。
 祝福の光だった。
 来春には、待望の子どもも授かる。
 赤い薔薇の花束を妻にプレゼントした。