投資歴10年の私が、わが子に「お金の話」をできなかった理由
シリーズ「年齢別・子どものお金教育」全5回 / 第1回
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去年の秋、10歳の息子に言われた一言が、今でも頭から離れない。
「パパって、なんでいつも節約しろって言うの?お金持ちなんじゃないの?」
夕食後、テレビを消したリビングで、息子はランドセルを放り投げながらそう言った。
その瞬間、私は返す言葉を持っていなかった。
投資歴10年。金融資産はそれなりに積み上げてきた。心理学の資格も持っている。お金と心の関係について、人に語れるくらいの知識はある。
なのに。
自分の10歳の息子の一言に、完全に言葉を失った。
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「お金の話は、しなくていい」と思っていた
正直に言う。
私は長い間、子どもにお金の話をすることを、無意識に避けていた。
理由を自分に問うと、最初は「まだ早い」という言葉が出てきた。でもそれは、表面上の答えだった。もっと深いところを探ると、こんな感情が出てきた。
お金の話をすることで、子どもの夢や純粋さを壊してしまうんじゃないか。
そしてさらにその奥には——
お金の話は、不安や争いを生む。
これは、私が子どもの頃に刷り込まれた感覚だった。
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親の口論が、私の「お金の記憶」を作った
小学3年生のとき、夜中に目が覚めた。
両親の声が、ふすまの向こうから聞こえていた。言い争いではなかった。でも、ひそひそと張り詰めた空気の中で、「ローン」「引き落とし」「足りない」という言葉が断片的に耳に入ってきた。
布団の中で、私はじっと息を潜めていた。
お金の話が聞こえてくると、何か悪いことが起きる。
その夜の記憶が、私の無意識の中に深く刻まれた。
心理学では、幼少期に形成されたお金に関する無意識の思い込みのことを「マネースクリプト」と呼ぶ。アメリカの心理学者ブラッド・クロンツが提唱した概念で、簡単に言えば”お金にまつわる心の台本”だ。
「お金の話はしてはいけない」
「お金のことを考えると不安になる」
「お金は争いのもとだ」
こうした台本は、親の言動や家庭の空気から、子どもがじっと観察しながら自分の中に取り込んでいく。怖いのは、本人が気づかないまま、大人になっても動き続けることだ。
あの夜、息子に「なんで節約しろって言うの」と言われたとき——私は自分の中の台本に気づいた。
私は、息子にも同じ台本を渡そうとしていたのかもしれない。
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FIREを目指して消耗していた頃の話
30代前半、私はFIRE(経済的自立・早期退職)を本気で目指していた。
毎月の支出を細かく管理して、外食を減らして、妻に「もう少し節約できない?」と何度も言った。投資の含み損が出るたびに眠れなくて、市場が下がると胃が痛くなった。
数字は着実に増えていた。でも、生活は少しずつ、すり減っていった。
息子が「アイス買って」と言うたびに、私は反射的に「今日はいい」と答えていた。理由を説明したことはほとんどなかった。「節約しなきゃいけないから」と口では言いながら、本当はお金のことを考えると怖かったから、深く向き合いたくなかった。
ある日、当時7歳だった息子が「パパって、いつもお金ないって言うね」と言った。
我が家の金融資産は、そのとき既に数千万円を超えていた。
息子の目に映る私は、「いつもお金がない、不安そうなパパ」だった。
その言葉で、私は何かが崩れる音を聞いた気がした。
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6歳の息子が財布を持ってきた夜
あれから少し経った頃、6歳の次男がリビングに小さな財布を持ってきた。
「パパ、これ数えて」
中を開けると、お年玉の残りらしき千円札が2枚と、どこかでもらったのか50円玉と10円玉が数枚。全部広げると、キラキラした目で私を見上げた。
「全部でいくら?」
一緒に数えながら、私はその顔をじっと見ていた。
次男の目には、不安のかけらもなかった。怖さも、緊張も、ない。ただ純粋に、目の前の丸くて光るものを「楽しいもの」として見ていた。
お金を、まだ何にも汚されていない目で見ている。
「ぜんぶで2260円だよ」と伝えると、「じゃあアイス何個買える?」と即座に聞いてきた。「130円のアイスなら、17個は買えるね」と答えたら、「すごーい!!」と飛び上がった。
そのとき、静かに気づいた。
お金の話って、こんなに楽しくできるんだ。
心理学の研究によれば、子どものお金に対する感情的な態度は8歳頃までにおおよその方向性が決まるとされている(クロンツ&クロンツ, 2009)。「怖いもの」「汚いもの」「楽しいもの」「ワクワクするもの」——どんな感情と結びつくかは、この時期の体験と、親の言葉と表情が大きく左右する。
次男はまだ間に合う。そして長男も、今ならまだ間に合う。
そう思ったとき、このシリーズを書こうと決めた。
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お金教育の本当の目的は「数字」じゃない
少し前の私は、子どもへのお金教育というと、こんなイメージを持っていた。
おこづかい帳をつけさせる。節約の大切さを教える。投資の仕組みを伝える。
でも今は、それが表面的な話だと思っている。
数字や知識よりも前に、育てるべきものがある。
それは、お金と向き合える「心の土台」だ。
私が10年以上投資を続けてきてわかったことがある。お金で失敗するときのほぼすべては、情報の問題ではなく、心の問題だということ。
「みんなが買っているから焦った(同調バイアス)」
「損を認めたくなくて、ずっと塩漬けにした(損失回避)」
「自分を罰するように、わざと不利な選択をした(自己妨害)」
大人だって、感情がお金の判断を歪める。子どもは、もっとダイレクトに感情で動く。
だから、子ども時代に育てるべきは、「お金と安心して向き合える心」だ。
欲しいものがあっても少し待てる力。
使い方を自分で考えられる力。
失敗しても「次はこうしよう」と立て直せる力。
お金がなくても、自分の価値は変わらないと知っている安心感。
これは全部、数字の話じゃない。感情と、心理の話だ。
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このシリーズで、一緒に歩くこと
|回 |対象年齢 |テーマ |心理学キーワード |
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|第1回(今回)|全年齢 |なぜ今、お金教育なのか |マネースクリプト・感情記憶|
|第2回 |3〜5歳 |「お金って何?」を体験で知る|具体的操作・感覚記憶 |
|第3回 |6〜8歳 |おこづかいと「小さな失敗」 |自己決定感・遅延満足 |
|第4回 |9〜11歳 |予算と「選ぶ力」を育てる |比較思考・メタ認知 |
|第5回 |12〜15歳|働く・稼ぐ・自分を知る |アイデンティティ・価値観 |
年齢に合わせて気になる回から読んでもらってもいい。ただ、なぜその年齢にそのアプローチが必要なのか——その心理的な背景は、この第1回にまとめている。悩んだときに戻ってきてほしい。
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まず今夜、一つだけやってほしいこと
難しいことは何もしなくていい。
今夜、子どもと一緒にご飯を食べながら、こう聞いてみてほしい。
「今日の夕ごはん、全部でいくらかかったと思う?」
正解を教えることが目的じゃない。「いくらだと思う?」と聞いたとき、子どもがどんな顔をするか。どんな言葉が出てくるか。それが今の「お金との距離感」を教えてくれる。
そして何より、「うちはお金の話をしていい家だ」ということが、その一言で伝わる。
それだけで十分だ。
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次回予告
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第2回:3〜5歳「“怖くない”お金との最初の出会い方」
「ダメ、高いんだから!」——この一言が、子どものお金への恐怖心を育てることがある。幼児期の脳はまだ抽象概念を処理できない。だからこそ、この時期に必要な関わり方がある。次男との実際のやりとりを交えながら、3〜5歳に合ったアプローチをお届けします。
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
「うちもそうだった」「こんな経験がある」——そんな声が一番の励みになります。コメント欄で、ぜひ聞かせてください 🙌
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