言葉を選ばないオウム | ショートショート
港町は、午後になると色を変える。
潮を含んだ風が石畳をなぞり、古い建物の影がゆっくりと伸びていく。倉庫を改装したカフェや、観光客向けの土産物屋が並ぶ通りの先に、小さな広場があった。
錆びた鉄柵の上に、一羽のオウム。
羽は鮮やかで、くちばしは磨かれた木のように艶がある。観光客が立ち止まり、順番に声をかける。
「こんにちは」
「コンニチワ」
オウムは言葉を返す。
声は澄んでいて、抑揚も正確だ。
「雨の午後の孤独」
「アメノヒノゴゴハコドク、ワタシハコドク」
人々は笑い、スマートフォンを構える。
次の言葉が与えられる。
「コブラ参院選についてどう思う?」
「コブラ、サンセイイケン、ワタシハソウオモウ」
オウムは、言葉を返す。
意味の重さも、奇妙さも、すべて等価に。
横に立てられた説明板には、簡潔な文章が添えられていた。
―この鳥は、人の声を学習します。
―たくさん話しかけてあげてください。
ベティは少し離れた場所で、それを眺めていた。
港の向こうでは、船のマストが風に鳴り、波止場ではロープがきしむ音を立てている。
オウムは、意味を取らない。
与えられた言葉を、返す。
言葉を選ぶ必要がないからだ。
観光客が去ると、鳥は静かになった。
自分から何かを言うことはない。
ベティは、広場を抜け、
港に沿って歩き出す。
行き先は決めていなかった。
そのとき、ポケットの中でスマートフォンが震えた。あの日の夜行列車の、創作論の続きだ。
【ケイティ】
創作の一番大事な瞬間を人に委ね続ける。
それってクリエイターなのかな?
ベティは画面を見て、そのままポケットに戻した。港町の風が、言葉の残り香をすべて攫っていく。
