ヒナコのガールズトーク | 🍳目玉焼きは選択だ
私は塩胡椒派です。
🧂
朝食バイキング。三人はそろって、白い皿に目玉焼きをのせて戻ってきた。
北関東にある、小さな温泉街の旅館。
朝湯の温かさが、まだ身体の芯に残っている。
ヒナコにとって、これは数少ない「女子旅」だった。大学時代、同じゼミで机を並べていたカナエとサオリ。議論のテーマはカントからショーペンハウアーまで飛び散っていたはずなのに、結局最後に残るのは「お昼は何を食べる?」の問いだった。三人の関係はいまもその延長にある。
テーブルに腰を下ろすと、ヒナコはためらいなく目玉焼きに塩胡椒をふった。黙ってフォークを入れる。
「シンプルすぎない?」
カナエは醤油を垂らし、にやりと笑った。
「こうじゃなきゃ、日本の朝ごはんじゃない」
サオリはソースを回しかけ、誇らしげに言う。
「これが、世界の標準語だから」
調味料ひとつで、三人の皿はまるで別の料理に見えた。
会話はひとしきり盛り上がってから、自然にデザートの話題へと滑り出す。
「私はフルーツかな。朝のビタミンって大事でしょ」カナエがオレンジを手にしながら。
「ヨーグルトがいい。整う気がするから」ヒナコは無表情でスプーンを差し込んだ。
「そもそも、朝にデザートって必要?」サオリがフォークを回すように言った。
ちょっとした沈黙のあと、三人とも笑った。
窓の外では、まだ低い山の稜線の向こうから日が射し始めていた。障子越しにこぼれる光は淡く、湯けむりをまとった温泉街の屋根を照らしている。食堂には、器が重なる小さな音と、味噌汁の湯気に混じる出汁の匂い。隣の卓では、子供が牛乳瓶を両手で抱え、こくりと飲んでいた。
旅の朝は、どこか非日常で、同時にありふれてもいる。三人の皿の上の目玉焼きも、その一部にすぎなかった。
女子のおしゃべり――それは止まらない。
ひとつ終われば、また次へ。輪のように。まるで永久機関だ。
🍳
いかがでしたてしょうか?
今回はハードボイルドで行こうの特別編。語り口がだいぶ違いますけど笑
本家は毎週金曜日に公開します。私が何か迷うたびに一本できるので、ネタが渋滞しており、たぶんあと1年は続くでしょう。ご贔屓に。
よしまるさんの企画に参加してみました。
