終わらない時間 | ショートショート
通りの角にある雑貨屋は、午後の光をやわらかく溜めていた。
「閉店セール」と書かれた紙が、窓の内側に貼られている。
少しだけ斜めで、貼った人の気配が残っている。
ベティは扉を押す。
ベルが、控えめに鳴る。
棚には、小さな白い皿が並んでいた。
薄くて、指先に吸い付くような質感。
重ねると、かすかに音がする。
ひとつ持ち上げる。
軽い。
この店で、似たような皿を買ったことがあった。
あのときは、まだ——
ベティは皿を戻す。
指先に残った冷たさだけを持って、外へ出た。
🥂
ひと月後。
同じ通り。
同じ窓。
「閉店セール」
今度は、色の深いグラスが並んでいた。
底に近づくほど暗くなる緑。
光を通すと、少しだけ水のように揺れる。
ベティはそれを手に取る。
縁の厚みが、ほんのわずかに不揃いだった。
こういうものに、名前はついていない。
でも、ちゃんと理由がある。
あのときは、まだ——
グラスを棚に戻す。
ベルが、前より少しだけ長く鳴った。
🐻
三ヶ月後。
空気がひとつ、季節を越えている。
「閉店セール」
店の奥に、木彫りのクマがいた。
やや前のめりで、両手を揃えている。
表情はなくて、ただ木の目だけが残っている。
どこから来たのか、よく分からない佇まい。
ベティは近づく。
クマは、ずっとそこにいたようにも見えるし、
今日、初めて置かれたようにも見える。
指で触れる。
ざらりとして、少しあたたかい。
この店で、こんなものを見た記憶はない。
でも、なかったとも言い切れない。
あのときは、まだ——
ベティは手を離す。
クマは何も変わらず、そこにいる。
何も買わずに、外へ出た。
🕰️
夜。
ケイティからLINEが届く。
「あの店、ずっと閉店セールしてない?」
ベティはしばらく画面を見ていた。
白い皿。
深い緑のグラス。
木彫りのクマ。
どれも、確かに違っていた。
でも、どこか同じ場所にとどまっている。
返信はしなかった。
通りの角の雑貨屋を思い出す。
窓に貼られた紙。
少しだけ斜めのままの、閉店セール。
あの店が売っているのは、閉店セールなのかもしれない。
