割り算だけ、なぜ時間がかかるのか。——リレー式計算機を自分で再現してわかったこと
先日、カシオ計算機の創業者・樫尾俊雄氏の自宅跡を改装した記念館、樫尾俊雄発明記念館(世田谷区)を訪れました。存在を知ってから予約が取れるまで、数ヶ月。予約枠が少なく、平日日中のみのせいか、予約がとれるまで思ったよりも時間がかかりました。
予約して気づいたこと
案内には「最寄駅からバスで」とあったのですが、地図を見るとそれほどの距離でもありません。結局、往復とも歩くことにしました。少々長めの散歩、というくらいでちょうどよい距離でした。
受付で気づいたのですが、どうやらこの記念館、予約枠ごとに1人か1組限定のようです。私の回もマンツーマンで、スタッフの方がたっぷり1時間半、計算機・時計・楽器の展示を丁寧に案内してくださいました。美術館や博物館とはまるで異なる、落ち着いた濃密な時間でした。
余談ながら、樫尾氏はかつてこの地に住んでいらっしゃいました。私も割と近所に住んでいた時期があり、もしかすると自転車で自宅前を通りかかったことがあったかもしれません。

机を占有していた計算機が、26年間でポケットに入った
展示のなかでまず目を引いたのが、カシオ14-Aの実物です。
1957年に発売された世界初の小型純電気式計算機。「小型」といっても当時の基準での話で、現物は机の上にどっしりと鎮座する大きさです。それでもコンピュータに数千〜1万個以上使われていたリレーをわずか341個に絞る回路設計で、「机上サイズ」を実現したのがこの機械でした。
14-A・AL-1 解説動画(YouTube・計3分20秒)
世界初の小型純電気式計算機「14-A」と、その2号機「AL-1」を紹介する公式動画です。
・(冒頭から)14-Aの概要
・(1分37秒前後から)割り算の計算の様子
・(2分27秒前後から)AL-1の紹介
機能的には今の電卓とほぼ同じ——加減乗除、メモリ計算、GTなど——でありながら、その後わずか四半世紀あまりで劇的に変化していきます。1972年にポケットサイズの「カシオミニ」、1983年には厚さ0.8mmの「SL-800」。約26年間で重量は1万分の1以下、消費電力は約1500万分の1になりました。
実物を時系列に並べて見ながら、その変化の速さをじっくりと確かめられるのが、この記念館ならではの体験だと感じました。
「割り算は、計算に時間がかかります」
計算機の実演をしていただいているとき、スタッフの方がおっしゃった言葉。
「加減乗除のうち、除算(割り算)だけ、計算に時間がかかります。」
実際にキーを押して計算していただくと、確かに割り算のときだけリレーが動き続ける時間がほんの少し長い。パチパチという音が続きます。
……なぜなのでしょう。
なんとなく気になって、アプリで再現できるか、試しにやってみました。
AIと一緒に作った「リレー式計算機 再現アプリ」
というわけで、AIを使って再現アプリを作ってみました。

このアプリで実装したのは、2つのことです。
① 割り算で時間がかかる、を再現
割り算の計算過程を実際に動かしてみて、理由がわかりました。加算・減算はそのまま1回の操作で終わります。乗算も、繰り返し加算でわりとシンプルに完了します。
ところが除算は異なります。「引けなくなるまで引き続ける」という操作を、各桁ごとに繰り返す必要があります。「何回引けるか」を数えることで商を求めるわけで、桁数が増えるほど操作回数が増えていく。リレーが動き続けるのは、この「繰り返し引き算」をしているからでした。
② 手書きの割り算と「同じ考え方」であることの再現
学生の頃にやった、あの筆算の割り算を思い出してみてください。上から順に「何倍か?」を考えながら引いていく、あの作業です。
14-Aがやっていることの基本的な考え方は、あれと同じです。アプリ内でその計算過程も可視化してみましたので、並べてご覧いただくと「ああ、そういうことか」と腑に落ちていただけるのではないかと思っています。
自分としては「まあ再現できたかな」と感じているのですが、皆さんはどう思われるでしょうか。ぜひコメントで教えていただけると嬉しいです。
「時間は1秒1秒の足し算」
時計の展示でも、印象的な言葉がありました。
カシオが1974年に発売した初の腕時計「カシオトロン(QW02)」は、電卓の発想——数を積み上げる計算——をそのまま時計に応用したものだといいます。「時間は1秒1秒の足し算」という発想から、大の月・小の月を自動判別するオートカレンダー機能が生まれました。月末に手動で日付を直す手間が、この一つの考え方で消えたわけです。
発売50周年の復刻モデル「TRN-50」をうるう年の2024年2月29日に発売したという演出も、なんとも粋だと感じます。
余談ですが、手元にある別メーカーの「パーペチュアルカレンダー」付き腕時計も、かろうじて現役で動いています。
「なぜ?」を持ち帰れる場所
樫尾俊雄発明記念館は、無料で、予約さえ取れれば1対1で案内していただける場所です。展示を「見る」だけでなく、実際に計算機を「操作」して解説を聞けるその体験が、「なぜ割り算だけ時間がかかるのか」という問いを持ち帰らせてくれました。
気になった方は、ぜひ予約を取ってみてください。数ヶ月待つことになっても、その価値は十分にあると思います。
2026/6/22投稿
