見出し画像

「彼らは何を示したのか」 (リーグ第34節・清水エスパルス戦:5-3)

試合後のミックスゾーンで試合を振り返る選手たちに笑顔はなかった。

キャプテンの脇坂泰斗の指摘が、チームの現状をよく物語っている。

「こういうゲームになってしまうから、今の順位であったり、ルヴァンを落としたりするんだと思います。ただ、得点のところは自分たちの良さではあるので、守備のところでもう少し改善できると格段に良くなっていく感覚もある。それを引き続き、やっていくしかないと思います」

監督会見での長谷部茂利監督も同様だ。

「ちょっと私自身は素直に喜べないというか、得点はとりましたが、失点が多すぎると思いますし、反省しているところです」

 会見中の指揮官は、終始苦い表情だった。

 それでも、勝利したという事実は残る。
勝ち点3を積み重ねたことで、町田ゼルビアを抜いて6位に順位は浮上した。何より、この試合における結果が、今のチームにとっていかに大切だったのか。その重要性をよく理解して臨んでいたと脇坂は明かした。

「難しいゲームの後はすごく大事でした。今回に限らず、シーズン通して戦っていくと、何回もそういった難しいゲームが訪れる中で、このままズルズル行くのか。ホームでできるっていうのは僕らにとってすごくポジティブでした。立ち上がりから勝ちに行く姿勢っていうのは出せたかなと感じました」

 姿勢を強調する彼の言葉を聞きながら、ふと思い出した記憶がある。
それは8年前の2017年9月、ACL準々決勝で浦和レッズに大逆転で敗退した直後、前代の14番である中村憲剛の試合後の言葉だ。

 背景を少し説明すると、3-1のアドバンテージを持って臨んだACL第2戦で、川崎フロンターレは先制しながらも退場者を出して1-4の大逆転負けを喫した。アジア初制覇の夢が潰え、鬼木フロンターレ初年度における苦い記憶として刻まれた黒星である。8年前の悪夢を思い出すような大逆転敗退を、先日のルヴァンカップ準決勝でクラブは味わった。

 あの8年前、敗退直後に迎えた中2日の試合を川崎は3-0で勝利している。試合後、中村憲剛はこう口にしている。

「技術とかそういうことよりも、今日はメンタル。気持ちで戦うというところだった」

 戦術的な分析や狙いも重要だが、あの試合に限っていえば、「絶対に試合に勝つ」、「自分たちのボールを渡さない」、「奪われたら全力で奪い返す」といった選手個人のメンタリティー、もっといえば「ど根性」がピッチのいたるどころで表現されていたからである。

 サッカーを見ている人の心を本当に揺さぶるのは、技術よりもタマシイ。そして、あの試合では選手たちがそれをピッチで表現していた。そしてこの年、あの負けを大きな糧にしたチームはあまりに劇的な形でリーグ初優勝を成し遂げている。

 あれから8年後。
同じように。悔やんでも悔やみ切れない敗退の直後に対峙するのは清水エスパルス。偶然にも、8年前と同じ対戦相手だった。

 あのときと違うのは、川崎にとってはリーグタイトルは現実的ではなくなった中で迎える一戦だということ。

 大きな目標がなくなり、気持ちを切らしていてもおかしくない。しかし、ここでひと踏ん張りできるかどうか。メンタル的にも苦しいのはわかっているが、それでもみんなで歯をくいしばって戦わなくてはならない。
 
 それが問われている試合だからこそ、「誰が何を見せるのか」を見届けようとピッチに目を配った。

すると開始4分。電光石火の先制弾が生まれる。決めたのは現14番だ。

「自分自身が何かを示さないといけないっていうのはあった」

 この試合に向けて秘めていた思いを、脇坂泰斗はそう口にした。

 さらにその3分後の7分には、佐々木旭が追加点を記録。
コーナーキックからのこぼれ球を拾ったファンウェルメスケルケン際のミドルシュートが枠を逸れると、咄嗟に足で反応。角度が変わった軌道が、あっさりとゴールネットに吸い込まれた。

 チームにとっては久しぶりとなるコーナーキックからの得点だった。それ以上に、あの敗退後、誰よりも悔しさを露わにしていた男の足元に、あの場面でボールが向かってきた。いや、あれは引き寄せたのだ、とも言いたくもなる。そんな偶然があるから、サッカーは面白いのかもしれない。

 そして3-0のスコアを示すゴールを伊藤達哉が決めた瞬間、時計の針が示していたのは12分20秒だった。公式記録では13分である。

 試合開始15分にも満たない立ち上がりの時間帯に、川崎フロンターレはすでに3つものゴールを積み重ねていたのである。

※10月21日は練習公開日でした。
週末のセレッソ大阪戦に向けた取材でしたが、清水エスパルス戦の振り返りもありました。

 チームは勝利したものの、課題もいくつか出ました。とりわけ、いま向き合うべき課題は、明確だと思います。そこを佐々木旭と山本悠樹に深掘りして聞かせてもらいました。2つのポイントで、合計で約4000文字の追記となっております。

▶︎(※追記:10月21日)「前半で自分たちがやれることはわかってるので、無意識のところだと思います」(佐々木旭)。無意識だからこそ根深いチームの課題にどう向き合うのか。意識を切らすことなくやり続けるために必要なこと。

▶︎ (※追記2:10月21日)「直近の試合でも、色々と伝えようとか変えようとかはしたけど、なかなか伝わりきらず、うまくいかずにああいう後半の過ごし方になってしまった。自分に対する物足りなさ、フラストレーションはある」(山本悠樹)。いかに味方に働きかけながら、チームとして頭の中を揃えるのか。責任を持って見つけなければならない最適解。


ここから先は

15,355字

¥ 500

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

ご覧いただきありがとうございます。いただいたサポートは、継続的な取材活動や、自己投資の費用に使わせてもらいます。