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「小さな歴史の詩」(リーグ第1節・名古屋グランパス戦:4-0)

割引あり

 去年4月、山内日向汰はリーグ第7節のFC町田ゼルビア戦でJ1リーグプロ初先発を飾っている。場所は等々力だ。

 前半から守備に追われる時間帯が長く、ボールを持ってからの攻撃で持ち味を出せる場面はほとんどなかった。

それでも38分、チーム初シュートを山内が打っている。左サイドから強引に仕掛けてシュートを放ったもので、「なんとかして爪痕を残したい」という意地を示すようなプレーだった。

 ハーフタイムには交代を告げられた。悔しさしか残らない45分で、山内日向汰ののプロ初スタメンは幕を閉じている。試合は0-1で敗れており、当時首位だった相手に力負けしたと言える敗戦となった。

「試合に入る難しさと、一つのミスで試合の展開が大きく変わると実感したので、そこにこだわってやって練習してきたいと思います」

 試合後のミックスゾーンに現れた彼に呼び止めて感想を聞くと、鎮痛な表情で反省の言葉を口にしている。

そこから質問を続けようにも、前半だけの出場でほとんどボールにも触る機会もなかったので、何を聞くのかも難しかった。顔をよく見ると、その目が赤くなっていたようにも見えた。だからといって、苦渋の表情を浮かべる彼にかける慰めの言葉も持ち合わせていない。

ただただ、自分に厳しく目を向けて言葉を絞り出していた。

「やり直したいと思います。自分が求めているものが達していなかった。それでもやっていかないといけないです」

 自身のサッカー人生に残るであろう感情を抱えながら、彼はしっかりと話してくれた。プロとしてピッチに立つことで、敗れたことの悔しさや、勝つことの本当の喜びも初めて知るわけで、それはピッチに立たないと味わえないものだ。この悔しさをパワーに前に進んでいってほしいし、いつか報われてほしいなと思った。

 あれから約8ヶ月後。
2025シーズンの開幕戦となった名古屋グランパス戦で、ヒーローインタビューを受けていたのは、山内日向汰だった。

試合を決定づける3点目を決めると、果敢なドリブル突破からダメ押しとなる宮城天の4点目もお膳立て。堂々の1得点1アシストだ。

「シンのヘディングがバーに当たったと思うんですが、シンなら勝つと思っていた。GKのこぼれを狙っていました。決めるだけだったので、決まって良かったです」

山内日向汰にとっての山田新は、年は一個上の存在だが幼馴染でもある。下部組織では中学生から共にプレーし、大学も一緒だ。山田が競り勝つと確信したヘディングのこぼれ球に、誰よりも早く反応して冷静にゴールネットを揺らした。

 これが嬉しいプロ初ゴール。ガッツポーズを見せて走り、駆け寄る選手たちによる大きな歓喜の輪が出来ていた。勝利を大きく引きず寄せる3点目となった。

 試合終盤には、アカデミーの同期である宮城天にアシストも決めた。こちらは小学生からの付き合いだ。山内が右サイドから鋭い突破を見せると、ニアサイドにポジションを取る宮城の足元に丁寧に合わせた。

「天のヒールシュートまでイメージしていました。小学校からああいうゴールを決めていたので、天は。イメージ通りに決まって良かった」

 ゴール前にいたエリソンがマイナスのポジショニングを取ると、その空いたニアサイドに宮城天はすかさず入って行く。そしてバックヒールで華麗に流し込んだ。

 かつてレアンドロ・ダミアンがよく決めていた技だが、あれはそこにボールが来る予測と準備がないと出せないプレーである。宮城本人に聞くと、出し手が山内日向汰だったからこその準備と確信があったと明かしてくれた。

「日向汰が仕掛けるのはわかっていたので、先に入って準備できていました。アカデミーの同期だし、長い時間やっていたのでそれで相手よりも早く動けた。あそこはヒールしかなかったと思います。フリック(軽く触って微妙に軌道をずらす)しても、あんまり入るイメージはなかったので。日向汰からファーにボールが来たことないのでニアだったらと。それは昔からずっとですね」

 二人が紡いできた小さな歴史を垣間見れるようなゴールだった。

 この4点目で完全に勝負あり。
高井幸大の先制点を皮切りに始まったアカデミー育ちのゴールショーで、長谷部茂利監督は等々力での初陣を飾った。

一方、相手の名古屋グランパスのシュートはわずか1本。この試合における枠内シュートも0である。完勝だったと言っていいだろう。

 試合後の長谷部監督は、「前半と後半とで違うチームだったと感じるくらい、後半は非常に良かったです」と述べていた。言い換えると、前半は決して良い内容ではなかったのだが、0-0で終えた前半にこそこのゲームのヒントがあったようにも感じた。

ゲームのタクトを振るうボランチの河原創に、前半をどう捉えていたのかを尋ねてみた。饒舌ではないが、こちらの疑問にはしっかりと答えてくれるタイプだ。

「なかなかボールを持てていなかったという印象が強いかもしれないですけど、意外と中でやっている人たちからすると、このままでOKだよねという話はしていました」

 それほど問題のない前半だった、という認識だ。
その背景を深掘りしていくと、この試合における構造に加えて、長谷部フロンターレの試合の進め方もしっかりと浮かび上がってきた。


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