舟運と街道が交わる地に市場が開かれた。
豪雪の恵みたる清水から織物産業が興る。
そして時代は移り変わり過疎が街を襲う。
過疎の山間地に北川フラム氏が招かれて、
越後妻有の舞台にはアートの祝祭が灯る。
いつしか世界から数十万訪れる光の陰に。
芸術の熱量を地域経済へ繋ぐ道を探すも、
古きアーケードには空き店舗が並ぶまま。
三年に一度巡り来る巨大芸術の波の前に、
支え続ける地域の人々の肩に負担が募る。
他者を迎え入れ続ける姿勢を維持する為、
農村の人々は季節毎のもてなしに勤しみ、
限られた担い手への依存が隠れた疲労へ。
新規プレイヤー参入の余地は街に乏しく、
一過性の賑わいのみが街の活力を左右し、
冬季の観光のみに頼る頃と何ら変わらず。
顔の見える確かな暮らしをここで守る為、
街の持続可能性の為に官民関係を再構築、
祝祭の興奮を日常収益化する事が不可欠。
アートの賑わいを街の経済に繋げるには、
誰かのデザインを街に並べるだけでなく、
芸術性を鑑賞の行為に留めるのではなく、
街のあり方自体を誰がデザインするのか。
その視点が求められているのでは無いか。
1996年の新潟県提唱によるアート地域活性化構想に端を発した、大地の芸術祭拠点施設である「越後妻有里山現代美術館MonET」。2012年の改修により整備された現代美術館スペースに加え、温泉施設等を有している。1階の回廊部分を無料化した効果により、2024年には約12万人の入館者を記録しているが、その人数がまちへ染み出すという効果はどれほど見られているのだろうか。
現代美術館MonETから徒歩5分ほど行くと全長1kmのアーケード街が始まる。市で設置した幾つかの拠点施設への案内などはブランディングされた案内板により丁寧に周知されているが、途中の店舗のシャッターが上がっている様子はほぼ見られない。空き店舗を資産と捉えて、アーティストレジデンスとして活用を進める、アート活動をサポートする協力隊の拠点を置く、等はどうだろうか。現代美術館MonETと隣接するドライブイン的機能を有するクロス10との間で、大半の経済的行為は完結していると思われるが、如何に。
市が進める、まちなかステージづくりプロジェクトの一環として、空き店舗ビルを改修して2016年に開設された、市民活動センター「十じろう」。本施設の活用計画策定に当たっては、著名なstudio-Lがワークショップを通じた意見集約を担っていた様子である。セットバックした建物前広場では小規模なマルシェも開催できるようであるが、その様子は見られなかった。
十じろうのギャラリースペースと思われるエリアの様子。この日は利用されている様子もなく、もちろん次回展示の案内もなく、活用団体の募集の様子もなく、電気も消え、ただトイレへ向かう通路としてのみ機能しているようだった。施設開設から10年が経過し、有機的に活用するという当初の意思は、現在の指定管理者「NPO法人市民活動ネットワークひとサポ」にまだあるのだろうか。
前述の十じろうと対を成す「分じろう」は、同様2016年にstudio-Lの関与により開設された市民交流センターで、旧市役所本町分庁舎のリノベーションによって生まれた施設。十じろうが地元住民の創作の場としての位置付けに対し、こちらは多様な人が集う交流の場として位置付けられており、運営は同様に「NPO法人市民活動ネットワークひとサポ」による。こちらもセットバックした建物前広場では小規模なマルシェも開催できるようであるが、その様子は見られなかった。
確かに自習する学生の姿はあり、公民館活動としての利用のために集まる団体もいるようだった。しかし、街での回遊性を高め、アート目的で訪れる来訪者を各店舗へ結びつける核となる存在の不在が課題となっているだろうこの街において、現状の十じろうと分じろうは、課題解決に貢献していると言えるのか。「空き店舗はある、しかし十じろうと分じろうの役割とは全く別の話である。」と言われているように思われた2施設であった。指定管理者制度の成果指標の改善により対応ができるものなのか、指定管理制度においては受託者の熱量を産む事が難しいのか、現状では私も考えはまとまらない。
十じろう・分じろうと同じく「十日町市中心市街地活性化基本計画」に盛り込まれ、まちなか産業・文化発信拠点施設整備事業として2015年に誕生した「十日町市産業文化発信館いこて」。豪雪地帯の伝統建築である「雁木」を現代解釈した特徴的な木造2階建て建築で、手塚建築研究所による。指定管理者制度により運営される本施設の1階には飲食店舗が入居し、現在でも営業が行われているようであったが、多目的スペースとして位置付けられた2階については、生ビール樽や店舗備品らしきものが積み上げられ、交流の場として活用されている様子は見られなかった。指定管理者への仕様の詳細は分からないが、自主企画によるコミュニティ開発が難しい現状が見て取れた。
1キロ以上にわたるアーケードの終着点には、全国チェーンのドラッグストアがあった。業種の良し悪しを述べる訳では無いが、車での来店と大量購入を前提に、医薬品で利益を出し食品や日用品を格安で提供する営業形態は、まちなかでの個人事業主の顔が見えるウォーカブル経済圏の確立に向けた大きな障壁となっているのではないか、と最近思うことが多い。
十日町市役所や越後妻有文化ホール段十ろうに車で集まる市民を一手に引き寄せる複合商業施設のシルクモール。このような複合型商業施設と個店とがその役割を分担し共存するために、どのような地域として再設計されるべきか、という観点でまちづくりに向き合う必要があるのだと思う。民間事業に行政が口を挟むべきではない、という議論は百も承知であるが、十じろうや分じろう、いこてはどのような役割を果たすべきか、という観点で施設を再検討することも必要ではと感じる。
1997年の北越急行ほくほく線開業を契機にして、2013年までの20年間に渡り行われた「十日町駅西土地区画整理事業」により整備された駅西口の様子。田畑や低未利用地が中心であった駅西側エリアの基盤整備が行われ、併せて広い歩道が整備されたもの。北陸新幹線の延伸によりほくほく線がローカル化、インフラ整備完了による地価上昇と需要のミスマッチ、幾つかの予測不能な外的要因も含み、現状においては幾つものアートオブジェが並ぶ、人のいない駅前通りが完成していた。
駅西口区画整理後に進出した事業所数件のうちの一つが、トヨタレンタカー。車でなければ回ることが難しい、大地の芸術祭のニーズに対応するためらしい。しかし宿泊施設の少ない十日町では芸術祭来訪客の宿泊需要を満たすことができず、多くは湯沢駅から会場を訪れる現状があるようだ。それに伴い、トヨタレンタカーでも、湯沢・十日町どちらの店舗へ返却しても良いように対応していると聞いた。区画整理は多くの労力を要して実施する事業であるが、経済的な果実は十分に還元されると言い難く、その実例の一端である。
駅西側において区画整理前の父親の代から文具業を営んでいたというギャラリー6坪の外観。右側は牽引タイプのキッチンカー。上記のトヨタレンタカーの件、地域おこし協力隊の地元定着の件、アートプロジェクトが地元住民にもたらす功罪の件を含め、清津峡でのキッチンカー営業も行うという店主からは、実に多様で貴重な話を美味いコーヒーと共に聞くことができた。まちあるき活動の新たな楽しみである。
十日町駅構内の観光案内所の様子。右側には案内所の職員らしき2名が座っていたが、左側の物販スペース及び飲食店スペースと思われるエリアは改装中なのだろうか、寂しく取り残された空間になっていた。常駐の2名は駅利用者への芸術祭パスポート発行及びレンタサイクル手続きという一定の役割を担うのだろうが、市の観光案内所である以上、理想はエリア全体の観光をマネジメントするべきかと思う。観光先進地の様な民の熱量を感じにくいが、実情は如何だろうか。
観光案内所と同様、駅構内にはチャレンジショップが設置されており、こちらは利用者で賑わっていた。この日は十日町市下条でThe Honk-tweetCafeを営む店主が営業していた。扉の向こうで設計上閉鎖的な印象がある観光案内所に対して、こちらのスペースは開放感があり、雑談の中で地域情報を得ることもできるのだろうと推察される。まちと芸術祭との関係を踏まえた駅の役割の再定義を行う中で、この駅にはどのような機能が求められているだろうか。
かつての十日町市の基幹産業であった着物・織物産業の衰退に伴って役割を終えた、旧十日町織物工業協同組合の高田町加工場跡地。現在は、NPO法人が建物及び土地を取得し、給食業務やクリーニング業務などを行う就労継続支援B型事業所として運営されているようであった。こういった織物産業の遺産に民間のアート産業が着地できれば面白いと思うが、自律的かつ持続的な運営に至るのは難しいのだろうか。
図書機能と情報発信機能を備えた複合型の市立図書館で、1999年の開館ながらも設計者である内藤廣氏(東京大学名誉教授)の手による建築は古さを全く感じない。フラットな屋根と大きく張り出した梁が特徴的で、2013年公開の映画「図書館戦争」のモチーフにも選ばれている。
仕切りのない大きなワンフロアの中で、階段やスロープにより傾斜が設けられており、歩きながら本を探している気分を味わうことができる。蔵書は約8万冊で、視聴覚エリアやレファレンスルームも一体的に整備されている。2階部分から1階部分にかけての吹き抜けからは、大きく開口した窓から十分な採光があり、館内の柔らかな雰囲気を醸成している。
築40年以上が経過し老朽化が進んでいた、旧十日町市民会館及び中央公民館の建て替えとして、2017年にオープンした文化拠点であり、前述の十じろう及び分じろうとの連携によるまちなかに人の流れと賑わいを産み出すための文化の核としての位置付けもなされている施設。周辺に設けられた大型駐車場の利用状況により、多くの来館者がある様子は見て取れたが、建設コンセプトにもあるという、街中への人の流れを産み出す役割については、全く体感することができなかった。
空き店舗が目立つ本町アーケード街の中で気を吐く、創業1955年の蕎麦の名店、越後十日町小嶋屋。布海苔のつなぎを使ったへぎそばが名物。アーケードや公共施設等の設備は整うものの、ウォーカブルとしての要素を感じにくかった十日町中心市街地の中で、唯一、実際に回遊性における価値を産み出せると感じた場所。そして、唯一、民間発での熱量を感じた場所。この貴重なポイントから街へ広がりが産まれるための更なる取り組みが、このアーケード街を変えるのではないかと期待したい。
まちあるきの際は地元で昼食をとることにしている。へぎそば2人前(2,240円)と舞茸天ぷら1人前(850円)をセットで頼み、夫婦二人で食した。布海苔の香りがするへぎそばは喉越しも極めてよく、ひと口サイズに丸められた蕎麦をテンポ良く、気分良く食べた。席数も約90席と大きな店舗であるが、この様な規模で運営できていることが、街中の食の核であることの表れなのであろうか。実に満足な食体験であった。【まちあるき私的指標】
本スコアは、実際に歩いた際の実感に基づく個人の主観的な評価です。
歩行空間の質:★★★★☆
滞在の快適さ:★★★☆☆
街並みの活力:★☆☆☆☆
官民の繋がり:★★☆☆☆
都市の物語性:★★★★☆
【都市診断:5つの私的指標の解説】
歩行空間の質:道の広さや安全性。誰もがストレスなく歩ける環境か。
滞在の快適さ:居心地の良さ。ベンチやなど、留まりたくなる仕掛け。
街並みの活力:1階部分の質。街に開かれた店舗、持続的な賑わい。
官民の繋がり:連携の質。道路と私有地の一体感、空間を使いこなす。
都市の物語性:ストーリー性。歩くことで感じる街の歴史や深み。