桐生市|大きな器と適量の器。どちらが得するのか|まちある記056

絹織物の産地として栄えた桐生の街の歴史、
養蚕と絹が支えたものづくりの街の原風景。
のこぎり屋根の工場群に機械音が響き渡り、
東の桐生と称された栄光の時代が刻まれる。
時代とともにアパレル需要や産業は変わり、
人口は減少し経済規模の縮小が影を落とす。
縮小する人の量に比べて街の器は広すぎて、
密度を失った空間には遊休店舗が点在する。
点在する空き店舗を繋ぐように若者が動き、
まちなかでは新たな飲食や創業が生まれる。
桐生ガスや民間企業による投資機運も残り、
祭りの日には住民の強い結束が熱気を呼ぶ。
しかし日常の経済を支える生活人口は減り、
一過性のイベントだけでは街の未来は遠い。
移住や関係人口の拡大に活路を探るものの、
減少の潮流にあらがうことは容易ではない。
かつての巨大な街の器と現在の需要の格差、
縮小する人口規模に見合う都市の密度とは。
過去の繁栄をそのまま取り戻すのではなく、
自然体で持続可能な街をどう再構築するか。
歴史的素材と個別の挑戦が交差するこの街、
人と人が関わり合う日常の経済をどう残し、
僕らは次の世代へどんな街を渡すのだろう。

JR桐生駅の南口周辺エリアには桐生高校や樹徳高校という二つの高校があり、更には桐生市役所や美喜仁桐生文化会館、桐生市立図書館などの主要な公共施設が配置されている区域である。エリアの印象としては閑静であり、私が訪れた休日午前の人通りは少なく歩行者は見かけなかった。登下校の時間帯にはまた違う印象なのだろう。学校と官公庁、生活のエリアが混在するが、南側に流れる渡良瀬川によって街の区域を物理的に区切られているのが、大きな特徴となる。
桐生駅構内では、エキナカショップ「オーライ」をはじめとする活用や、地域住民・利用者が関わる市民活動推進センター「ゆい」など参加型プロジェクトなどの取り組みが展開されている。一方で、こうした施策は駅利用者との接点を生み出す一方で、駅周辺エリアや商店街への新規出店や広域的な経済波及へ結実するかという観点については、依然として検討の余地を残していると思う。
桐生織物記念会館は、奈良時代から続く1300年超の絹織物づくりの歴史や、近代に「西の西陣、東の桐生」と称された一大産地としての記憶を伝える重要な文化的資産である。建物自体は歴史的な産業の足跡を刻む価値を持つ一方で、運営主体による現在の内部展示については、静的な資料陳列が中心となっているようで、訪れた者(この日は私と妻の二人)の心を動かすほどの体験的インパクトや発信力は(少なくとも私たちには)感じなかった。正しさを残すのも重要な要素であるが、より魅力的に感じてもらう努力を併せて行うには、やはり運営形態をどうするかが重要だと感じた。
中央前橋駅と西桐生駅を結ぶ上毛電鉄の終着駅である西桐生駅舎は、1928年の開業当時の姿を残す洋風木造建築であり、国の登録有形文化財に指定されている。同電鉄では、追加料金なしで車内に自転車を持ち込める「サイクルトレイン」を日常的に運用しており、通学や買い物を支える生活の足として定着しているのが特徴。モータリゼーションや沿線人口の減少により長期的には利用者の落ち込みが見られたものの、近年は年間50万人規模の乗降客数で推移しており、地域密着型のローカル線として一定の需要を維持している。
桐生市立図書館は、1983年に開館した鉄筋コンクリート造一部3階建て、延床面積約3,500㎡の公共図書館。蔵書数は約38万冊、館内には一般開架・児童コーナーのほか、郷土資料室や集会室などを備え、知の拠点としての役割を果たす。一方で、昭和後期の建築様式によく見られるように、図書への紫外線照射による劣化を防ぐためか、外壁の開口部が小さく、館外から内部の様子を伺うことが難しい。建物に閉鎖的な印象を与え、前庭や周囲の歩行空間からは遮断され、街並みや周囲に対して閉ざされることは、図書館をまちなかに置くことによる効果を十分に発揮するうえでは、課題になっているのではと思う。
新川公園は、行政管理の公共空間でありながら自由度の高い活用が認められているエリアであり、先日も一日券5,000円の「KIRYU FESTIVAL 2026」のような大規模な有料イベントが企画・開催されている。自治体ごとに公園活用の裁量は異なるが、桐生市は民間による利活用の自由度を比較的高く許容している様子が窺える。一方で、こうした特定のイベント利用への寛容さは、日常的かつ多様な担い手を育てる仕組みとはまた別の論点として捉える必要もあって、公共空間の持続的な維持と活用に問いを投げかけている。
桐生市役所新庁舎は、久米設計により2024年11月竣工(2025年1月開庁)した。環境配慮(ZEB Ready等)や防災拠点の確保をコンセプトに、合併特例債や庁舎整備基金を充当し、総事業費約100億円で整備されBCS賞(日本建設業連合会建築賞)を受賞するなど意匠・機能面で高い評価を得ている。一方、隣接する美喜仁桐生文化会館は1997年竣工の坂倉建築研究所による設計で、織物の街にちなむ繭を模した造形と開放的なアトリウムが評価され、第39回BCS賞を受賞した建築的遺産でもある。総事業費約146億円で建設され、この両施設が官公庁・文化エリアにおける核をなしている。
桐生市街の屋根付き商店街(本町・末広町周辺など)では、シャッターを下ろす店舗が目立ち、全体として暗い印象を否めない。全長1キロメートルを超える複数のアーケード街が連なる広大な規模を持つが、その中では新たな店舗の誕生も散見される。ただし、起業家が集まる集団(クラスタ)が生まれるわけではなく、各店舗は映画館で席を空けて座る心理のように意図的あるいは構造的に距離を置いて点在する傾向がある。この集積しない個々の展開が、熱量の高すぎない、独特で冷静な街並みの雰囲気を形作っている。そうした点在する拠点の中でも、写真の「ふふふ」は若者の交流の場(ユーススペース)として活用され、Instagram等のSNSでも賑わいを見せる象徴的なスポットとなっている。
商店街の北端、中心部からは比較的外れに位置する「PLUS+アンカー」は、かつて染色業を営んだ昭和初期の古民家をリノベーションしたコミュニティカフェ兼交流拠点。運営を担うのは、地元で不動産業を営む株式会社アンカー。同施設ではカフェ営業にとどまらず、イベントの企画や持ち込み企画の受け皿、空き物件見学ツアーや古民家再生ワークショップの拠点として多様な挑戦を支援している。 さらに、運営関係者が都市再生特別措置法に基づく「都市再生推進法人」の指定を受けるなど、公的な位置付けを持った民間のまちづくり主体として官民連携の推進にも寄与している。中心市街地の周縁にありながら、人や情報をつなぎ止める「頼みの綱(アンカー)」として機能し、新規移住者や創業者が街に参入する際の間口を開くなど、飲食・イベントスペースを超えて桐生のまちづくりと新陳代謝を支える拠点の一つとなっている。
桐生市街には往年の繁栄を思わせる個性的な建築が多く残されているものの、その多くは活用されないまま点在している。エリア自体が広大であることに加え、特定の地域に起業家が集積する集団(クラスタ)化の機運が生まれにくいことが、結果として個別具体的な拠点がポツンと独立して点在する傾向を強めている。こうした状況に対しては、街全体を面として一括開発するのではなく、例えば「地区別包括支援センター」のように中心市街地のエリアごとに空き店舗インキュベーター(小さな創業支援・実験拠点)を分散して配置し、各エリアで機能させる手法が有効と考えるがどうだろう。個々のエリア特性に応じた出店支援や挑戦の場が芽吹くことで、点在する拠点同士がゆるやかにつながり、街全体の持続的な新陳代謝へと結びつくことが期待できる。
桐生市街地でjazz & blues bar「Village」を営む宮原美絵氏は、自身も群馬県を代表するジャズボーカリストとして活躍する傍ら、群馬大学生をはじめとする若いジャズ愛好者が集う場を形成している。店舗でのセッションを通じてプロ奏者も輩出するなど若手ミュージシャンの育成に大きく貢献するほか、「桐生JAZZ FESTIVAL」をはじめとする数々の大規模イベントの企画・運営を手掛け、音楽文化を通じた地域のにぎわい創出とコミュニティ形成という面で非常に重要な役割を果たしている。
表通りから一本入った「糸や通り」の端に位置する「オカベパックス」の店主・岡部信一郎氏と、後継者の片山翔平氏は、長年にわたり通りの賑わい創出や空き店舗問題の解消に尽力してきた。その象徴的な取り組みとして、地域密着型イベント「糸や通りいらっしゃいませ」を年2回のペースで継続開催しており、通算開催回数は50回を超えている。長年にわたる実践を通じてコミュニティの場を維持し、通りの活性化とまちの賑わいを草の根から支え続けている。
中心市街地の賑わいから離れた重伝建地区は、伝統的な建築群と歴史的な佇まいを残す街路で構成されたエリアである。この地区では月に数回の小さなマルシェイベントが日常的に頻繁に開催され、草の根的な集客を見せている。しかし、写真にある市が運営する「桐生まちなか文化館」などの公的施設は単なる来訪者案内や資料提示にとどまっているようで、マルシェ等の情報を告知することはあっても、エリア全体の魅力創出や持続的な賑わいづくりへ主体的に関与しているとは見えなかった。本来、こうした歴史的価値とイベントの芽が存在するエリアでこそ、単なる観光案内を超えてプレイヤーを育てる「インキュベーター(創業・活動支援の仕掛け)」機能が求められているのではないだろうか。
重伝建地区の交差点に位置する「四辻の齋嘉」は、かつて買次商を営んだ歴史的な古民家・蔵群を整備・保全した拠点である。現在、建物自体は改修を経て地域の貴重な建築ストックとして存続し、その情緒ある庭や駐車場などの敷地はマルシェやクラフト市といった各種イベントの会場として頻繁に活用されている。建築物そのものの佇まいや雰囲気を愛好するイベント関係者・出店者からの需要は高く、催事の場としては定着している。しかし一方で、その活用は一過性の「イベント空間」としての利用に留まりがちであると思われる。出店者や来訪者が周辺に店舗を構えるといった、エリア全体への日常的な定着や持続的な経済循環の創出に結びついているのだろうか。
桐生西宮神社では、「オカベパックス」の店主・岡部信一郎氏と後継者の片山翔平氏が世話人を務め、伝統行事の継承と地域の賑わい維持を支えている。特に片山氏は、本家である兵庫県の西宮神社にならい、桐生でも初となる「福男選神事」の開催を主導するなど、伝統に新たな風を吹き込んできた。加えて片山氏は、家業の傍ら「暮らしづくり会社いろといろ」の代表取締役も務め、独自の事業活動を展開している。地域課題への着手と賑わい創出の双方において実践を重ねる両氏は、桐生・大間々エリアの活性化を牽引するキーパーソンとなっている。
桐生市街地に位置する店舗は、元々「長崎屋桐生店」として移転開業した歴史を持ち、その後の長崎屋グループのドン・キホーテ傘下入り(子会社化)に伴い「MEGAドン・キホーテ」へと業態転換を果たした。現在では空き店舗の目立つ市街地において、数少ない集客力を有する商業の核として機能している。一方で、同じ群馬県内の太田駅前(旧長崎屋太田店/ドン・キホーテ太田店)では、老朽化や採算性の問題から2000年代に撤退し、長年にわたり跡地利用が進まなかった事例が存在する。撤退した大型商業建築を居抜きで取得し活用する手法は、市街地に商業機能を維持できる反面、将来的な撤退時には大型建築物の取り壊しや跡地活用問題を地域に残す可能性もあり、都市経営における持続可能性の課題を提示している。
市街地の中心部に店を構える「菓匠青柳」は、長年にわたり伝統の味を護り続ける老舗和菓子店。かつては時代のニーズや購買動線の変化に合わせて多店舗展開を推し進め、地域における存在感を高めてきた歴史を持つ。3代目社長(現・代表取締役会長)を務める宮地由高氏は、和菓子の製造・販売を通じた本業の発展だけでなく、産業遺産である旧東洋紡織のノコギリ屋根工場を再生・活用した「ノコギリ屋根店」を開店させるなど、歴史的建造物の保全・活用にも先見性を発揮してきた。また、店舗経営にとどまらず、地元の商店街組織や桐生商工会議所での役員歴をはじめ、桐生市観光物産協会の会長やNPO桐生市ボランティア協議会の会長を歴任するなど、地域の商業振興・観光推進・福祉発展に関わり、長年にわたりまちづくりを支え続けてきた存在。商業の構造変化が進む現代の市街地において、暖簾を守りながら地域コミュニティや経済組織を長年にわたり支えてきたキーパーソン。
桐生ガスは、地域密着のエネルギーインフラ企業として都市生活を支えるにとどまらず、中心市街地の賑わい創出や地域活性化を側面から支える民間プレーヤーとしての役割を担っている。同社は、「桐生まちづくりファンド」や都市再生推進法人(UNIT KIRYU)をはじめとするまちなかの空き家・空き店舗再生スキームへの投資や連動、移住・創業支援事業への協力など、市街地の新陳代謝や地域基盤の維持に向けた複数のプロジェクト・まちづくり投資に関与している。また、コミュニティFM「FMきりゅう」の運営や立ち上げにも深く関与し、情報インフラの観点からも地域の情報発信やコミュニティ形成を後押ししている。同社が店舗や拠点を構える本町5丁目交差点周辺は、桐生八木節まつりにおいて大きな櫓が組み上がり、熱気と踊り手が交錯する「まつりで最も盛り上がる中心地」でもある。
本町5丁目に位置する桐生市観光情報センター「シルクル桐生」は、2020年3月にオープンした公民連携(PPP)による観光まちづくり拠点であり、群馬銀行桐生支店の店舗建替え計画に伴い両者が締結した「包括的連携・協力に関する協定」に基づいて開設された。本施設は群馬銀行が自行敷地内に支店本館と庇で繋がる別棟を建設・整備し、その建物を桐生市が借り受ける枠組みを採用したことで、市は大規模な初期投資を抑えつつ一等地に拠点を整備することに成功している。現地では市職員が常駐して観光案内や観光振興業務を直接担うほか、物産・特産品の展示や販売業務は(一社)桐生市観光物産協会等へ委託され地域おこし協力隊も参画する。敷地内には低速電動コミュニティバス「MAYU」の停留所やイベントスペースが併設されており、金融機能と観光拠点・物産販売が融合したまちなか周遊の要として機能している。
桐生八木節まつりは、地域の伝統芸能や織物文化の歴史を継承・保存し、世代を超えて街のアイデンティティを幾重にも受け継ぐ重要な基盤として機能していた。期間中は市街地全体が圧倒的な「非日常」の祝祭空間へと変貌し、普段は静かな日常を営む沿道の店舗群も通りへ開かれ露店や特設スペースを展開して熱気を生み出していた。しかし、その圧倒的な集客は桐生駅から美喜仁館前などの一部主要エリアに集中する偏りを見せており、一歩離れた他の通りでは人通りが途絶えるといった密度の差が顕著に現れていた。桐生駅から重伝建エリアまでの広さは、県内屈指の規模を誇る桐生八木節まつりの熱量でも埋めきれない大きさである。また、まつりが持つ膨大な人出と祝祭の熱量を、365日の「日常の店舗消費」や持続的な地域経済へと連動・還元させる仕組みを構築することは極めて難しく、県内屈指のイベントへの狂騒と県内屈指の中心市街地の空洞化というギャップは浮き彫りになっていた。桐生には、かつての繁栄が残した大きな街の器がある。しかし、人口や需要が縮小する中で、その器をかつてと同じ密度で満たし続けることは難しい。だからといって、街の器そのものを小さくすることが正解とも限らない。点在する歴史資産や店舗、若いプレイヤー、民間企業の投資、祭りの熱量をどうつなぎ直し、縮小した需要に見合った新しい密度をつくるのか。桐生に問われているのは、過去の規模を取り戻すことではなく、大きな器をこれからの暮らしに合わせて使いこなす方法なのかもしれない。

【まちあるき私的指標】
 本スコアは、実際に歩いた際の実感に基づく個人の主観的な評価です。
 歩行空間の質:★★☆☆☆
 滞在の快適さ:★★☆☆☆
 街並みの活力:★★★★☆
 官民の繋がり:★★★☆☆
 都市の物語性:★★★★☆

【都市診断:5つの私的指標の解説】
 歩行空間の質:道の広さや安全性。誰もがストレスなく歩ける環境か。
 滞在の快適さ:居心地の良さ。ベンチやポケットパークなど、留まりたくなる仕掛け。
 街並みの活力:1階部分の質。街に開かれた店舗、持続的な賑わい。
 官民の繋がり:連携の質。道路と私有地の一体感、空間を使いこなす。
 都市の物語性:ストーリー性。歩くことで感じる街の歴史や深み。

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