益子町|陶器に依存した市街地と新たな芽吹きの郊外|まちある記042

戦国期の城跡が伝える古い歴史を秘める地、
宇都宮氏の拠点が築かれた時代から続く街、
濱田庄司の民藝精神を受け継ぐ美しい並木。
茅葺きの古民家は今も大切に残されていて、
山と田畑と空が近い暮らしに人が集うのか。
ウォーカブルはまちのごく一部にしか無く、
コロナを経た街のあり様の変化を実感する。
共販センター周辺のにぎわいは翳りを見せ、
衰退の影が忍び寄る中心地の寂しさを歩く。
一方山手エリアには新たな営みが生まれる。
町中に佇む空き店舗の活用は未だ先を見ず、
地域おこし協力隊の若者が新たな光を灯す。
新しい力が古い街並みに変化を起こす兆し。
週末の土曜日でもこの街には人の姿が稀で、
陶器市の時期のみ人の波が押し寄せるのか、
イベントの熱気と日常の静けさが交錯する。
外からの来訪者に向けて特化した街の構造、
無料駐車場から離れた地に集まらない人々、
この街の日常を支える小売業の苦戦の現状、
非日常の街は果たしてどこを目指すべきか。


1977年に竣工、RC造3階建ての益子町役場。脱炭素化と災害時避難所機能強化のための長寿命化改修工事が進められている。どこかメタボリズム建築を思わせるような外観でもある。観光商工課内に未来共創係が設置されており、陶芸文化等を活かしたまちづくりが進められている。


1913年に陶器輸送などの機能を含めて開設された益子駅で、現在の駅舎は老朽化に伴い、1998年に建設されたもの。1999年にはその特徴的な建築が評価され、関東の駅100選にも選出されている。陶芸エリアへつながる東口には保健センターやデイサービスセンター、デマンドタクシー発着所などの公共機能が集約されており、平日も相応の人手が集まるよう設計されている。
令和6年度末に策定された益子都市計画マスタープランにおいて、東口エリアが市街地と指定されているのとは対照的に、西口エリアは田園都市共生エリアと指定されており、閑静な住宅地が広がっている。
駅前から東に伸びる益子本通りの駅付近での様子。町唯一の駅を降りたところが最も歩道が狭いことからも、鉄道を利用する歩行者を受け入れる観光地ではないと分かる。現在、マルシェ等の社会実験や街路等整備等の基幹事業は計画されているようだが、歩行空間の確保については特段の予定が無い。鉄道の機能面と併せ、有効な活用が図られるとエリアの魅力が向上すると思うが難しいのか。
2009年のアートイベント「土祭(ひじさい)」をきっかけに誕生したコミュニティカフェで、日替わり店主により運営されている。イベントに関わった作家や地域住民などの有志により設立・運営されているようで、町などからの助成は受けず、カフェ手数料や利用料収入から家賃支払等を行っている様子。現在でもカフェやギャラリーのほか、映画上映会などでも利用されているようだった。
旧むらた民芸店を改装した町が運営するチャレンジショップで、出店期間は2年以内、使用料は売上の3%(公共料金は別)とのこと。月50万円の売り上げでも使用料はわずか15,000円(公共料金は別)。飲食対応の2槽シンクはもちろん、スチームコンベクションオーブンも備えている。過去に2件の入居者があり、現在は3件目の羽釜ごはん畦花が入居している様子。
過去にチャレンジショップに入居していたこともある、栃木県真岡市出身で、益子町地域おこし協力隊の経験がある早瀬友貴さんが、町の起業支援制度であるチャレンジショップ(上述)への入居を経て開業したコミュニティカフェ「Midnight Breakfast」で、チャレンジショップ入居期間の終了後、クラウドファンディングでの資金調達を経て2024年に現在の新店舗へ移転している。
写真はMidnight Breakfastのアボカドトースト350円、ツナきゅうり400円、ホットラテ600円。私と妻が飲食している場所は、旧ガソリンスタンドの自動車整備スペースであった場所をリノベーションしたもの。このスペースでは、カフェ商品の飲食もできるが、madeinという別名義の店舗として、アップサイクル商品や古着屋雑貨等の取り扱いもしている。


益子町には内町屋台パーク、新町彫刻屋台展示館、田町屋台展示場などがあり、各々に益子祇園祭などで引きまわされる町指定の有形民俗文化財である彫刻屋台が収蔵されている。ここは内町屋台パークの様子で、この日は町内役員と思われる方々が夏に向けて屋台の点検をしているようであった。
江戸寛政年間(1789~1801)に創業した藍染工房と住居を兼ねる建物で、その歴史的価値から日本遺産や県の有形文化財にも指定されている。工房内は見学可能となっていて、機織りや染色工程を見学したり、藍染シャツやコースター等を購入することもできるようであるが、我々の訪問時には来館者はいなかった。陶器との親和性もあるようなので、一定のニーズはあると思われる。


日下田藍染工房から益子焼窯元共販センターの区間においてのみ、歩道の拡幅と電線地中化が行われており、この区間を観光客が行き来することを想定してまちが設計されている。古民家や大家石造りの蔵も多く、建造物としても街並みとしても見応えのあるエリアである。
藍染工房から共販センターの区間は益子町でもメインエリアであるが、日常使いとしての陶器の需要低下があるのか、多くの直販店は活気を失い、誘客も難しい状況ではと感じた。全国に知られた陶器の街であるが、その中心地は新たなにぎわいのあり方を模索する局面が迫っているのだろうと、ぼんやりと思っていたが、この先の共販センターを目にしてその予感は現実になる。
観光が主要産業の一つである益子町において、まさに核となっていた益子焼窯元共販センターであるが、2026年3月に運営会社の益子焼窯元共販が事業を停止、破産を申請する見通しとなっている。この日も敷地内には人影がなく、益子町への影響は限りなく大きいと思われるが、毎年恒例の益子陶器市は例年通り開催されるなど、イベントとしての影響は少ないようである。
碧い器(あおいうつわ)で知られる窯元直営のギャラリー兼食事処「陶知庵」。土日を中心に観光客から人気を集めているとのことであったが、益子焼窯元共販センターの破産を受けて、営業の状況は大きく変わっているものと推察される。現在は、全国の陶器市やイベントにも精力的に出店している様子。
現在の益子町の基礎を作ったうちの一人とも言える、人間国宝に認定された陶芸家の濱田庄司が使用していた登り窯が残る、陶芸広場。隣接する旧濱田庄司邸と併せ、共販センターからの観光ルートとしてまちの中核を成す施設であった場所。この日は来訪者も無く、ただただ静寂な空間だった。
ハンドメイドのひょうたんランプの専門店「ひょうたんの灯りルーム」。工房兼自宅で2〜4名の予約によりワークショップを受けることができる様子。共販センターを過ぎて山中に入るとエリアの雰囲気も変わり、歩道の整備は無く歩くには不向きであるものの、緑に囲まれて個性的な商店や飲食店が散在する街中とは違う魅力に溢れたエリアに変わる。


鎌倉から移住した宇都宮市出身で出版関係者の夫と人気パン店勤務の妻が2024年に開業した店舗「Mingel Farmhouse Beer & Bread」で、店舗名にもあるMingelは益子町のアイデンティティである民藝(Mingei)と人々が交わるという意味(Mingle)を掛け合わせたもの。木に囲まれて落ち着いた雰囲気の店内には広い飲食スペースもあり、益子町の民藝精神が郊外で体現されている現状を代表する店舗の一つであると思われる。
仁平透氏と妻の里帆氏が営む栃木県内では人気の家具店「仁平古家具店」で益子町の店舗は真岡店につづく2011年頃に開業した二号店。なお、真岡店は黒磯のSHOZO CAFE等と同様、周囲にカフェや雑貨店が続けて開業する活性化を起こす拠点となっている様子。上述のMingel Farmhouse Beer & Breadと同じく、郊外で益子の民藝精神を体現する店舗と言える。
内藤廣氏の設計により3.5億円で2002年に竣工した国民宿舎「フォレスト益子」の前で、「Mingel Farmhouse Beer & Bread」のケーキを食す風景。宿泊スペース(ロフト付きツイインルーム)のほか、レストランや公園の休憩所・案内所が一体となった複合施設であるものの、駅から離れていること、知名度が低いこと、公有施設であること等を理由にして収益の安定化には苦労しているようで、案内所は埃を被り、隣接する観光案内ビジョンは運転を停止、グランドピアノはしばらく使われていないようであった。
民芸運動を牽引した人間国宝で陶芸家、濱田庄司の自宅と工房跡を活用した濱田庄司記念益子参考館の入り口。広大な敷地に浜田が日本各地から移築した古民家や土蔵、登り窯などが点在。益子町の魂とも言える施設であろうと思う。哲学的であり参考館自体はさほどの集客力はないが、濱田庄司の民藝運動に共感した現代経営者たちが益子町郊外に引き寄せられている様子を見ると、今でも多大な影響力を持っているのだと感じさせられる。

【まちあるき私的指標】
 本スコアは、実際に歩いた際の実感に基づく個人の主観的な評価です。
 歩行空間の質:★★☆☆☆
 滞在の快適さ:★★☆☆☆
 街並みの活力:★★★☆☆
 官民の繋がり:★★☆☆☆
 都市の物語性:★★★★★

【都市診断:5つの私的指標の解説】
 歩行空間の質:道の広さや安全性。誰もがストレスなく歩ける環境か。
 滞在の快適さ:居心地の良さ。ベンチやなど、留まりたくなる仕掛け。
 街並みの活力:1階部分の質。街に開かれた店舗、持続的な賑わい。
 官民の繋がり:連携の質。道路と私有地の一体感、空間を使いこなす。
 都市の物語性:ストーリー性。歩くことで感じる街の歴史や深み。

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