小諸市|「歩ける」だけでは、街は生き残れないのか|まちある記057

古の城下と街道筋に城跡と蔵の陰影が残る街。
歩行圏に機能が集約され再生店舗が点在する。
街を細やかに紡ぐ担い手が居心地を形づくり、
その点を面へつなぐコーディネーターの存在、
歴史の空間に新たな商いが静かに根を下ろす。
車に頼らず歩いて巡る街の骨格は整っていて、
駅から歩ける範囲には街の主要な機能が点在、
広場や歩行空間は街での滞在と体験を支える。
ウォーカブルな要素を満たした街の姿がある。
一方で活用されない古民家はなおも残される。
街の人口と需要は今もなお縮小を続けている。
隣接する佐久平の街へ機能と人の流れは散開、
広域交通と大型商業の影響はこの街にも及ぶ。
歩行空間の質だけで縮小の流れは変わらない。
産業団地の造成と交通で成長する都市もある。
自動車中心か歩行者中心か都市経営が問われ、
歩行者中心のまちづくりだけが正解ではない。
過去の姿を取り戻すことだけが答えではなく、
歴史を残しつつ新たな需要を受け止めていく。
もちろん広域化と工業化の街を選ぶ道もある。
歩くことは人口減少を逆転させる魔法でなく、
すべての都市が目指すべき必須の課題でなく、
縮小する街において質を支える指針であるが、
人を中心にしない街の未来には人の姿はない。

小諸駅前に位置する「停車場ガーデン」は、市民参加のワークショップを機に誕生した市民協働の公園空間。小諸市が主体となって整備を行い、構想段階から携わった市民有志による指定管理者「NPO法人こもろの杜」が管理・運営を担当する。第19回緑の環境デザイン賞および同賞25周年記念特別企画で国土交通大臣賞を2度受賞するなど、その質の高い空間デザインと市民協働の運営手法は各種の受賞実績にも表れている。助成や事業収益を活用し、園内にはカフェやショップ、ギャラリーといったテナントが入る。定期的な園芸講座や各種イベントの場として活用され、持続的な交流と賑わいを創出している。
小諸駅は、1997年の北陸新幹線(長野新幹線)開業に伴う信越本線の経営分離を経て、第三セクターの「しなの鉄道」とJR小海線が乗り入れる共同使用駅となった。北陸新幹線開業など広域交通の構造変化に直面するなか、乗車人員は1日平均約3,000人規模を維持し、北国街道の宿場町や懐古園を擁する観光都市・小諸の玄関口としての役割を担い続けている。小諸市・JR東日本・しなの鉄道の連携のもと、駅構内や駅前広場の再整備、バリアフリー化が段階的に進められた。並行在来線の経営分離という厳しい課題に対し、行政と鉄道事業者が協働で利便性を維持しながら、「身の丈に合った駅の姿」を模索し続けている拠点である。
小諸駅前の一角に広がる居酒屋・スナック街は、かつて鉄道交通の要衝として多くの観光客やビジネス客が行き交った昭和期に、駅前の夜間経済を支える宴会・飲食拠点として形成・集積したエリア。1997年の並行在来線経営分離に伴う乗降客数の変化や団体観光モデルの変化、経営者の高齢化等を背景に、近年はシャッター化が進み、衰退の局面に直面している。一方で、駅から徒歩圏内にコンパクトな都市機能が集約する小諸の中心市街地において、このレトロな路地空間と建築群は「昭和の都市の記憶」を留める空間ストックでもあり、今後活用の可能性を有するエリアでもある。
小諸ゆかりの文豪・島崎藤村が通った一膳めし屋「揚羽屋」の1階をリノベーションし、2025年6月にオープンした「おむすび&カフェ AGEHAYA」。建物の活用を進めるオーナーから1階の運営者募集を受けた長谷川大輔氏が、大手飲食店本部での企画経験を活かして起業するため埼玉県から小諸へ移住し開店に至ったという。店内は和モダンな雰囲気を生かしたくつろぎ空間となっている。メニューは地元産の五郎兵衛米や富士屋の味噌、丸山珈琲など、地域にゆかりのある素材や商品にこだわっている。今回は「極厚銀鮭焼き魚定食(1,150円)」と「だし巻き玉子定食(750円)」を食した。歴史あるストックを活用しながらまちに新たな日常の賑わいを生み出す滞在拠点である。
小諸駅周辺の地域活性化と「歩行者中心のまちづくり」を目指し整備された「まちタネ広場」。行政と民間・市民が連携して運営体制を構築、マルシェや地域イベントの場として活用される一方、イベント非開催時の日常的な人通りの創出や、季節・天候による利用ムラなど、持続的な利用に関する課題にも直面してきた。現在は過剰な施設整備を行わない「余白」のある芝生空間として機能しており、隣接地では老舗の山吹味噌(酢久商店)、小諸市、UR都市機構が連携する公民協働プロジェクトが展開されている。歴史的建物を改修したスイーツ製造工房やカフェ(GR caffè)の開業準備が進むなど、官民で活用を進めてきた広場と隣接する歴史的ストックの利活用が一体となった、新たな文化・観光交流拠点としての形成が進められているエリアである。
令和の大修理が行われている国指定重要文化財「旧小諸本陣」に隣接する旧医院をリノベーションし誕生した暫定拠点「まちタネLABO」。将来的な本陣の機能補完やエリアの価値向上を見据え、市民やクリエイターが将来の利活用や新たな文化創生をともに考え、実践する場として整備された。小諸市、こもろ観光局、株式会社URリンケージ等による官民連携の事務局体制のもと、初期段階から多様な担い手が参画し、DIYや柔軟なルール設計を通じて空間を共創。開設後の3か月で約40件、約30種類に及ぶ文化的活動や交流イベントが展開され、過剰な施設整備に頼らず、実践と対話を通じて街の未来を育む実験的なインキュベーション拠点として試験運用されている。
北国街道沿いでは、歴史的建築ストックを活用したカフェやギャラリー等、多様なリノベーション店舗の出店が相次いでいる。街角の表現空間は都市の文化度を示す指標となり、歩行者に豊かな路上体験をもたらす。この背景には、行政の支援に加え、地元商人や市職員有志が立ち上げた「おしゃれ田舎プロジェクト」等、民間主導のエコシステムが存在する。足で探した独自の空き家リストの運用やチームでの伴走支援、オーナーの不安を解消する丁寧な仲介により、出店実績は70件を超えた。駅舎を活用した「小諸駅のまど」をはじめとする多様な個店が歩行圏内に集積し、身の丈に合ったストック利活用と「顔の見える人のネットワーク」が街の賑わいを支えている。現在は郊外や移住支援へ幅を広げ、「貸したがらない」オーナーと挑戦者をつなぐ都市再生の仕組みとして機能しているようである。
小諸駅から徒歩圏内に建つ「旅の宿 長寿楼 -CHOJURO-」は、築100年の古民家を再生した1棟貸しの宿。元は雑貨屋を経て「やきとり長寿楼」として親しまれた建物で、空き家化の後にアンドクラフト株式会社が継承している。先代の屋号と開放的な吹き抜け構造を受け継ぎ、2025年9月に開業したもので、施設内にはグルテンフリースイーツ等を扱うカフェ「koti days」が併設され、宿とカフェが一体となった交流拠点が形成されている。
小諸駅から徒歩約5分、旧北国街道沿いに佇む蔵をリノベーションした「ドメイヌ ドゥ アライ」がある。三國清三シェフに師事し「オテル・ドゥ・ミクニ」で研鑽を積んだ後、軽井沢「ドメイヌ・ドゥ・ミクニ」で料理長を務めた新井康久氏が2024年7月に独立開業した完全予約制フレンチレストラン。季節の食材を生かした繊細な一皿を提供し、歴史的な建築ストックの魅力を活かした隠れ家的な空間で上質な食体験を創出しており、北国街道の街並みに新たな食文化と交流の深みをもたらしている。
小諸の地で1674年の創業以来、350年以上にわたり浅間山の伏流水で「山吹味噌」を醸し続ける老舗味噌蔵「酢久商店」。同社は単なる伝統の継承にとどまらず、大手門公園・まちタネ広場隣接地における「旧小諸本陣・大手門・三之門地区 文化・観光交流拠点化プロジェクト」において、行政やUR都市機構と連携しプロジェクトの一翼を担う。本店向かいの築100年を超える木造空き店舗(元お茶屋)をリノベーションし誕生させた自家製ハム・ソーセージ専門店「デリカテッセン山吹」をはじめ、歴史的建築ストックを自ら保全・活用して街の景観と賑わいを創出。周辺でのカフェ開業準備や交流拠点化の推進を通じ、老舗企業が自ら民間の軸となって街の回遊性を高め、地域の都市再生とエリア価値の向上を支えている。
旧北国街道の城下町・宿場町として栄えた小諸宿周辺地区では、歴史的街並みの保全と居住環境の向上を目指し、平成11年に制定された「小諸市小諸宿周辺地区まちづくり要綱」等を基盤として、街なみ環境整備事業などによる修景整備が進められてきた。格子や土蔵、瓦屋根などの伝統的な意匠を生かした建築物の改修助成や、電線類地中化・道路舗装といった基盤整備を官民協働で展開。歩行者スケールの豊かな路上景観が再生された。多くの自治体で同様の取り組みが行われ、その効果は様々ではあるが、小諸市においては、長年にわたる都市基盤と景観の再整備が土台となり、近年の民間主導による店舗リノベーションや街の回遊性創出を支えている点は注目に値すると思う。
小諸駅前の旧病院跡地に総事業費約30億円を投じ、2021年に完成・開業した再開発拠点「こもテラス」(基本設計:URリンケージ等)。子育て支援センターや保健機能などの公的施設と、核テナントの大型スーパー「ツルヤ」、医療機関、飲食店等の民間機能が複合した街なか拠点。日常的な買い物や子育て世代の集客拠点として機能する一方、車での直行・直帰型の利用も見られ、施設内で活動が完結する傾向があるのではないだろうか。周辺の北国街道や既存商店街への歩行者の回遊がどの程度生間れているのか、また、「施設単体での集客が街全体の回遊性や経済波及効果へどう寄与しているか」という持続的なエリア再生における効果検証については確認してみたい。
小諸市は、総事業費約74億円を投じた市役所本庁舎・こもろプラザ(石本・東浜JV設計、2015年供用、日本図書館協会建築賞受賞)や隣接する浅間南麓こもろ医療センター(2017年移転)を核に、約30億円規模の再開発拠点「こもテラス」(2021年完成)、さらには小諸商工会議所や小諸看護専門学校など、多岐にわたる公共・公益機能を徒歩圏内の中心市街地へと誘致・集積させてきた。これら公共施設の高密度な集約は、行政・医療・福祉・子育て機能の一体化によるコンパクトシティの基盤を形成する一方で、車で施設を訪れ、施設内で移動が完結する傾向にどう対応しているのだろうか。これに対し、北国街道沿いの民間リノベーション群(「おしゃれ田舎プロジェクト」等による)や「まちタネ広場」のような自走型オープンコモンズ、商工会議所等が連動することで、現状においては、公共投資によって整えられた都市基盤と、民間の店舗や歩行者空間がつながり、まちなかの経済や回遊へ波及しているように見える。
2015年7月に市役所本庁舎・市民交流センター「こもろプラザ」内へ移転開館した市立小諸図書館は、約10万冊の蔵書や開放的な開架空間、カフェを備え、2018年に日本図書館協会建築賞を受賞した知の拠点である。浅間南麓こもろ医療センターや市役所と一体化した複合施設として多くの市民を集めるが、動線は敷地内駐車場や館内で完結する場面も多く見受けられた。北国街道周辺で相次ぐ民間の店舗リノベーション(「おしゃれ田舎プロジェクト」等)で、独自の人脈やストック開拓の動きが起こってはいるが、大規模な公的投資が周辺の民間投資や歩行者回遊にどこまで影響を及ぼすのか、という疑問が浮かんでくる。明確な目的を持って整備された公共施設が、周辺エリアへどのような波及をもたらすのかについては、さらに全国での好例を収集した上で分析してみたい。
老朽化や耐震上の課題を抱えていた小諸商工会議所は、中心市街地の活性化と事業者支援機能の強化を目指し、相生町地区へ移転・新築(2020年完成・供用開始)。総事業費約3.4億円を投じ、自己資金や会員企業からの寄付金、国の補助制度等を組み合わせて整備された。同館は事務室や会議室のほか、起業家育成や街づくりの実証拠点としての機能を備える。小諸市が進めるコンパクトシティ構想や「まちタネ広場」等の歩行者空間と連動し、お試し出店から空き店舗への本格出店・事業化までを一貫して伴走しているようである。さらに、既存の地元経営者層(会員・青年部等)と新規出店者(「おしゃれ田舎プロジェクト」等)をつなぐことで、地域内での取引や協業を生み出す接点として機能している。大型公的投資の自己完結型の側面を補い、民間ビジネスの循環と街なかへの回遊を支える役割を担っている。
小諸の市街地は、西側に崖状の小諸城跡(懐古園)、東側に国道18号が通る傾斜地に挟まれた、南北に細長く伸びる地形の上に形成されている。市街地中心部を国道141号が貫くものの、広域的な通過交通の多くは東側のバイパス(国道18号)へと迂回・分流される道路構造となっている。この地形的制約と幹線道路との距離が、街なかへの通過交通の流入を抑えるフィルターのような役割を果たしている。結果として車道主体の交通負荷が抑えられ、北国街道の歴史的な街並みや駅前エリアにおいて、安全で歩行者中心の滞在空間(ウォーカブル)を成立させる物理的・環境的な後押しとなっている。
道中、TSURUYAのオリジナル商品「りんごバターアイス」を購入。1892(明治25)年に小諸で鮮魚店「海野屋」として創業し、1950年に株式会社ツルヤを設立。高品質なプライベートブランド(PB)の開発や地元農産物の積極的な仕入れなど、地域に根ざした商品展開を進めている。小諸の中心市街地においては、行政が進めるコンパクトシティ構想や官民連携による歩行者空間づくりと調和しながら、地域の日常の食生活を支える基盤として、民間主導の賑わいと経済循環を支え続けている。
小海線は、山梨県の小淵沢から小諸を結ぶローカル線であり、小諸駅を終点として地域住民の通学・通院や八ヶ岳方面への観光アクセスを支える重要な交通基盤。小諸駅全体の乗車人員は1日平均約3,000人規模で推移しており、しなの鉄道線とともに中心市街地への歩行者回遊の起点となる役割を担う。新幹線開通後の構造変化に対し、JR東日本は小諸市やしなの鉄道と連携のうえ、駅構内・駅前広場の一体的な再整備やバリアフリー化を推進。過大な開発に依存せず、既存の駅空間や運行機能を維持しながら、小諸市が進める「コンパクトシティ構想」や「歩行者中心のまちづくり」に歩調を合わせる共同事業者として、身の丈に合った拠点形成に参画する。
北国街道の面影を残す小諸城下町で、1808(文化5)年の創業以来200年以上の歴史を刻む「丁子庵」。総欅造りの商家建築が目を引く店内は、12時前にもかかわらず4〜5組の先客で賑わいを見せていた。いただいた「天ざるそば(1,980円)」は、風味豊かな手打ち蕎麦に加え、とうもろこしの甘味、万願寺とうがらしの程よい苦味、エビの心地よい歯触りが際立つサクサクの天ぷらには大変満足した。歩行の速度で街をめぐり、その土地で採れる「食」を味わう「蕎麦×まち歩き」は、親和性の高いコンテンツであると思う。
すべての歴史的ストックが活用されている訳ではないが、新たな担い手による出店と歴史的ストックの活用が、現在の街の魅力と調和している小諸は、地形的・歴史的アドバンテージも相まって「ウォーカブルの好例」と言える街並みを形成していた。しかし、この良好な流れを支えているのが近年の集中的な公共施設整備の「果実」であるとするならば、その効果が薄れ、施設が維持更新期を迎えた際にも魅力を保ち続けられるのだろうか。今後も継続的な追跡調査が欠かせない。また、官民の投資や民間進出がこれだけ実を結ぶ都市でさえも、人口減少が続く中、都市のあり方への深い問いが浮かび上がる。郊外へ安価な住居を誘導し、環境性能の高い自動車や高度な公共交通で大型商業施設へ接続しつつ、産業団地により雇用の所得水準を保つ――。一見ウォーカブルシティと相反するこの郊外型モデルとのバランスを取り、住民に多様な選択肢を提供することが、縮小社会における都市の姿なのだろうか。小諸のまちなかの姿は、都市拡大と機能維持の手段としてのウォーカブルを超え、縮小社会における都市の質と豊かな暮らしをどう維持するのかという、都市政策の本当の到達点について深く考える機会となった。

【まちあるき私的指標】
 本スコアは、実際に歩いた際の実感に基づく個人の主観的な評価です。
 歩行空間の質:★★★★☆
 滞在の快適さ:★★★★☆
 街並みの活力:★★★★☆
 官民の繋がり:★★★★★
 都市の物語性:★★★★☆

【都市診断:5つの私的指標の解説】
 歩行空間の質:道の広さや安全性。誰もがストレスなく歩ける環境か。
 滞在の快適さ:居心地の良さ。ベンチやポケットパークなど、留まりたくなる仕掛けがあるか。
 街並みの活力:1階部分の質。街に開かれた店舗、持続的な賑わいを感じるか。
 官民の繋がり:連携の質。道路と私有地がつながり、空間を使いこなしているか。
 都市の物語性:ストーリー性。歩くことで感じる街の歴史や深みが伝わるか。

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