みなかみ町|廃墟化する温泉地は身の丈に合う縮充を選べるか|まちある記043

大きな旅館が消え去り廃墟並ぶ駅前の姿。
小さな空き店舗を個人の責任で使い切る、
そんな私的な営みが街の隙間を埋めるが、
主要通りへと滲み出す空虚さは拭えない。
産官学の連携は大きな波を起こせるのか。
一葉亭の跡地は新たな開発へと動きだし、
旧ひがき寮は学びの場で息を吹き返すか。
全ての結末は今はまだ何も見えていない。
駅から近いエリアで広がる川原での活動、
ラフティング拠点が生む新たなにぎわい、
複数の魅力が繋がれば経済は回りだす筈。
かつてのインフラを守るほどの力は無く、
温泉地としての規模を縮小する時が来た。
身の丈に合う街の姿へ組み替える選択が、
廃墟と更地の街へ民間の投資を呼び込む。
社会実験の熱量を日常へ着地させる試み、
税金と寄付に頼らない持続の仕組を探り、
この街の次のフェーズはどこへ向かうか。
顔の見える経済圏をここで確立できるか、
小さな経済はまちの財政を支えられるか、
非日常の熱気を日常へ還す道はここにも。


みなかみ駅を降りると綺麗に飲食土産店が軒を並べて、乗降客を迎えているように見える。しかし、乗降客数5,000人規模であった1970年代のピーク時と比べると、新幹線開通とバブル崩壊を経た現在はその10分の1規模に落ち込んでいるとのことであり、各店舗の生き残り策も簡単なものではなく、将来への継続が約束された景色ではないことは容易に想像がつく。
みなかみ町を代表する廃墟の一つである「ホテル大宮」。1964年に田中角栄元首相の側近であった実業家が開業したホテルであり、当時は収容人数450人規模で、上越線の特急や急行から降りる多くの団体客を集める駅前経済の中核的な施設であった様子。エレベーター落下事故による営業停止処分等により1991年に廃業して30年以上経過した現在でも、権利関係や解体コストから手付かずのままとなって残され、みなかみ町の負のイメージを代表する建築となっている。
水上駅前で30年以上営業を続け2007年に廃業した宇津木書店の跡が、民間主導の「水上温泉リノベーションまちづくり」プロジェクトの一環として有志の手により2022年に再生され、現在はWalk On Water(WOW)として運営されているコミュニティカフェで、日替わりでfutamimiなど複数の店舗が運営を行っている様子。日替わりシェアによる飲食店運営は全国で見られる例であるが、店舗の入れ替えを行う意思決定の体制を含め、効果的な運営には課題も多いと思われる。


現在は国道291号線沿いに店舗を構え、生どら焼きの製造販売で広く知られる、小荒井製菓の旧本店と思われる空き店舗の様子。水上駅前から徒歩5分ほどの位置にあった。交通の要衝であった水上駅前の相対的な地位の低下に伴い、小売客が激減、生き残りと発展のために現在のロードサイドへ店舗位置を移転したものと思われるが、詳細な移転年月等の記録を確認することはできなかった。1948年創業であることは確認できたので、乗降客が激減していった2000年代頃に閉店したと推察する。
入り込み客数がピーク時から半減以下となっている水上町において、現在も不動の地位を築いているのがホテル聚楽。かつての団体客・社員旅行・学生宿泊等に対応した客室を極限まで増やす施設運営から、複数の古い客室を1つにまとめて高級化を図り、高ホスピタリティ化するなどの運営へ方針を変更したとのこと。現在も衰退が続く温泉街の巨人達の中で、一人で気を吐いている様子が窺えた。
駅前から温泉街へと続く歩行動線と、国道291号沿いの車両動線との結節点にあたり、大型駐車場のすぐそばで廉価な源泉を提供している公設の日帰り温泉・観光案内施設。観光や登山帰りの個人客を地域に回遊させる役割を期待されているものと思われるが、暗く閉ざされた印象のある正面の面構えからは、その役割を十分に果たしているとは感じられなかった。単なる廉価な温泉施設から、意欲ある民間との連携パートナーとしての昇華が必要とされている。
みなかみ水紀行館や小荒井製菓と並び、国道291号線沿いのロードサイドに位置する、みなかみエリアにおけるほぼ唯一の総合食料品スーパーマーケット。観光客以外にも、旅館ホテル従業員、アウトドア事業者等にとって、食材調達の拠点として機能している重要な役割を担っている。同じ温泉地で言うならば、草津におけるスーパーもくべえといったところであろうか。
サンモールや小荒井製菓と並び、国道291号線沿いのロードサイドに位置する、車利用者に人気の道の駅。ここは単なるロードサイドの道の駅ではなく、裏手は利根川の親水公園(清流公園)へと繋がっている。このことで、道の駅への来訪者を親水公園側のアウトドア事業者へとつなぐ役割を果たしており、また、車両の侵入が困難な温泉街への緩衝材としても、みなかみ市街地における公設の観光ハブとして重要な機能を果たしている。
景勝地である諏訪峡にかかる諏訪峡大橋には、2007年にバンジージャパンによって運営が開始された、日本でも有数の歴史を持つ常設ブリッジバンジージャンプが設置されている。関越道水上ICから温泉街へ向かう国道291号線沿で必ず目にする光景であり、水上がアウトドアの聖地であることを来訪者に強く印象付ける役割を果たしていると思われる。なお、橋の歩道部分への常設の許可については、地域経済の活性化を目的として、みなかみ町観光協会から沼田警察署及び沼田土木事務所へ使用許可が提出されている。
温泉街から一本西へ路地を入ると、車の交互通行も不可能なほどに細い路地が広がり、そこには無数の空き店舗(廃墟とも言える)が残されている。その中でもこのやぶそばはWEB上の口コミでも高評価が多く、地域における蕎麦の名店として知られているようであった。後ろに建っているのは、1992年に竣工した14階建てのリゾートマンション「ロイヤルプラザ水上」。廃墟の街並みを眼下に聳え立つリゾートマンション群が、このまちを異様な風景にしている。
全国に冷凍餃子の無人直売所を展開する「餃子の雪松」のルーツとなった店舗であり、1940年に創業とのこと。ここでの野菜餃子が評判を呼び、雪松店主の甥に当たる人物が手がけて全国展開を図った様子。現在でも夕方17時から店舗は営業しているようで、地域でもいまだに愛されている飲食店であるとのことだった。
みなかみ町商工会が事務局を務める水上温泉リノベーションまちづくりから生まれたプロジェクトで2025年11月にオープンした「matatabi」。10年ほど空き家となっていた物件を、喫茶とマイクロホテルとしてリノベーションしたもの。水上温泉リノベーションプロジェクトからは他にOCTONE Brewingや前述のWalk On Water等の10店舗が生まれており、推進役の実行委員会には、地元飲食店の雨ニモマケズやくぼ田などのメンバーが加わっている。
水上町温泉街の象徴でもあった一葉亭の廃業を受け、みなかみまち・群馬銀行・OPEN HOUSE・東京大学都市デザイン研究室が包括連携協定を締結し、廃墟再生の取り組みを2021年から進めている。具体的には国からの補助金を活用して水上町が旧一葉亭の建物を解体、OPEN HOUSEグループが事業化を目指すもので、東京大学は調査研究面で、群馬銀行は資金調達やビジネスマッチングでの支援を行っている。ホテル大宮の例もあり廃墟の街の印象があるが、このような産学官民金の連携による、ダウンサイジングのまちづくりが進められていることについて、経過を注視したい。
ひがきホテルとして1948年に創業し、バブル崩壊後に一葉亭として経営再建を目指したものの、2019年に閉業した後は約5,400坪の巨大な廃墟として、大宮ホテルと並んで街のイメージ確立に負の影響を及ぼしていた建物。上述のとおり、現在は国の支援を受けて、一部を残して再生する減築手法により、新たな商業・観光拠点としての活用を目指しているとのことで、今後、運営事業者を募ることになる様子。しかし、世界的な建築物価高騰の煽りを受け、全国各地で公共建築の実施見直しが続く中、採算が取れる民間事業者がどこまで手を上げるのか、疑問は残る。
1875年に藤屋旅館として誕生、利根川の切り立った渓谷沿いに水上温泉の源泉が湧き出ることで人気を博したものの、バブル崩壊から2000年の温泉表示問題により客足が遠のき、2009年に廃業した後は10年以上に渡り巨大な廃墟となっていた建物。都内で飲食業を展開する事業者により、2023年にインバウンド対応のリゾートホテルとして生まれ変わり、煌びやかな金色に装飾された外観から想像がつく、豪奢な施設として再生されている。インバウンド需要(主には中国人であろう)を見込んだ施設であることから、近年の訪日客の動向変化どのように影響しているのか、また、過去の中国人観光客増加による、温泉街の人流はどのようであったのか、詳しいレポートが欲しい。
旧ひがきホテルの社員寮であった旧ひがき寮は、東京大学とみなかみ町との包括連携協定を受けて学生有志が活用検討を進めてきていて、過去にもマルシェ等が開催されていた。現在は中心的な役割を担った学生は役割を終えたようであるが、その意思を受け継いだ地元有志により、この日も廃墟マルシェが開催されていた。構想としては包括連携協定に関わる各機関と民間の任意団体「ミナカミロジウラ部」が運営を行っているようであるが、そのポテンシャルとしては、別府における「清島アパート」の様にもなり得るものだ、と感じたが、全ては関係者のビジョンのあり方次第であろうか。
旧ひがき寮の一室。1階部分は概ね改装が済んでおり、多くにはキッチン・ガス設備も(稼働は不明)ある。2階部分は改装が済んでいない物件が多いようで、アーティストインレジデンスとしての本格運用には、まだ幾つかの課題がある。しかし、建物自体が魅力的であり、多くの作家を惹きつけるものであるから、個人マルシェとしてではない体制で定期的な社会実験と検証を経るならば、クリエイターたちの集まる場所としての整備が前進していく筈である。
水上温泉リノベーションプロジェクトの第10号案件であり、実行委員会のメンバーにも名を連ねるそば店「くぼ田」の久保渉氏が、駅前店舗に隣接する喫茶店「白樺」を取得し開業した、cafe&stayStellaでの様子。左側は国産鶏のごちそう唐揚げランチ1,300-、右側が身体が喜ぶcurryランチ1,300-で、どちらもご飯は十六石米に変更可。乗降客が激減する水上駅前の二店目の開店はリスクを伴うものであっただろうと想像できるが、この日も多くの来店客があり、電車の本数が少ないことを逆手に取った経営なのかな、と思いを巡らしながら、私も電車を待った。
県道沼田水上線沿いから笹笛橋方面へ入る遊歩道があり、上越線をくぐる部分がトンネルとなっている。熊出没注意の張り紙がそこかしこにあり、かなりスリリングな場所ではあるが、温泉街では味わえない神秘的な光景が広がり、大自然との距離の近さがみなかみ町のもう一つの魅力であると改めて思い、この大自然と廃墟と温泉とリノベーションとダウンサイジングとが全て混然となり、新たなみなかみのまちづくりが芽生えてくるのでは、と感じた旅であった。

まちあるき私的指標】
 本スコアは、実際に歩いた際の実感に基づく個人の主観的な評価です。
 歩行空間の質:★★☆☆☆
 滞在の快適さ:★★☆☆☆
 街並みの活力:★★☆☆☆
 官民の繋がり:★★★☆☆
 都市の物語性:★★★★☆

【都市診断:5つの私的指標の解説】
 歩行空間の質:道の広さや安全性。誰もがストレスなく歩ける環境か。
 滞在の快適さ:居心地の良さ。ベンチやなど、留まりたくなる仕掛け。
 街並みの活力:1階部分の質。街に開かれた店舗、持続的な賑わい。
 官民の繋がり:連携の質。道路と私有地の一体感、空間を使いこなす。
 都市の物語性:ストーリー性。歩くことで感じる街の歴史や深み。

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