西尾市民病院、"急性期に力を入れる"ってどういうこと?

「西尾市民病院あり方検討委員会」の傍聴メモで、市民病院が抱える赤字の状況について書きました。今回はその続きとして、隣接する碧南市との広域連携についても書いてみたいと思います。



碧南市民病院も、西尾市民病院と同様に厳しい赤字経営が続いています。近隣で同じ課題を抱える病院が並んで存在している以上、それぞれが単独で解決策を探るのには限界があります。ただ先に述べておくと、私は「合併(又は独立)すべき」など言えるほどの知見は持っていません。むしろ、「統合」か「独立」かという選択肢だけでなく、広域連携の理解を深めていきたいと思っています。

日経の有料記事ですが、考えを広げる内容に良いと思ったので紹介します。石川県加賀市で、2016年に加賀市民病院と山中温泉医療センターという2つの公立病院を統合した事例が紹介されていました。

統合前の加賀市では、両病院とも病床稼働率が60〜70%台にとどまり、夜間・時間外は当直医1人で救急に対応せざるを得ない状況が続いていたそうです。産婦人科の休止、小児科診療の中止で縮小していく中、救急搬送の受け入れ率も加賀市民病院で40%未満、山中温泉医療センターで30%未満まで落ち込みました。3人に1人の救急搬送が市外に運ばれる、という状態です。2つの病院それぞれに医師・看護師を手厚く配置し続けることが、現実的に成り立たなくなっていた、ということです。

統合から10年が経ち、加賀市医療センターの救急応需率は95%以上まで改善し、医師数も統合前の37人から57人に増加しています。人員と資産を1つに集約したことで、急性期医療の質を底上げできた、というのが加賀市の実例です。

もう一つ、記事の中で印象に残ったのが建設費の規模です。2016年当時、加賀市医療センターの整備には約107億円の事業費がかかっています。しかし、今と同じ規模の病院を建てようとすると、300億円規模になるだろう、という見立てが示されています。10年ほどで3倍近い水準です。あり方検討委員会でも新病院の建設は必須という意見が出されていましたが、築36年の西尾市民病院も、この規模の建設費を工面できるのかということも、あわせて考えないといけないところです。

西尾・碧南も、近い水準にある

今回の検討委員会で令和7年度の病床機能報告のデータを見ました。西三河南部西医療圏の病院を病床稼働率で比較したものです。

西尾市民病院の病床稼働率は70.1%、碧南市民病院は75.6%。これは、加賀市が統合を決断する前の両病院の水準(60〜70%台)と、ほぼ重なる数字です。一方で、同じ医療圏の北部にある安城更生病院は94.2%、刈谷豊田総合病院は89.1%、藤田医科大学岡崎医療センターに至っては102.4%と、いずれも高稼働で推移しています。北部の大規模病院に急性期患者の受け皿としての余力が乏しいことから、南部に位置する西尾市民病院・碧南市民病院が担う役割は、今後さらに重くなることはあっても軽くなることはなさそうです。

ただし、加賀市と同じように扱えない点は、加賀市はもともと市内3病院でほぼ完結する構図でしたが、西三河南部西医療圏は北部の大規模病院に患者が流出している構造です。2つの病院を1つにすれば済む、という話でもなさそうです。
 
加賀市が統合に踏み切った理由は、同じ機能を2つの病院がそれぞれ薄く抱え続けたためとのことです。産婦人科も小児科も両病院が維持しようとした結果、どちらも人員が足りず、共倒れに近い形で救急応需率が崩れていった形です。

そこで、「同じ機能を隣り合う病院が重複して抱えない」という発想になり、広域連携を考えることになります。西尾市民病院と碧南市民病院が、それぞれ別の経営主体のまま、特定の診療科(産婦人科や小児科、外科系など)をどちらかに集約し、回復期や地域包括ケアの機能はもう一方が厚く担う、といった機能分担です。統合の合意形成(住民説明、新病院の建設、職員の身分変更など)を経ずに着手できる分、ハードルはかなり低くなるように思えます。

急性期に力を入れるということは


ただ、機能分担にも難しい制約があるようです。日本の医療制度には、病院ごとに「うちは急性期を担う病院です」「うちはリハビリ・療養を担う病院です」と、担う機能を都道府県に報告する仕組みがあります。この報告で「急性期病院」という位置づけを強めるほど、同じ病院内でリハビリや高齢者向けケアといった機能を併せ持つことが制度上認められにくくなる傾向があるようです。

つまり、西尾市民病院が急性期に力を入れれば入れるほど、これまで担ってきた高齢者向けの療養・リハビリ機能は、他の病院や施設に委ねていく必要が出てくる可能性がある、ということです。急性期を強化する方針を取るのであれば、その分、地域包括ケアの受け皿をどこがどう担うのかも、考えないといけなくなります。ここは私もまだ勉強できていないところですけれど、西尾市が急性期に軸足を置くなら、整理する必要がありそうです。

もう1つは、経営主体が別々のままだと、一方が縮小させた機能の患者をもう一方がどう受け止めるか、という調整は、統合よりもかえって時間がかかるかもしれないですね。どこまで良い関係性を、仕組みのところで作れるかが大事になりそうです。

検討委員会の「まとめ」が示していたこと


第1回の「病床機能や連携のあり方について」のまとめは以下の通り示されていました。

・西尾市民病院の病床稼働率は上昇傾向にあり、特に急性期病床は上限に近づいていて、これ以上の急性期患者の受け入れ余地は大きくないこと。
・近隣の碧南市民病院では診療体制の変更が行われており、その影響が西尾市民病院に及ぶと見込まれること。
・西尾市・碧南市とも総人口は減少していく一方、医療需要の高い75歳以上人口は増加が続き、入院需要はむしろ増える見込みであること。
・このまま周辺医療機関の供給能力が現状維持にとどまれば、地域全体で医療供給が不足しかねないこと。
・これらを踏まえ、対応の方向性として「急性期病床の増床」が挙げられていました。

「増床」は、新たに病床を作り足すようなイメージになりますが、西尾市民病院の321床のうち、急性期病床(230床)の稼働率が78.4%と逼迫している一方、地域包括ケア病床(91床)の稼働率は49.4%にとどまっていて、半分近くが空いています。委員会の議論でも「増床」という表現ではなく、「病床の転換・移動」といった言い方の方が実態に近いという指摘がありました。つまりこれは、321床という枠組み自体を増やすというより、すでにある病床の使い道を、実際の医療需要に合わせて急性期側に振り向けていく、という話だと私は理解しています。

大事なのは選択肢を狭めないこと


碧南市民病院の意向については私は把握していません。ただ、北部の大規模病院が高稼働で受け皿になりにくい中、南部で診療体制の変更が起きれば、その影響が西尾市民病院に及ぶという見立ては、先の稼働率の数字で見れば納得できるところです。この構図が続くのであれば、西尾市民病院内での病床の使い道の見直しだけでなく、碧南市民病院との機能分担も、具体的な論点になりそうです。

統合か、現状維持か、という二択で語られがちなテーマですが、実際には統合・機能分担・現状維持と、選択肢には幅があります。どの道を選ぶにせよ、同じ機能を隣り合う2つの病院がそれぞれ薄く抱え続けることの限界は、加賀市の事例が示す通りです。機能分担のような中間的な選択肢も含めて、専門委員の中で議論されることを期待しています。


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