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掌編小説│水の中の恋は、声にならない

水族館の、クラゲの展示室。
青白いライトの中、クラゲがゆらゆらと漂っていた。

静かに泳ぐその姿は、どこか夢みたいで、
私は、となりに立つ彼の横顔をちらりと見る。

「ねえ、きれいだね」
「うん、クラゲって、見てると時間の感覚なくなるよな」

そう言いながら、彼はポケットからシャープペンを取り出し、
スケッチブックにペン先を走らせた。

彼は絵がうまい。
ふだんはあまり言葉を多く語らない彼だけど、
こうして絵を描いているときは、何かとても素直だ。

「私にはこんなふうに描けないな」
「……でも、君のほうが言葉のセンスあるじゃん」

それが、彼の“やさしさ”なのは分かっている。
でも、私はまた少し、心が揺れてしまう。

展示室を出て、ベンチでお弁当を広げた。

「これ、卵焼きだけ自信作」
「……おいしい。すごく」

彼は笑って言った。

でも、私は思ってしまう。
(それ、本音? それとも、ただの社交辞令?)

――「社交辞令は、よしてくれ」
心の中でだけ、つぶやく。

それでも、また好きになってしまうのだ。
ゆっくり、深く、水中に沈んでいくみたいに。

この気持ちは、クラゲみたいにゆらゆらして、
手で掴むことはできないけれど――
私は今日も、彼の言葉に、期待してしまう。


お題に参加させていただきました✨
ありがとうございます😊

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