掌編小説|春一番が吹く道で
春一番がびゅうっと私たちの間を吹き抜ける。
駅から少し先。地元を歩いていると、視線の先に通っていた高校が見えてきた。
レンガの門に、あの頃と全く変わらない校舎。
私はそれを、ちらりと見やる。
「ここが、私の母校」
隣にいる遥輝くんへ、声をかける。
彼がゆっくり横を向きと母校の校舎に目を向けている時、私は卒業式のことを思い出していた。
今となっては、あまり思い出したくない苦い記憶。
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高校の卒業式が終わったあと、私は屋上へ向かった。
セーラー服にローファー。そんな姿も今日が最後だ。
屋上で待っていた暁斗が、私を一瞬見て視線を反らした。そしてぼつりと声を落とす。
「侑里――お互い、大学生活も忙しいだろうし、しばらく距離を置こう」
突然の言葉に、私は返す言葉をどこかにわすれてしまったかのように、視線だけ落として、黙る。
その後、絞り出すように声を出した。
「暁斗、ずるいね。そんなふうに都合よく言えるんだ――待ってるとか、連絡してとか……言わないんだね」
「……ごめん」
暁斗は私の方を見ずに、そのまま立ち去った。
心のキャンバスが真っ黒な絵の具でべたりと塗りつぶされた気がした。
それから、大学に進学した後、電話もメールさえも繋がらなくなったのだ。
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「……さん、侑里さん!」
遥輝くんの声に、ふっと我に返る。
私は俯いたまま、呟いた。
「ごめん、ぼーっとしてた」
それを聞いて彼は、優しい微笑みを見せる。
先日までのことが、ふっとほどけていく。
「――あのことは、もう、大丈夫ですから」
彼がぼそりと呟く。
私は、その言葉にゆっくりと頷く。暁斗のことだと、すぐにわかった。
暁斗と遥輝くんは席が近い。私とのことも――おそらく、聞いているはずだ。
「俺は、絶対に侑里さんを悲しませるようなことは、しませんから」
「わかってるよ」
そんなふうに真剣なことを彼はさらりと言う。
好きになったのは――そういう、真っ直ぐなところ。
「さて、お昼食べに行こうか。私のお気に入りの、美味しい店」
私の声に彼が頷き、足取りが少し軽くなる。
春は――もう近い。
こちらのお題に参加しています。
明かされる侑里の卒業式の苦い記憶。
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