短編|当て馬は必ず僕のところに戻ってくる
🔹あらすじ🔹
「紘也はいつも、最後は僕のところに来る」
清瀬真尋と藤倉紘也は同期で学生時代からの腐れ縁。
今日もまた失恋してフラフラになっている『当て馬男子』紘也を会社の休憩室で介抱し、いつものように家で飲みながら愚痴を聞く真尋。
「僕にすれば?」と言いたい想いを抑え、笑顔で接する真尋の心は、複雑だった。
そして、ついに「じゃあ、僕にすれば? ――紘也」と口に出てしまう。
重い空気にキッチンに逃げ込んだ真尋に紘也は思わず口にする。
「――じゃあ、真尋……このまま俺のものになってよ」
ジャンル:現代恋愛
ふと、振り返るとそこには、青白い顔をしてふらついている筋肉質な眼鏡――じゃなかった、同期で学生時代からの腐れ縁。藤倉紘也が立っていた。
「藤倉……死にそうな顔してるけど……生きてる?」
声を掛けると、藤倉がふらりと僕に倒れかかってくる。
慌てて支えるにも、筋肉質で長身な彼に押しつぶされそうだ。
とりあえず休憩室のソファに座らせ、休ませると、藤倉が弱々しく声をあげる。
「悪ぃ……ちょっとめまいがしただけ……」
「ちょっとそこ座って。飲み物持ってくる」
(いや、めまいがしただけじゃないだろ、絶対なんかあった顔だ……)
と心の中で呟き、僕は自動販売機でペットボトルのスポーツドリンクを買って彼に手渡す。
藤倉が喉を鳴らしてドリンクを流し込むのを眺めつつ、僕はぽつりと呟く。
「顔色悪いし……病院行けば?」
彼は首を振り、声を落とす。
「……いや、清瀬、今日お前の家に行っていい?」
「事情は聞かないけど――了解」
具合が悪いなら病院に行けばいいのに。
こういう時、藤倉はいつも僕の部屋へ来る。長い付き合いだ。だいたい何があったか察しがつく。
彼はいわゆる「当て馬系男子」。またいつもの失恋だろう――その埋め合わせに僕を使うのは、やめてほしいけど。
僕の部屋で彼はいつも缶チューハイを開け、くだを巻く彼の話をいつものように聞く。
全く、いつも話を聞く身にもなってほしい。
「――でさー、真尋、俺はどうすればいいと思うー?」
ふぅ、とため息をつき、僕は呟く。
「じゃあ、僕にすれば? ――紘也」
藤倉――もとい紘也がはっとした表情で顔を上げる。
その顔は、目を丸くして、「意外」とでもいいたげだ。
「……僕を選べば、ショックでふらつくこともないと思うけど?」
重い空気が、僕達ふたりを包む。言ってしまった。見方を変えれば僕だって「当て馬」だよ、と思う。
不憫な友人を、ひたすら想い続ける。あえて「僕にすれば?」と今まで言わずにいたのに。
突然の言葉に、紘也は言葉を失い、目がキョロキョロと泳いでおり、何か言葉を探しているような――そんな雰囲気。
「コーヒー、入れてくる」
誤魔化すように僕は席を立ち、台所でコポコポと湯を沸かし、コーヒーを入れながら視線を落とす。
人の弱みに付け込むようで、こうやって伝える気はなかったのに。そうでもしないと、紘也は僕を見ないだろう、そう思ってしまった。
我ながら卑怯なものだと思う。
そう心の中で呟いていた。
その瞬間、急に背後からずしりと重いものがのしかかる。
筋肉質な腕で背後から強く抱きしめられ、アルコール混じりの吐息とともに、低い声が落ちてきた。
「――じゃあ、真尋……このまま俺のものになってよ」
紘也のアルコールで僅かに掠れた声に、心臓がどくりと跳ねる。
掠れた声は、僕の耳の奥にじわりじわりと入り込む。
コーヒーを淹れる手が、震えて、固まる。
「……紘也、飲み過ぎ。いつもの『埋め合わせ』なら――」
「違う」
「……へ?」
「真尋なら、ショックでふらつくこともないんだろ? なら、このまま俺のものになって?」
――酔いが回っているのか、それにしては紘也の目が真剣に僕を捉え、貫いてくる。
僕は震えを抑えながら、声だけは不敵に返す。
「本気だよね? 埋め合わせじゃないなら――いいよ、むしろ、そうしてほしい」
卑怯な手を使ったけれど、紘也が僕の方を向いてくれた。それでいい。
「『埋め合わせ』なんて思ったことないけど?」
紘也が低い声を落とす。後ろを振り返ると、僕の唇が――彼の口づけで塞がれる。
息が……できない。というか、紘也の力強い抱擁に抗えない。
「っはぁ……なら、なんで……いつも振られて、僕のところに来るんだ? 他のヤツのところに、行けばいいだろ?」
その言葉に、紘也がさらに射抜くような低い声で僕を貫く。
「真尋は、俺のことを『親友』以上には見てくれないだろうって思ってた、でも、違うんだろ?」
「……よく言うよ。他のヤツに『俺にしとけ』って言ってた人間が」
「……真尋が、俺の方を向いてくれないって思ってたから。言ったら、親友でいられなくなるって思った」
――途端に、僕の心臓の音がうるさくなり、思わず顔を逸らす。
「……信じられない。僕はいつだって紘也に対して本気だったのに」
僕は俯き、ぽつりと声を落とす。紘也が他のやつに振られて、埋め合わせみたいに僕の家に来る。それで僕が平気だと思っていたのか。
「僕にすれば」って言いたいのを抑えて、ずっと僕は――紘也を見てきたのに。
紘也にそんな辛い顔をさせないのに……そんな気持ちを隠して、『埋め合わせ』に付き合っていたのに。
「真尋、ごめん……俺は嫉妬してた。真尋を誰にも取られたくない、それでああやってたんだ」
「僕はそれ以上に、嫉妬してたと思うけど。……紘也が思ってる以上に」
そう言って、僕は紘也の顔にそっと触れた。
「……なんでそんな哀しそうな、諦めたように笑ってるんだよ、真尋」
紘也が戸惑ったような顔で、僕を見る。
「なんでって……紘也はさ、僕がどれだけ我慢してたか、分かってない。紘也が誰かを好きになるたび……僕は笑って話を聞いてた。いつも、むしゃくしゃしてた」
そして、僕は紘也の目を射抜くように見つめ、話を続ける。
「――それでも離れなかったのは……紘也が僕のところに帰ってくるって分かってたから」
僕は少し口角を上げる。――紘也を挑発するように。
紘也の顔が、固まって、瞳が揺れている。その表情を見て、僕はぞくりと湧き上がるものを感じる。
こうなるのを、どこかで待っていた。どれだけ他の誰かを好きになっても、紘也は必ず僕のところに帰って来る。
それを――紘也が堕ちてくるのを、僕は待っていれば、いい。
「真尋……?」
少し震えた声で、紘也が口を開く。
「――だってそうだろ? 紘也はいつも、最後は僕のところに来る」
紘也が眉尻を下げ、ふっと笑う。
「……もっと早く真尋に言えばよかった。もう、逃げない」
「というか、逃げられない、逃がすつもりもないよ? 紘也?」
今度は僕から、紘也の腰に手を回し、目線を紘也に合わせて見上げる。
「最初っから、俺は真尋の手の中か」
「……当たり前」
僕がくすりと笑うと、紘也がさっきよりさらに強い力で抱きしめてくる。
ああ、紘也。君は僕の手のひらの中にいた。
やっぱり、僕のところに戻ってきた――再び、どこかに行かせる気はないけれど。
その晩、僕は初めて紘也の腕の中で眠った。
目が覚めた時、まだ寝ている彼の顔を見て、僕は愉悦にも似た感情を覚える。
紘也が無防備に僕のそばにいる。それがたまらなく心地いい。
そして、紘也の唇に、そっと指を這わせる。
(もう、どこにも行かせない)
心の中で呟き、まだ眠っている紘也に低い声を落とす。
「逃げられるわけないよ、紘也――だって君は、必ず僕のところに戻ってくるんだから」
外の光が、カーテン越しに差し込んでくる。
それが紘也の唇を静かに照らす。
僕はその照らされた唇にもう一度、口付けた。
(もう離さない)
そう思いを込めて。
「……もうどこにも行かねえよ」
「起きてた?」
「さっきから、寝たふりしてた。――そこまで真尋に絡め取られるんだ。真尋こそ、逃げられると思うなよ?」
僕は、また紘也の腕の中に潜り込む。
こうして、僕たちはお互いを絡め取って、堕ちて、離さない。
どれだけ遠回りしたのだろう、最初からこうして、お互いを絡め取っていたのに。
紘也が初めて妖艶な眼差しで、挑発するように僕を見る。
それが、僕をいっそう熱くし、彼を絡め取っていくのだ。
いるさん、愛が重すぎるヤンデレ風味受けを書きがち。
当て馬男子✕(実質当て馬になっていた)愛が重い系男子。
回帰は――してないよね?セーフだよねこれ?
※ちなみに🔹は「しかく」で変換したら出てくるよ(前回スペース聞いての私信)
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