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「EMDM」第2話


本編

※作画上の注意点

第2話以降、朱鳥が食べる時、慎輔には右手の指(第1話ラストで甘噛みされた指)を口に当てる(口の端を擦ったり、頬や顎を撫でる等の)無意識の〈クセ〉が出るようになる。 

〇大学(四月中旬)

昼頃。庭園。いつものベンチに座る慎輔と朱鳥。慎輔の左側に朱鳥、二人の間にスイーツ(小さなチーズタルト)が入った箱。
タルトを食べる朱鳥。片手で受け皿を作り、小さく口を開け、齧る。

朱鳥「今日も美味しいよ、慎輔さん。チーズがたっぷりで、タルトがサクサクしてて。味もさっぱりしてるから、何個でもいけちゃう」

食べ終わる朱鳥。次のタルトを手にし、食べ始める。
見惚れる慎輔、クセが出ている。

朱鳥「ねぇ、慎輔さん。聞いてもイイかな?」
慎輔「えっ!? あっ…、なっ、何を…、ですか?」

急に話しかけられ、どもる慎輔。以後、緊張や会話の不慣れで思うように話せない。
慎輔の目を見て話す朱鳥。目を見開いて驚く・口角を上げて笑う、手を動かす等、全身を使いリアクションする。

朱鳥「大した事じゃないんだけど、どこの学部かなって。ちなみに私は、心理学部」
慎輔「じっ…、人文学部、です…」
朱鳥「そっかー。同じ学部なら、一緒に勉強出来たのにねー」
慎輔「はっ…、はい…、そう、ですね…」

伏し目がちに答える慎輔。恥ずかしくて、朱鳥と目が合わせられない。

朱鳥「あっ! でも、ここの人文学部って、心理も取り扱うんだよ。民俗学に詳しい教授が居てね、昔話に絡めて面白い講義するって。私、迷ったんだー、どっちに行こうか。慎輔さんも迷ったりした? どこの大学行こうとか、どの学部にしようとか」
慎輔「いっ、いえ…。なっ、なんとなくで、決めたので…。すっ…、すみません…」
朱鳥「謝る事ないよ。なんとなく、だって立派な理由だし。なんとなくで行動してる人、結構居るから。私だってするよ。今日はなんとなく授業サボりたいなーってサボってたよ、高校の時は」
慎輔「そっ…、そう、ですか…」
朱鳥「慎輔さんもサボったりする? あっ、でも、入学したばかりだから、サボりにくいよねー。課題やったり、単位取らなきゃだし」
慎輔「べ、別に…、三年生、なので…、そういうのは…」
朱鳥「そっか! 慎輔さん、年上だった! …ごめんなさい、敬語使わないとダメですね」
慎輔「いっ、いっ、いいです。全然、偉く無い、ので…」
朱鳥「全然偉いよ、慎輔さん! だって料理作れるんだから! 然もスイーツも! スイーツの食べ歩きが趣味って男子多いけど、作れる人ってかなり珍しいんだから」
慎輔「えっ、あっ、そっ、そう…、なんですね…」
朱鳥「そうそう、偉い偉い。じゃあ、慎輔さんのお言葉に甘えて、タメ語で話そっ。慎輔さんも好きに話して。あすかな、とか、あすぴー、なんて呼んだり」
慎輔「えっ…、あっ、はい…」

〇アパート(夜)

キッチン。夕飯作り。見切り品のシールが付いたカボチャ(半分や四つ切のカットが数個)。ラップを外し、種を取り除く。包丁で一口サイズにカットしようとする。

慎輔「手作りのマヨネーズが残ってるから、カボチャのサラダにしよう。コロッケにして味変するのも良いな」

手元のスマホに着信、相手は母親。
右手に包丁、左手にスマホを持ち会話。

慎輔「もしもし」
母親「もしもしぃ。慎輔ぇ、ゴールデンウィーク、帰(けぇ)るずらぁ?」
慎輔「帰らない」
母親「どいでぇ? デートでもするだかぁ?」
慎輔「バイト、連休ずっと」

カボチャを切ろうとするも、片手では硬くて切れない。包丁がカボチャに刺さり、抜けない。ドンドン、とまな板に叩きつける。

母親「何でぇ? さっきからドンドンドンドン。人でも殴ってるだかぁ?」
慎輔「料理。カボチャ切ってる」
母親「ほぅけ。まぁ、何でも好きにやりなぁ。だで、帰(けぇ)るんなら電話寄こしなねぇ」
慎輔「分かった」

通話終了。大きく溜息を吐き、落ち込む。

慎輔「コミュ障なんだよ。まともに話せるの、家族と独り言ぐらいのレベルで。話しながら食べたいって、絶対無理だし。同性ならまだしも女の子って。難易度高すぎる…」

 *****

〇ショッピングモール(ゴールデンウィーク中)

午前中。賑わう店内。
とあるテナント。〈SNACKY KIDS〉と書かれた看板。派手でカラフルな壁紙やお菓子のモニュメントが目を惹く。輸入菓子の販売や量り売り、その場で作り立てを楽しめるイートインコーナーがある。(接客係は支給されたエプロンを、製造係はキャップ、マスク、手袋を着用)。

派手な格好の店長。店頭に立ち、呼び込みをする。
隣に看板キャラの〈スナッキー君〉。少年の顔をした着ぐるみの頭。頭から下は人間で、蝶ネクタイ、白いワイシャツと菓子をモチーフにした柄のサロペット、大きめの手袋と丸みを帯びた靴を着用。中の人は勿論、慎輔。

店長「ハァ~イ! アメリカのスイーツショップ、スナッキーキッズがやって来たよぉ~! この子はスナッキー君、スイーツ好きのぽっちゃりボーイ! さぁ、みんなぁ~。スナッキー君と一緒にスナック、スナックゥ~!」
子供「わぁぁあぁ!」

スナッキー慎輔に群がる子供達。着ぐるみの中から漏れる声。

慎輔「コフーッ、コフーッ」

 +++
昼頃。従業員用の休憩室。くつろぐ従業員達。
部屋の隅。テーブルに着ぐるみの頭、汗拭きシート、ペットボトル飲料、〈スナッキー君と写真撮影〉と書かれたチラシ(十時・十五時の二回、GW中は全日開催)。
椅子に座る慎輔。ワイシャツのボタンを開け、顔や首元の汗を拭く。
箱を持って立つ、ハイテンションな店長。

店長「あ~り~が~と~、仲村くぅ~ん! 本社から言われてたのぉ、ぽっちゃり体型の人に演じて欲しいってぇ。でもぉ、募集しても見つからなくてぇ、困ってたのよぉ。だからぁ、仲村くんがモールでバイトしてて、ホンっっトぉに、助かったぁっ!」

菓子が詰まった箱をテーブルに置く店長。

店長「お腹空いたでしょぉ、たっくさん食べてねぇ。そぉそぉ、何度も言うけどぉ、脱ぐ時はぁ、必ずお客様が見てない場所でねぇ。あとはぁ、パワハラとかぁセクハラとかぁ、コンプラ違反な事はぁ、絶対にしないことぉ。それじゃあ、午後もよろしくぅ~」

部屋を出る店長。
途端に、イヤそうな顔をする慎輔。

慎輔「本当はイヤだよ、でも断れない性格だから。バイト代高いし、誰とも話さなくて良いのが、せめてもの救いだけど。…それにしても、意外に退屈だ。写真撮影と手を振るぐらいで、後はぼーっと立ってるだけ。暇つぶしに何かあればな」

箱から菓子を取り出す。不思議な形をしたグミやカラフルなマシュマロ。パッケージ裏の日本語食品表示を読む。

慎輔「これはグミ、こっちはマシュマロか。アメリカのお菓子、クセが強くて好きなんだ。高校の時は毎日食べてたけど、今の僕は…」

休憩室に入ってくる中年の男性社員。

男性「お疲れ様~。あれ? しんのすけ君、昼番だっけ?」
慎輔「りっ、臨時の、バイトです、ゴッ、ゴールデン、ウィークの」
男性「おぉ、そうか、世間は休みか。サービス業は平日だの祝日だの、関係ねぇからなぁ」

菓子を薦める慎輔。

慎輔「あっ、あの。これ、貰ったんです。よっ、良かったら」
男性「悪いねぇ、甘いモンはどうも。しんのすけ君が食べりゃ良い。こういうの好きだろ? しんのすけ君みたいな子はさぁ」
慎輔「えっ…、あ…、まぁ…」

+++
十七時頃。お菓子屋。
店長に会釈するスナッキー慎輔。

店長「お疲れ様ぁ。また明日ねぇ~」

+++
モール内を歩く慎輔。疲労で、足取りが覚束ない。

慎輔「ハァ…、ハァ…。つ…、疲れた…。まだだよな、休憩室。ちょっと、休むか。人前で脱がなきゃ、良いって言ってたし」

休憩用のソファーに腰掛ける。背もたれに寄り掛かり、脚をだらしなく伸ばす。天井を向く着ぐるみの顔、若干斜めに傾いている。

慎輔「……、あと九日。持つのか? 僕の体力。これから夜間の品出しもあるのに」

スタバのカップを手に、慎輔の近くを歩くギャル系のカップル。

彼女「何あのゆるキャラ、めっちゃ怠けてんじゃん。マジウケる~」
慎輔「!」

飛び起きる慎輔、姿勢を正して座り直す。困惑気味の様子。

慎輔「(ヤバい! こんな事してたらネットに曝される! アメリカの会社だ、炎上したら高い賠償金が…)」

席を立つ慎輔、その場を離れる。入れ替わりに座るカップル。

彼氏「夕飯何食いてぇ?」
彼女「マグロ~」
彼氏「じゃ、海行っか!」
彼女「は? 今から? 水着持ってないし」
彼氏「買えんじゃん、ココで。ほら、あそこにあるし」
彼女「あれ下着だし」
彼氏「マジで!? ヤベェな! 今の下着って!」
彼女「何驚いてんの? いつも見てるクセに。マジウケる~」

ふと立ち止まる慎輔。振り返り、カップルを見つめる。
楽しそうに会話するカップル。

慎輔「楽しそうだな。僕もあんな風に話せたら…」

何かを閃く。

慎輔「そうか、どんな風に話すのか観察すれば。素顔の僕なら、目が合うだけで嫌がられるけど、この格好なら文句言われない」

 *****

〇大学(ゴールデンウィーク開け)

昼頃。庭園。いつものベンチ。
落ち着いている慎輔。初めの頃に比べ、明らかに雰囲気が変わっている。朱鳥の膝の上に大きめの紙袋。中身は輸入菓子。

朱鳥「イイの? これ全部貰っちゃって」
慎輔「はい。アメリカのお菓子、好きだと思って」
朱鳥「そう、大好き! ありがと、慎輔さん」
慎輔「どういたしまして」

慎輔の様子を不審がる朱鳥。何かを疑うような目で、慎輔を見つめる。

朱鳥「慎輔さん。恋人、出来た?」
慎輔「えっ!? 出来ませんよ。何で、そう思うんですか?」
朱鳥「なんとなく。休みの間、何かあったよね?」
慎輔「勉強ならしてました、バイト中ですけど」

素直に答える慎輔、怪しい様子は無い。
嘘を吐いていないと確信する朱鳥。

朱鳥「そっか、なら良かった」

不敵な笑みを浮かべ、安堵する朱鳥。 

『EMDM 第2話』 終

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