13名の無断キャンセル。私は泣き寝入りせず、50,000円を回収した。〜怒りを手続きに変えた、飲食店経営者の実録〜
第一章
13名が来なかった夜
17席しかない店で、13名の予約が入った。
嬉しかった。
同時に、少し緊張もした。
17席の店にとって13名という団体は、その時間帯の営業を左右するほど大きな予約だからだ。
私は飲食業界に入って約30年。
店を持ってからも10年以上が経つ。
もちろん、無断キャンセルを経験したことはある。
2名。3名。多くても6名程度だった。
13名
しかも未就学児を含めた団体です
これほどの人数は、約30年飲食業界にいて初めてだった。
はじまりの予約は電話だった。
「大人7名、未就学児6名でお願いします」
スタッフはいつもどおり、
「〇〇駅 居酒屋しずくでございます」
と名乗り、予約を受けた。
店は、その予約を正式な予約として受け付けた。
その瞬間から、13名を迎えるための準備が始まる。
席を確保する。スタッフを配置する。食材を仕込む。
そして、その時間帯に問い合わせがあれば、他のお客様を断ることになる。
17席の店では、一つの団体予約が営業そのものを左右する。
迎えた当日。
準備は整っていた。
予約時間になった。
誰も来ない。
5分。
10分。
15分。
「道が混んでいるのかな」
そんなことを考えながら電話をかけた。
出ない。
もう一度かける。
出ない。
SMSも送った。
返信はない。
時計だけが進んでいく。
結局、その日。
13名は、一人も来なかった。
もちろん損害はあった。
仕込んだ食材。
配置したスタッフ。
断った他のお客様。
でも、一番大きかったのは、お金ではなかった。
店内にぽつんと空いた13席を見ながら、私は初めて思った。
「このままでは店を守れない」
その瞬間、私の頭に浮かんだのは、
「どう解決するか」
ではなかった。
もっと単純だった。
「絶対に許せない」
その一言だった。

カウンターの2席も導線が悪く使用できず、店は実質的に機能停止状態だった。
第2章
怒りは、家族にも向いた
あの日の私は、正常ではなかったと思う。
13名の無断キャンセル。
店のこと。お金のこと。スタッフのこと。
頭の中で、何度も同じことを考え続けていた。
「どうして連絡一本くれなかったんだ」
「絶対に許せない」
その気持ちだけが膨らんでいった。
その日の夜、家に帰っても、その話しかしなかった。
「請求してやる!」
「絶対に泣き寝入りはしない!」
「キャンセル料の満額請求だ!」
そんな言葉ばかり口にしていたと思う。
すると、妻が言った。
「もう、そのくらいにしたら?」
その一言で、私はさらに腹が立った。
「なんで?」
「店が損してるんだよ?」
「俺だけが必死になってるじゃないか」
そんな気持ちだった。
今思えば、私は妻に怒っていたわけではない。
怒りの向け先を失っていただけだった。
だから、一番近くにいる家族へ向いてしまった。
心の中で、
「ああ、はいはい。そうですか」
「結局、俺は一人なんだな」
そんなことまで思っていた。
今振り返ると、かなり視野が狭くなっていたと思う。
でも、その時は本気だった。
一方で、妻は私とはまったく違うところを見ていた。
「子どもは半額くらいでもいいんじゃない?」
そう言った。
正直、その時の私は受け入れられなかった。
「13名は13名だろ」
「子どもだから関係ない」
そう思っていた。
私の頭の中には、
「いくら損をしたか」
しかなかった。
でも妻は違った。
未就学児を含む予約だったこと。
そして、人としてどこで区切りをつけるべきか。
そこを見ていたのだと思う。
もちろん、その時の私は理解できなかった。
むしろ、
「なんで相手の味方をするんだ」
そう感じていた。
しかし、この時はまだ知らなかった。
数日後。
弁護士から言われた言葉が、妻の言葉と同じ方向を向いていたことを。
第3章
警察は、敵でも味方でもなかった
翌朝。
私は警察へ電話した。
生活安全課に無断キャンセルの相談をするためだ
正直に言えば、この時は少し期待していた。
「無断キャンセルなんです」
「13名なんです」
そう説明すれば、何か動いてくれるんじゃないか。
そんな甘い期待が、どこかにあった。
でも、それは違った。
担当の警察官は、私の話を最後まで静かに聞いてくれた。
そして、落ち着いた口調でこう言った。
「これは民事になりますねー」
その一言で、少し肩の力が抜けた。
警察は相手に請求してくれるわけではない。
お金を回収してくれるわけでもない。
まして、
「悪い人だから捕まえます」
という話でもなかった。
少し拍子抜けした反面、
「やっぱりそうか」
という気持ちもあった。
ただ、私はこの相談をしたことを後悔していない。
むしろ、相談して良かったと思っている。
警察官は続けて言った。
「キャンセル規定決めてます?キャンセル規定があるのであれば、
一度弁護士へ相談してみて」
その言葉で、私の頭の中は少し整理された。
感情ではなく、
「手続き」
という言葉が初めて見えた瞬間だったと思う。
相談を終える前に、私は一つ確認した。
「今日、私がここへ相談したことを記録として残す方法はありますか」
この時、警察官から教えてもらったことがある。
そして私は、担当してくださった警察官の名前と、あるものを控えた。
正直に言う。
私は今回の件が起きるまで、そんなものがあることすら知らなかった。
しかし後になって、
「あの時、その場で確認しておいて良かった」
と思うことになる。
具体的に何を確認し、何を控えたのか。
後半の実務編で詳しく書く。
警察を出た帰り道。
私の頭の中は、前日とは少し違っていた。
「怒っている」
から、
「どう進めるか」
へ変わり始めていた。
そして、その後。
私は弁護士へ相談することにした。
ここで、私の考え方はもう一度、大きく変わることになる。
第4章
弁護士は、私の味方ではなかった
次に近くにある弁護士事務所へ相談する頃には、私の中で請求額はほぼ決まっていた。
キャンセル料。
追加した人件費。
仕込んだ食材。
全部合わせて88,000円。
正直、この金額を請求するつもりだった。
「これだけの損害を受けたんです」
「当然ですよね」
そんな答えが返ってくると思っていた。
でも、弁護士の答えは違った。
「請求はできると思います」
ここまでは予想どおりだった。
ところが、その次の一言で私は固まった。
「でも……」
「3万円でも回収できれば十分じゃないでしょうか」
一瞬、聞き間違えたかと思った。
「え?」
「3万円?」
私の頭の中では88,000円だった。
なのに、現実は3万円くらい。
正直、納得できなかった。
「それじゃ意味がない」
そう思った。
でも、弁護士は淡々と続けた。
「請求できる金額と、実際に回収できる金額は別なんです」
「よくあるじゃないですか。求刑と実刑が違うなんて。」
この一言は、今でも忘れられない。
ここで私は初めて、
「勝つこと」と「解決すること」は違う
のだと気付いた。
私は法律を学びに来たつもりだった。
でも実際に教えられたのは、
「終わらせ方」
だった。
相談を終えても、頭の中は整理できなかった。
「3万円で終わらせるのか」
「いや、それじゃ納得できない」
「でも長引かせたくもない」
帰り道も、そのことばかり考えていた。
その後。
警察への相談を終え、正式に請求するためには相手の住所が必要だと分かった。
私はSMSで相手とやり取りを始めた。
相手は住所を開示した。
謝罪もした。
請求についての質問もしてきた。
その文章を読んだ妻が言った。
「この人、文章はちゃんとしてるよ」
私はまた思った。
「だから何なんだ」
文章がちゃんとしていようが、13名が来なかった事実は変わらない。
でも、妻は違った。
相手が逃げているのか。
話し合おうとしているのか。
そこを見ていた。
そして私は、この後。
一つの失敗をする。
感情のまま、相手へメッセージを送ってしまったのだ。
自分では、
「言いたいことを言った」
と思っていた。
しかし、その文章を第三者の視点で検証した時。
初めて気付いた。
私は、自分でも気付かないうちに、
相手へ不要な交渉の余地を与えていた。
ここから、私の対応は大きく変わることになる。ここから先の有料部分では、私が今回の無断キャンセル対応で実際に使った資料や考え方を、実務ツールとしてまとめています。
具体的には、以下の内容を掲載しています。
・無断キャンセル当日に送るSMSテンプレート
・相手から住所を確認するSMSテンプレート
・警察相談チェックシート
・弁護士相談シート
・損害額・請求額整理シート
・請求書案
・相手から返信が来た時の判断フロー
・感情を手続きに変えるAIプロンプト
・請求書添削用AIプロンプト
・送信前チェックリスト
すべて、今回の実体験をもとに、
「あの時、これが一冊にまとまっていたら」
と思ったものを整理したものです。

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