空近く
会社員の頃、同じフロアにいたNさんが、突然亡くなられた。
技術畑の部長さんで、私たち若い者にもにこやかに話しかけてくださる方だった。
ときどき行きつけのお寿司屋さんに連れて行ってもらうこともあった。
奥様ががんで亡くなられてから、まだ一年も経たない頃。
私は、「(奥様が)迎えに来たのだな」と思った。
Nさんに新しいガールフレンドが現れたらしき話もあって。
平日の葬儀の帰り、本当ならさっさと会社に戻るべきところ、
同僚のОちゃんが「高い所に行きたい」と言い出して……。
私たちは電車の乗り換えで経由した新宿で改札を抜け、ホテルの高層階へ向かった。
二人、窓際の席に着き、お茶をした。
Оちゃんの「高い所に行きたい」という言葉は、正解に思えた。
窓から広がる都会の景色は、空に近く、穏やかな光に包まれていて――。
数日前まで何事もなく会社に来ていたNさんの、
静かなにこやかさが、
ふわりと漂うように感じる午後だった。
空近く
高層階の風景に
亡き人の笑む
午後のひととき
≪🌎260310*P10≫
