テクニカル分析は「予言」ではなく「地図」として使う
投資の動画やSNSを見ていると、「カップウィズハンドルだから上がる」「三尊が出たから下がる」といったチャートの形の話を、よく耳にします。長期投資やファンダメンタル、リスク管理を重視する立場から見たとき、こうした「形」の話とどう向き合えばいいのか。今回はそれを、私なりに正直に整理してみます。
結論から先に言ってしまうと、私の考えはこうです。チャートの形は「予言」には使えない。けれど「今いる場所」を知る目印には使える。 この一線を引けるかどうかが、いちばん大事なところだと思っています。

なぜチャートを信じきれないのか
私はもともと、需要予測や来店客数の予測といったデータ分析の仕事をしていました。過去の変動パターンから予測モデルをたくさん作ったのですが、これがなかなか当たらないのです。曜日や日付がある程度影響しているのはわかる。けれど、クーポンを配ったり、値下げをしたり、近くの野球場で大きな試合があったりすると、数字は一気にずれてしまう。過去の波形だけを見ていても、未来はうまく当たらない。この経験があるので、私はチャートの形から将来を読むことに、どうしても慎重になります。
ただ、これは「テクニカルチャートは意味がない」という話ではありません。使えるかどうかは人によって違うはずで、私が使いこなせないだけ、という可能性も十分あります。否定ではなく、距離の取り方の話として読んでいただければと思います。
そもそも株価は「酔歩」に近い
株価の動きは、ランダムウォーク(酔歩)に近い――これはノーベル賞級の学問が積み上げてきた見方です。日本語にすると「酔っ払いが千鳥足で歩くような動き」で、次の一歩が直前とほぼ無関係、というイメージです。つまり1日先・2日先の短期の値動きは、直近の動きとはほとんど関係がなく、短期予測はそもそも難しい。だからこそ、市場インデックスなどで長期投資をしたほうが個人投資家には向いている、という流れにつながっていきます。
この系譜をたどると、出発点は1900年のルイ・バシュリエ(フランスの数学者)。長く忘れられていたものを、ポール・サムエルソンが再発見し、その後ユージン・ファーマ2013の効率的市場仮説、バートン・マルキールへと受け継がれていきました。チャートの形だけで「次の一歩」を当てるのは、学問的にはかなり分が悪い。それがランダムウォークという考え方です。

少し余談ですが、このランダムな動きを数式で扱う土台を作ったのが、日本人の数学者・伊藤清(伊藤清1942『確率微分方程式』)です。金融の世界でもっとも有名な日本人とも言われ、彼の確率微分の理論は、ノーベル賞を受けたブラック・ショールズのオプション価格式の土台になりました。ここで大事なのは、ランダムは「当てる対象」ではなく、その上で価格を計算する対象になっているということです。ランダムは無意味どころか、現代ファイナンスの心臓部になっている。だから「ランダムだから何も使えない」とは、決して言えないのです。
「これ、株価じゃありません」
ひとつ面白い実験があります。コインを投げて、表なら上昇・裏なら下落、というルールで乱数の波形を作ると、本物の株価チャートと見分けがつかないものができあがります。
そして、この純粋にランダムな波形に線を引いてみると、いろいろな「形」が見えてきてしまう。安値のところに線を引けばサポートラインに見えるし、たまたま裏表が続いて山ができれば、三尊のような形にも見える。つまり、いつも見ている株価チャートも、実はランダムに近く動いているのに、線を引くことで意味ありげな形が浮かび上がってきているのかもしれない、ということです。形が見えても、中身はただのコイン投げかもしれない。 ここは一度立ち止まって考えたいところです。

なぜ「形」が見えてしまうのか
人は、ランダムな情報の中にパターンや物語を見つけてしまう癖を持っています。これはアポフェニアと呼ばれるもので、点が三つ並ぶと人の顔に見えてしまう、あの感覚です。バラバラに散らばった星に線を引くと、壮大な神話の星座になる。同じことが、チャートの上でも起きているのだと思います。
ただ、ここには大事な区別があります。星座は、占いの道具としては怪しくても、季節を知り、方角を知るための地図としては超優秀なのです。今どこにいて、どちらに進めばいいかを測る道具としては、しっかり役に立つ。問題は、それを「将来を予測するお告げ」に紐づけてしまったときに、現実から離れていくことです。チャートの形も、これにかなり近いと私は考えています。

淘汰された「形」と、生き残った「形」
よく聞くチャートパターンには、三尊(ヘッドアンドショルダーズ)、カップウィズハンドル、三角持ち合い、フィボナッチ、ローソク足のパターン、エリオット波動など、たくさんの種類があります。では、これらを全部覚えれば儲かるのか。そうであれば、みんなお金持ちになっているはずですよね。
これらの多くが淘汰されてきた理由は、定義が曖昧だったり、後付けで意味づけできてしまったり、そもそも反証ができなかったりするからです。エリオット波動は後からカウントを直せてしまうので「外れ」が存在しなくなる。カップウィズハンドルは人によって判定が分かれる。ローソク足のパターンも、体系的に検証すると予測力ははっきり確認できなかった、という研究があります(ローソク足の検証は Marshall, Young & Rose 2006 など)。
例外的なのが三尊です。三尊が出た後の値動きには統計的な癖がある、という研究結果が報告されています(三尊の検証は Lo, Mamaysky & Wang 2000)。完全なランダムよりは情報量がありそうだ、と。ただし、その癖は小さく、手数料やスプレッドといったコストを払うと消えてしまう程度。つまり統計的に存在することと、コストを引いても残ることは、別物なのです。

一方で、検証に耐えて生き残ったテクニカルもあります。目で形を見るのではなく、数式にできたものが残った、という言い方ができます。たとえば、上がってきたものはしばらく上がりやすいというモメンタム(Jegadeesh & Titman 1993)、行き過ぎた後に戻りやすいという短期の平均回帰、そして「荒れた日の翌日は荒れやすい」というボラティリティの集中(Engle 1982/ロバート・エングルはノーベル賞受賞)。さらに、52週高値を超えると伸びやすいという高値効果(George & Hwang 2004)。これらは方向ではなく「大きさ」や「ばらつき」に注目している点が共通しています。私の場合は、この中の平均回帰とボラの集中は、リスク調整の物差しとして使うことがあります。

ただし、ここにも落とし穴があります。公表された法則は、時間とともに痩せていく。みんなが知ると効果が減るのです。そして「当たるまでいろいろなパターンを当てはめる」やり方(オーバーフィッティング)を続ければ、過去をうまく説明できるルールは必ず見つかってしまう。過去に合うことと、未来に効くことは違う。ここは肝に銘じておきたいところです。
見分けるための3つの問い
では、何を信じればいいのか。私が手がかりにしているのは、三つの問いです。数式になるか・検証できるか・理由があるか。 何かしらの形で定式化できること。機械的にバックテストできること(事後にしか認定できない形はアウト)。そして、行動経済学のアンカリングや群衆行動、あるいはリスクの対価といった、効く理由が説明できること。生き残った手法は三つともクリアし、淘汰された手法はどれかが落ちる。この区別が、私にはいちばんしっくりきます。

私の実践――個別の形は見ない
具体的に私が何をしているかというと、個別銘柄のチャートの形は見ません。代わりに、自分が持っているポートフォリオ全体の資産残高が、平均から標準偏差(σ)で1.5〜2σ外れたら、リバランスしたり買い増したりする、という測り方をしています。これはランダムウォークだからこそ効いてくる物差しです。千鳥足でどちらに行くかわからなくても、歩いているのが鶏なのか馬なのかで、いつものフラフラ幅は違ってきますよね。自分の資産がどれくらいの幅でずれるかは、ある程度は統計的に測れる。だから、将来を予言する物語に従うのではなく、今いる場所をデータで測って、本来あるべき姿に戻す。これが私のやり方です。

赤い点線が2標準偏差です。この範囲で大体収まっているというのが資産形成での目安。
予言か、海図・地図か
同じ星空でも、物語として読んで予言に使うのか、海図・地図として方向を定めるために使うのかで、まったく別の道具になります。予言として使うと、後付けで「だから言ったじゃないか」と意味づけする、いわゆるリザルティング(意思決定の質と結果の質を混同すること。アニー・デュークの言葉です)に陥りがちです。「この形が出ると上がる」と言われて、確率を聞いたら五割。それなら結局、半々のランダムですよね、という話になってしまう。
一方、地図として使えば、トレンドラインと標準偏差で「今は行き過ぎている/いない」を測れます。割高・割安の混雑マップのように、いつもより外れているからどうしようか、と考える道具になる。未来は当てられなくても、現在地は測れる。だから後ろを守れる。 これが、予測と測定の決定的な違いだと思います。

まとめ――わからないものは、使わないでもいい
「分かる」と「使える」は、別物でいいと思っています。意味があるとわかっても、使い方がわからない手法は多い。それはそれで構わない。よくわからないまま動画の説明に乗って損をするより、わからないものはわからないままにして使わない――これも立派な一つの守りです。
東京ドームでじゃんけん大会をすれば、最後に必ず誰か一人は勝ち残ります。でも、その人のやり方をみんなが真似できるわけではない。儲かった事実と、再現できることは別もので、ここを混同すると次が危ない。だからこそ私は、当てに行かない、戻す、という距離の取り方を選んでいます。増やすより減らさない。減らさなければ、経済成長とともにいつの間にか増えている。そこを狙いたいと思っています。
※本記事はカエル個人の見解であり、特定の手法・商品の推奨ではありません。投資は自己の判断と責任でお願いします。過去の実績や統計的な傾向は、将来の成果を保証するものではありません。記事中で触れた研究・学説は概念整理のための引用であり、データや見解は2026年6月時点のものです。
「カエルの投資Vlog」ではリアルな投資経験から資産状況や投資実績の公表をしています!個人投資家にとって役に立つ投資の豆知識、インデックスファンドや高配当投資の情報を発信していますので、ぜひ覗いてください!
ここまで読んでいただき、「自分のポートフォリオだとどうなるのだろう?」と思った方もいるかもしれません。そうした方は、PortfolioMetrics を使うと、意外と簡単に全体像を確認できます。
👉 割引コード:「KAERU20」で初回支払いが20%オフになります。月払いより年払いで利用するとお得です🤑。
