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去る者は追わず|アマノ文筆クラブ|ショートショート

「ねえ」
「ん?」
「『去る者は追わず』って言うじゃない?」
「うん」
「その前にも何か,あったよね?」
「ん? ああ,『る者は拒まず』?」
「そうそう,それ。
『来る者は拒まず,去る者は追わず』」
「本来は,『る者』ではなく,『きたる者』なんだけどね。出典は漢籍の『孟子』だから」
「ふーん,そうなのね。
……でね,思ったの。『来る』と『去る』の間に,何かないのかなって」
「ん?」
「だってね,『来る者』が次の瞬間に『去る者』になるわけじゃないでしょ? その間に……」
「『いる』のフェイズがなきゃおかしい,ってことか。となると……いる者は,放っておく?」
「介入しない,って方針を貫くなら,そうよね。
Let them come, let them be, let them go.
ってとこかな」
「おー,英語にすると,無駄にカッコいいな。
でも,相手に寄り添うっていうのが方針なら,『いる者はもてなす』かもしれないよ」
「Let them come, make them comfortable, let them go.
うん,いいんだけど,もてなしてあげたのに行っちゃった,みたいな残念感が出ちゃうよね」
「そっか,じゃあやっぱり,『いる者は放っておく』?」
「少なくともあなたは,そんな感じだよね」
「ん?」
「部下の桃井さんがウフーンって来ても,行きつけのお店のサクラちゃんがアハーンって来ても,全然拒まない」
「えっ,ちょっ,おま……」
「そして,うちにいる私のことは,すっかりほったらかし」
「いや,それは,そんな……」
「というわけで,最後も『去る者は追わず』でよろしくね。この紙,サインしておいて。私が役所に出しておく。あとは弁護士から連絡させるから,直接連絡してこないでね」
「ま,ま,待って!」


◆3回目の参加です。
どうぞよろしくお願いいたします。

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