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屋上・春一番・ローファー|せりふ三題噺

▼今週のお題
 ◆セリフ
 「ずるいね」
 ◆三題
 ・屋上
 ・春一番
 ・ローファー


◆「……ずるいね」
彼女が,こちらを見ずに言った。
昼休みの屋上。俺たちはフェンスに寄りかかって,大勢の生徒たちが思い思いに楽しんでいる校庭を,見るともなしに見下ろしていた。
「……何が?」
「結局,私じゃダメだってことでしょ?」
「いや……」
「それならそうと,はっきり言えばいい。
適当な言い訳で逃げられると,私の思いなんて,里山にとって,その程度の価値しかなかったのかな,って思う」
「そんなわけない!」
俺は彼女の横顔に向けて,思わず叫んだ。
「そんな,わけが……ない……」
「じゃあ,どういうこと?」
彼女はこちらに向き直った。
「……」
「……」
「……好きだ」
蚊の鳴くような声しか,出なかった。
「え?」
「……」
「今,何て言った? もしかして……」
「ああ,好きだ,って言った。
俺も,先輩のことが……好きだ」
「……ほんと?」
「あーもう。言わせんなよ。好きだよ,間違いなく。最近は気がついたらいつも,宮越先輩の方ばっかり見てる。先輩のことばっかり考えてる」
「えっ」
俺は思わず,視線を下ろした。頬が熱い。彼女の履いているローファーの房飾りタッセルのあたりを見ながら,続きを口にする。
「今の俺にとって,たぶん世界中の誰よりも……宮越先輩のことが大切なんだ」
「じゃあ,なんで……」
「……だってさ,もしも俺たちがつき合ったとして,でも先輩にとって,俺がとんだ期待はずれで,結局うまくいかなかったら,どうなる?
それでおしまいだろ?
先輩と俺とは他人同士になって,たまに口をきいても,事務的な,よそよそしい言葉しか交わさない間柄になる。
そんなの,俺には耐えられない……
だったら,自分の気持ちに蓋をしてでも,今のまま,先輩と牧村と3人で,他愛ない話をしては笑ってる関係を,このまま続けた方が」
「残念だけど,それはもう,無理なの」
「えっ」
思わず顔を上げると,先輩の視線に,まっすぐ射抜かれた。
「その牧村君に,私昨日,告白された」
「……!」
「それであらためて、自分の気持ちを見つめ直してみた。
もちろん牧村君もいいヤツだけど,私の心の中にずっといるのは,里山,やっぱり,君なんだ」
「……」
「……ってことなんだ,けど……どうかな?」
先輩の耳が,赤い。今,初めて気がついた。
「……わかった。
1日だけ,考える時間がほしい。
明日,必ず返事をする。それでいい?」
「わかったよ。いい返事を待ってる」
「……ごめん,煮えきらなくて」
「いいよ,里山らしいし。でも……,よかった」
「えっ?」
「よかったよ,里山も私のことが好きなんだ,って,ちゃんとわかって。
わかる? 今私,めっちゃテンション上がってる」
「そっか,うん」
「……で,これもわかってると思うけど……わかっていてほしいんだけど」
「ん?」
「これで明日『イエス』って答えなかったら……君はオトコじゃないよ,里山康介」
俺に向けた人差し指を,すっと上に向け,にーっと笑ってみせると,彼女はタタタッと昇降口の方へと走っていった。
「急いだ方がいいよ! 予鈴がもう鳴る!」
こちらを見ずにそう叫ぶと,ドアの向こうに消えた。
ふう,と息を吐く。
ついに言ってしまった。もう後には戻れない。と,
「ヘ・タ・レ」
背後から突然声をかけられ,俺は飛び上がった。
振り向くと,ニヤニヤ笑いを顔いっぱいに浮かべた,長身の女子。
「栗原か! お前,今の……」
「聞かせてもらいましたよ,しっかり。お二人って,そんな間柄だったんだ。いやー,意外だったなー」
「いや,それは……」
「安心して,誰にも言わないから。
でもその代わり……うちらんとこの部費,来期はもうちょっと,何とかなりませんかね?
ほら,魚心あれば何とやら,ってやつ。
考えといてね,予算編成担当の,里山セ・ン・セ?」
こちらに背中を向けたまま片手をひらひら振ると,栗原も昇降口に消えていった。
予鈴が鳴る中,突如春一番と思しき激しい風が吹き上げ,俺の髪をなぶっていく。
屋上に取り残され,俺は一人,呆然と立ち尽くす。


◆こちらの企画↓に参加させていただいております。少し間隔が空いてしまいました。
いつもありがとうございます。

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