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医療の鉄人~血友病患者と血液内科医~


はじめに

―― 20代男性・血液内科Dr. ストーリー

ここは医師たちの共創の場、銀座アイグラッドクリニック。

本業を他に持ち、専門性も異なるエキスパート医師たちが、どうして集うのか。

根底には、「まだ見ぬ付加価値を生み出し、社会に貢献したい」というシンプルな想いがあります。

「料理の鉄人」という番組をご存知でしょうか。

1990年代に一世を風靡した、トップシェフたちの共演の番組です。

シェフたちは、与えられたテーマに対し、フレンチ、イタリアン、中華、和食、など、それぞれの専門性を背景に、各種の技術や発想を駆使し、至高の料理を完成させます。

その創意工夫の限りを尽くす”プロセス”に、多くの人が熱中しました。

単なる料理の”食体験”を超えて、世の中に「プロフェッショナルによるパネルディスカッションを通じた”エンターテインメント”」という付加価値を創造した訳です。

この、医療版を行いたい。

言うなれば、「医療の鉄人」。

医師としての専門性が重要であることは大前提です。

その専門性を重視しつつも、その枠組みを超えて、一層の付加価値を生み出し、社会に貢献したい。

――私たちは、もっと、社会の役に立てるはず。

これは、新しい医師の在り方を模索する医師たちの物語です。

第1章:アナライジングスタッフというもう一つの戦場

10歳以上も年の離れた後輩がいる。

彼は、血友病という疾患を抱えていた。凝固因子の異常により、出血が止まらなくなる病気だ。タックルひとつで命に関わるかもしれない――そんなリスクを背負って、アメフトのフィールドに立つわけにはいかなかった。

それでも、彼はチームを選んだ。 そして、チームにとって必要なことは何かを考え抜いた。

彼が選んだのは「アナライジングスタッフ」――敵チームのデータを分析し、自チームの戦略を立案する、いわば参謀のような役割だった。

競技スポーツにおいて、スタッフは“脇役”とされがちだ。しかし、アメフトは違う。これにはスポーツ固有の特性がある。

プレー毎に時間が止まるのだ。そして、プレーとプレーの間には、ハドルと呼ばれるショートミーティングが存在する。そのハドルでは、野球でいう監督のサインや、ピッチャーへの球種サインなどが語られる。

ゲームプランの立案から、実際のゲーム中の各種分析など、アナライジングスタッフの役割は多岐にわたる。

分析の際は冷静に。それでいて、チームを鼓舞する時は情熱的に。冷静と情熱を使い分ける、賢い男だった。

第2章:血友病患者が“心の底からスポーツを楽しめる世界”を

医師になってからも、彼らしさは変わらなかった。

「いつか、血友病の患者さんたちが、“心の底からスポーツを楽しめる世界”をつくりたいんです」

このような言葉を、彼は真顔で語る。

医師としての基本的姿勢は、知的で冷静そのもの。それがまさか、内面にそんな情熱を秘めているとは――つくづく、アメフト部のカルチャーに相応しい男だと思う。

そんな彼は血友病患者の当事者として、昨今の医療行政の変化に敏感でもある。

「高額療養費制度の引き上げが、話題になったじゃないですか。 あれ、本当に、怖かったんです。 なんか、自分も含めてなんですけど、難病の人が生きていくのに、世界が閉ざされていく気がして」

――医療費亡国論。1983年に提唱された内容が、脳裏を過る。

増大する医療費こそが、国家財政を圧迫し、国を亡ぼすのではないか、という警鐘だ。

20年以上前、この論説を認識して以降、未だに医療業界は答えを提示できていない。解の一つとして「高額療養費制度の引き上げ」が提案されたのだろうが、それだけは絶対に違う。

――メスを入れるべき”疾患部位”は、別部位にある。

現在の日本において、医療の在り方を考えることは、社会の在り方を考えることと同義だ。

私が最初に記載したnote記事「もし君が総理大臣なら、医師をどうする?」の想いもここに由来する。

第3章:拭い難い刻印、集合的トラウマ

血友病を語る上で、絶対に避けては通れない社会問題がある。

――薬害エイズ事件

1980年代、日本の血友病患者の少なからぬ人数が、非加熱製剤によってHIVに感染した。その数、1400人。使用者の3割にも上る。

本来、命を守る筈の治療薬が、命を危険に晒す感染源となってしまった。

この事件は、単なる医療ミスではなかった。

情報の隠蔽により、二次・三次感染の予防や、早期治療による発症予防の機会が奪われた。

裁判では、販売許可を出した厚生省と、実際の販売に携わった製薬会社5社に対して訴訟がなされ、患者および遺族の訴えを全面的に認める形で和解が成立した。

まさに、日本中を揺るがした、国家的な医療災害だったのだ。

この事件は、血友病患者にとっての“集合的トラウマ”として、今なお深く根を下ろしている。

臨床試験がどれほど進んでいようと、厚労省の承認が下りていようと、「また、あの時のようなことが起こるのではないか」 という不信感は、完全には払拭できない。

医療観と社会観の相克を叶えた私には、常日頃より”祈り”がある。
――「健全なる社会が、末代まで続きますように」

これ以上、彼らが失望しない社会であって欲しいと願う。

第4章:難病患者にこそ手厚く

医療政策においては、リスク・マネジメントという学術領域が存在する。

・そのイベントが発生する頻度、たしからしさ
・そのイベントが発生した時のインパクトの程度

の2つの軸で事象は分類される。

2 × 2で分けられる4つのマトリクスのどこに該当するかで、そのリスクにたいする合理的な対策は異なるとされている。

①高い頻度、インパクト大 → リスク回避
②低い頻度、インパクト大 → リスク転嫁(保険など)
③高い頻度、インパクト小 → リスク低減(予防など)
④低い頻度、インパクト小 → リスク保有

と、実際のアクションプランも分類されているのだ。

では、人類社会全体で難病を捉えるとどうだろうか。
難病とは、発症する頻度は低いが、発症した場合のインパクトは大きい。上記の図表では②カテゴリーに相当する。結果、人類社会全体で見たときに、難病に対してはリスクを転嫁するのが合理的と結論づけられる。

その中で、最も身近な手段が、リスクに対して保険をかけるという行為だ。リスク・マネジメントの中でも、リスク・ファイナンシングと呼ばれる領域だ。

医療政策という観点からは、血友病のような難病領域にこそ、手厚い保険機能を提供するのが、合理的となる。

これは、何も、血友病の患者という属性集団に対してのみ迎合している訳ではない。社会全体の便益を鑑みて、学術的に結論付けられる内容だ。そして、この様な説明があり、合理的かつ合目的的な資金使途であれば、国民の理解も得られるのではないだろうか。

第5章:難病と老化を科学する

私が経営する銀座アイグラッドクリニックのキャッチコピーは3つある。

・美養と老化を科学する
・がんと老化を科学する
・難病と老化を科学する

薬液の検証機関として、老化治療薬に焦点をあてているが、老化を探究していくと必ず、がん領域や難病領域とも重なる。それゆえ、さまざまな専門性を有する医師や研究者たちと連携し、時と場合によっては共同研究も実施している。

社会全体から俯瞰した時、銀座アイグラッドクリニックの機能として、三者のマッチングプラットフォームを強調している。

・代替手段がない患者
・奏功する可能性のある物質
・それを実際に検証する医師

観察研究を丁寧に行い、実臨床における現象から仮説をたて、その仮説を基礎研究で証明しようと試みる。トランスレーショナルリサーチの逆、リバーストランスレーショナルリサーチだ。

いつの日か、血友病に対しても、きっと――

「僕を使って、血友病患者の希望になってよ」

――銀座アイグラッド。ここは、医師たちの共創の場。

おわりに

私たちは今、交差する時間の中で、新しい医療のかたちを模索しています。

「老化は治る」という世界観が提唱されており、2019年には世界保健機構(WHO)が公表する国際疾病分類第11版(ICD-11)で、「XT9T=aging related」というエクステンションコードも制定されました。

医学の常識は日進月歩。それに伴って、理想の医療、理想の医師像も変わっていくことでしょう。

歴史的に、人類は、不衛生を、低栄養を、感染症を、克服してきました。これからは、がんを、老化を、克服していくことでしょう。

中でも、老化の克服は、他の疾患の克服による寿命延長が(集団の)平均寿命の延長を意味するのではなく、(個人の)健康寿命の延長や最大寿命の延長を意味します。

結果として、医療費の抑制にもつながる可能性があり、老化治療薬の普及は医療費亡国論に対する解の一つかもしれません。

私たち「医療の鉄人」は、自分たちの専門性に矜持を持ちつつも、全ては、患者のため、社会のために、自分たちを社会資源として捉えなおし、一層の付加価値を生み出そうとする医師たちの集団です。

そんなことを、目指しています。

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