なぜか日本では読まれない“世紀の名著”『WEIRD』への愛を書き殴る
「過去イチ」の翻訳書
こんにちは。オンライン読書プログラム「問い読」の共同創業者で、『弱さ考』という本の著者の井上慎平です。
突然ですが、日本ではなぜかほとんど話題に上がらない「世紀の名著」『WEIRD』という本をご存じでしょうか。
たぶん、世界的にもっとも売れたノンフィクション(教養書)といえば、ジャレド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』になると思います。日本でも50万部、世界的でも数百万部売れています。日本でも、朝日新聞が選んだ「ゼロ年代の50冊」で堂々の第1位に輝きました。
実は、僕『WEIRD』は個人的にこの『銃・病原菌・鉄』を超えるとすら思っています。仕事柄これまで100冊以上はこういう骨太な翻訳書を読んできましたが、過去イチ面白かった。
でもですよ、びっくりすることに、日本版Amazonで『銃・病原菌・鉄』は4000件を超えるレビューがあるのに対し、『WEIRD』はなんと、、、34!1/100!悲しすぎる!もったいなすぎる!
しかもこの本、ビジネスパーソンにとってめちゃくちゃ示唆にとんでいます。ビジネスパーソンにとって、月並みな「ビジネス書」よりもめちゃめちゃ示唆があります。(理由は後述)
実は経済学者の安田洋祐さん、エール取締役で、読書家としても知られる篠田真貴子さんも激賞。安田さんは「(この本は)21世紀の『銃・病原菌・鉄』」とまで語る、まさに世紀の一冊なんです。このまま埋もれさせちゃいけないんです!!!
いやー、知ってほしい。こんなに隠れた名著が世の中に存在することを。そのためならなんでもするぜってことでこんなnoteを書いてます。この本の面白さが伝わるまで僕はもう止まれません。
皮肉なタイトル
さて、いよいよ内容に入っていきたいんですが…
まず、タイトルの『WEIRD』って何よ?というところから。
これ、2つの言葉がかかってるんです。
まず英語で、「weird」は「奇妙」を意味します。あんまりいい意味じゃないんですね。
で、2つ目の意味ですが、実はWEIRDはそれぞれ、頭文字が
Western
Educated
Industrialized
Rich
Democratic
つまり「西洋的で、教育水準が高く、工業化された、豊かで、民主的な社会に属する人々」という意味も込められているんですね。
著者のジョセフヘンリックの主張は、ここに詰まってます。
この本のサブタイトルは「『現代人』の奇妙な心理 経済的繁栄、民主制、個人主義の起源」です。
つまり、現代人は「奇妙」だと。そして、「奇妙」だからこそ、経済的繁栄を手にできたのだと、ヘンリックはそう逆説的に主張します。
一言でこの本を表せば、「現代の起源」がわかる。現代的なものの考え方や価値観が急に現れた歴史上とても異質なものだということと、なぜそうなったかという起源がわかる本です。
WEIRDな国ってどこ?
では、WEIRDな国とはどこか。具体的にはアメリカ、カナダ、西ヨーロッパのイギリス、ドイツ、フランス、オランダ、あと北欧諸国やオーストラリアあたりです。
たぶん、ここが日本であまり売れていない理由にもなっているんですよね。アジアの国はWEIRDではない。日本は経済的には豊かですが、WEIRDの特徴である個人主義ではない。でも、その日本が今急激にWEIRD化している。そのギャップがあるから、僕は日本の人こそ面白く読めるんじゃないかと感じます。
人類は親族を頼り生きてきた
この本ではまず、「個人主義の社会」と、その反対に「親族・血縁ベースの社会」がある、と分けます。
「個人主義」という言葉は、「親族ベース」との対比で見たほうがわかりやすい。
「親族ベース」というのは、
内集団を大事にします。つまり、仲間内は大事にするが、仲間内以外には冷たい。
また、年長者の権威を大切にするという特徴があります。
そして、仲間内の和をみだしたり、自分や他人の面子を損なわないようにと、互いに互いを監視する。
つまりは「身内」の利益を優先するのが親族ベースの社会です。また、罪より恥の意識を大事にします。これを読んだ時に僕は、めっちゃ「ちょっと前の日本やん!」と感じました。
いきなり個人主義
逆に、「個人主義」はこうです。
集団への同調圧力が低い。「他人はいい。自分はどう考えるのか?」というわけです。
そして人間関係よりも、自分のことを第一に考える。これは自己中心的という意味ではなくて自分の業績や目標を達成できているか、あるいは自分らしさを大事にするという意味です。
そして、恥ではなく罪を大事にする。罪というのは、日常の言葉でいうと罪悪感です。
この恥と罪の対比、よく「日本は恥の文化で欧米は罪の文化だ」なんて説明されるんですが、一番の違いは、誰の視線を気にするかにあります。恥は他人の視線を気にしている。ところが罪は、自分の視線を気にしている。どういうことかというと、自分の中にいるもう1人の自分からの視線を気にしている。自分で、自分を責める。
僕はこれを読んだ時、「今の日本やん!」って思いました。親族ベースは「ちょっと前の日本」、個人主義は「今の日本」。というか今の職場ですね。
ビジネスパーソンこそ本書を
・自分の業績や目標に意識を向ける
・同調圧力なんか気にするな。臆せず自分の意見を言え
なんてすごい職場っぽい。 だいたい、仕事で成果が出なくてキツいときも、他人の目線が恥ずかしいというよりも、自分で自分に「なぜできないんだ」と責めてしまう。「他責にするな、自責であれ!」とかもよく言われるじゃないですか。
個人主義的な人間像は、まさに職場で求められるふるまいそのものですよね。僕が、「この本はビジネスパーソンに示唆があるなー」と思うのはこういう部分なんです。
日本(というかWEIRD以外の世界のほとんどの国)は親族ベースでやってきた。今も多くの国は親族ベースで社会が回っている。
でも、日本は大きな過渡期にいるんです。日本的な身内や関係性ベースの文化は、政治や、地方の消防団みたいな自治組織などにはまだ色濃く残っている。一方で、職場では個人主義的ふるまいが当たり前になってきている。
僕らは、急にやってきた現代的なものの見方や価値観に適応したふりをして、うまく適応しきれていない。急激な変化の渦の中にいる。僕にはそう見えます。
キリスト教が世界に入れた2つのヒビ
さて、著者の主張に戻ると、なぜこのWEIRDな国が生まれたか?
著者は「キリスト教のせいだ」と一言で言い切るんですね。
しかも面白いのが「結婚制度のせいだ」と、
ここは読み流してもらっていいですが、西洋では、キリスト教が結婚に「ルール」を定めた。ざっくり言えば、いとこや義理の兄弟とか親族の近しい人と結婚したらダメよ、といった。
その結果、ほとんどの人類が築き上げてきた親族ベースの社会に一個目のヒビが入るんです。
親族ベースの社会って、けっこう近しい親族同士で結婚するのは当たり前だったんですよ。親族・血縁の結束が強くなるから。でも、キリスト教はこれを禁止した。
そして、二個目のヒビを入れたのが、プロテスタントの誕生です。
プロテスタントって、一言で言えば、「神と1人ひとり向き合い、関係性を築け」っていう教えなんです。
すると、どうなるか?文字を読む人が急増します。だって、神と一対一でつながるには聖書を読まなきゃいけない。当時は識字率が低かったんですけど、プロテスタントが出てきたエリアは勉強する人がめっちゃ増えるんです。
ヘンリックのすごいところは、これを膨大なデータで示すところ。プロテスタントと長いこと触れた地域とそうじゃない地域は識字率がこれだけ違うとか、プロテスタントの都市から何キロ離れるごとにこれだけ識字率が下がるとか…。ぐうの音も出ないくらいデータで圧倒する。
「この本、あの偉大な2冊を超えたな」
僕は、この本、マックス・ウェーバーという人が書いた名著、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、略して『プロ倫』も超えたと思いました。少なくとも『WEIRD』を読めば『プロ倫』を読む必要はあまりない。同じテーマがもっと深く書かれてますから。
そしてこの本、『銃・病原菌・鉄』も超えてると個人的には思います。
『銃・病原菌・鉄』のテーマは「なぜユーラシア大陸の文明が他を上回るようになったのか」です。なぜ現代「欧米諸国」と呼ばれる地域が経済的に繁栄しているのか?は扱っていない。『WEIRD』はそこに答えてるんですよね。この偉大な2冊が残した問いに見事に答えた。身震いしました。
まとめると、世界は基本的に親族ベースで社会をつくりあげてきた。そこにキリスト教が近親者との結婚禁止というルールを設けたことで一個目のヒビが入った。そしてプロテスタントが神と一対一で向き合わせることで二個目のひびが入った。
その結果として親族ベースが解体され、個人主義が加速し、結果としてプロテスタントの国々が栄えた。それがヘンリックの言い分です。
個人主義になるとリッチになる
ではなぜ、個人主義が経済的繁栄をもたらすのか?
それは、個人主義がビジネスと相性がいいからです。
親族ベースというのは、仲間かどうかやメンツを大事にする、日本語で言うなら「ムラ社会」的な社会のあり方です。
「ムラ社会」というと悪い風に聞こえますが、何度でも強調します。親族ベースこそが、人類ではむしろふつうだったんです。もちろん、そこにはそれなりのメリットがあった。
親族ベース、身内文化の共同体は、いざというときに助け合いの精神が働きます。
でも、個人主義の社会は?頼るものがいないから、自分を頼りにするしかないのです。
ヘンリックはいいます。学術的な言葉は日常的な言葉に一部置き換えていますが、ほぼ原文のままです。これ、能力主義の世界で成功する条件そのまんまなんですよね。
「親族のきずなが弱い場合は、個人はギブアンドテイクの関係を、大抵見ず知らずの相手と築いていかなければならない。そのためには、他者とは違う能力を高め、業績を上げることで、自分をその他大勢から際立たせなければならない。個人中心の世界で成功するためには、独立心が旺盛で、権威に従わず、個人の業績に関心を向けているほうが有利になる」
親族ベースが「ムラ社会」的なら、個人主義は市場、マーケット的です。仲間内かどうかにはこだわらず、見ず知らずの人を冷遇しない。マーケット的であり、もっといえば商い・ビジネス的です。
このマーケット的な個人主義が、親族のきずなを失ったキリスト教圏でたまたま生まれた。
逆に言えば、キリスト教という強力なハサミでチョキチョキと親族のきずなを切らないかぎり、こういう個人主義の社会は生まれづらい。
日本の職場に欧米のビジネス書はフィットしない
少し話が逸れますが、ビジネス書の編集者を長くやってきて、欧米の翻訳書をそのまま日本に適用しても、うまくいくはずがないよなと思ってきました。この本を読んだ後だと、そのことを確信します。
日本人が読む翻訳ビジネス書はアメリカのものが圧倒的に多いですが、それはWEIRD、奇妙な国で生まれた考え方やメソッドで、日本社会は、まったくカルチャーが異なるからです。
印象論で語られる「文化」に殴り込んだ『WEIRD』
さて、最後に僕のヘンリック愛を語ります。この人、専門は文化人類学なんです。その中でも「文化進化」というテーマの世界的第一人者。文化がいかに変化していくか、それはどの要因によるのかを掘り下げてきたのがヘンリックです。「文化進化」というテーマ、めちゃくちゃおもしろいですよ。
そして、この人、ほんとにデータオタクなんですね。
ただこれにはわけがあり、文化論は今まで逆にデータ抜きの議論がすごく多かった。たとえば日本文化でいえば『菊と刀』や『空気の研究』など今日まで影響を与えている本も多いですが、定量的なデータに基づく話は少なく、ほぼすべて事例ベースです。だから、どこまでいっても「そうかもしれないし、どうじゃないかもしれない」という印象論の域を出ない。これは日本だけじゃなくて、世界的にもそうでした。ヘンリックが出るまでは。
「奇妙」な現代世界の起源を知る
さて、今回取り上げたのはこの大著のごく一部。この本がいったいどんな本なのか、本のキャッチコピーをそのまま記しておきます。
「西洋化した現代人の心理は、歴史上のどんな社会の人々ともまったく異なっている。その奇妙な心はいつ、いかに生まれたのか?私たちは何者なのか?社会学・心理学・経済学・生物学を横断する知的興奮の書!」
この壮大なコピーに偽りなし。しかも安心してください。この本のすごいところは、予備知識ゼロでも読めるところですから。
本にズラーっと並ぶ推薦者もツワモノばかりです。推薦の声を一部抜き出すと「社会思想書における最高傑作」「現代世界の起源を知る上で必読」
本当に、そう思います。
では、なぜこれほどの本が日本であまり読まれていないのか?ひとつは、ゴツいからだろうなあ。上下巻ハードカバー、本文だけで680ページもあります。
でも、ひるむ必要はないです。翻訳の文章もこなれてて、海外の本のなかでは、僕は比較的読みやすいと感じました。時間は、多少かかるかもしれないけれど。
予備知識なしで挑める、世紀の名著
さて、ここで僕たちが主催する問い読の紹介をさせてください。
問い読は完全オンラインの読書ゼミで、このたびこの『WEIRD』が課題図書となりました。ちなみに他にも3冊、計4冊の課題図書を設定して参加者募集中です。
そして、『WIERD』、締切が9/11(!)。直前の告知でごめんなさい。
雰囲気を掴んでみたいという方は無料体験会も9/10(『WEIRD』の締切はすぎてますが、16にも)にやってます。
ちなみに、体験会に参加しないとゼミに申し込めないわけではないです。だいたい過半数の方が体験会を経験せずいきなり申し込まれます。
僕たちは問いを大事にします。本を読み、正解のない問いを囲んで対話する。正式名称は、「問いからはじめるアウトプット読書ゼミ」です。
ド直球でお願いします!『WEIRD』、魅力が伝わりづらいこの世紀の名著を、ぜひ問い読で一緒に読み切りませんか。
補足しておくと、参加者の方からよく聴く声が「私はあまり本を読んでいないし、議論も得意じゃないけれど足を引っ張らないでしょうか、ついていけるでしょうか」ですが、まったく大丈夫です。
僕も含めちょいムズ本は、1人ではだいたい挫折します。だから問い読を作ったんです。こういう本は初めてだという方でも、安心していらしてください。
これからもこういった名著を紹介していくので、よろしければフォローしてくださると嬉しいです。
また、株式会社問い読は「ちょいムズ本」というPodcastも配信していて、毎週その道のプロが惚れ込んだ、隠れた名著を紹介してもらっています。
それでは、世界に「ちょいムズ本」を楽しむ人が1人でも増えることを願って。じゃあ、また。
よろしければ、こちらから
問い読の詳細および無料体験会について👇
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井上慎平
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