初恋 Time and Space Travelers.3章
123章 天国と地獄 Orangina flower wine.
「ちーす、タイタン。お疲れ。一同を講堂に集めてね」
「こんちは。メモです。では一足先に」
いつものやりとりだ。しかしタイタンはいつまで甲冑姿なんだろうか、リーヴァイは欠伸した。
「はい、こんにちは。今日はですね、初陣した人の話を聞きましょう。8人の人、前に出て1人ずつ話して下さい」
そう言って自分は座る。
タイタンはウイリアムに譲り、ウイリアムは立ち上がった。
「まず、一言で言えば地獄でした」とウイリアムは始めた。
「実習でしたのとは違います。地獄というのはこういう事だと思い知りました。次々と戦士が倒れ、顧問がかなり早く蘇生してくれたのですが、最初はそこに治癒をかけるので精一杯でした。ようやく慣れて、蘇生が出来るようになっても、今度は治癒をする前に死んでしまいます。迷っている暇はないので、後はもうチームワークでした。顧問がいなかったらと思うとゾッとします。顧問は何もかもが素早くて、しかも剣技までやって私たちを助けてくれました。ようやく蘇生、治癒までできるようになったのは、もう慣れですね。保護や加護や力は皆さんがしてくれるものと信じて、後はチームワークです。紋章にあるように、友情を感じました。一体感です。あと、タイタン君も剣技でかなり助けてくれました。とにかく、顧問が最初に無理をせず自分を守るようにと訓示された意味が良くわかりました。タイタン君は慣れているようですが、私の馬術や剣術など通用しません。嵐に遭遇したような、そして通過していったような感覚です。みなさんも、次はご自分の番です。自分の命を一番に優先する。私に言えるのはこれだけです。そしてチームを信頼する。あそこで死ぬのは馬鹿です。自分の命が一番と考えるのがいいと、私は思いました」
「はい、大変いい回答でした。そうです、ちょっと今回は例外で。前にも言いましたけど。次はもっと楽させます。そして楽する為に頑張りましょう。次の人どうぞ」
譲り合い、タイタンが出た。
「自分もウイリアムさんと同感です。確かに剣技はできましたが、それは仲間を守る為だけです。仲間なんです。仲間って、ホーリーグレイルの事なんです。率直に言いますと、他はどうでもいいというかですね。勝手にやってくれって感じでした。とにかく蘇生や回復はウイリアムさんの仰る通りです。実習と実戦では違いました。途中から、チームプレイというか連携が自然にできて、自分はその友情に感動しました。互いの苦手を分かち合い、自分の苦手も分かち合って貰ったという感じです。あと付け加えれば、こんな事はもしかしたら言ってはいけないのかもしれないし、ホーリーグレイルには似つかわしくない言葉だと思うのですが、今回の事で給料が物凄く良くなりました。顧問が掛け合ってくれたのだと思います。それだけ、我々は結果を残したし、みなさんは期待されているんです。これからも、友情を信条に仲間同士頑張りましょう」
「はい。えっと給料は確かに掛け合いました。だけど、君たちがもぎ取ったものです。それだけの事をしたんです。その金で上手い物を食べて、いい精神を培って下さい。いい精神に、裏切りは無いです。仲間を裏切るというような事はできない筈です。何度も言いますが、私たちは平等です。そして人生やるのは1度きりの大事業、困難とお楽しみの永遠の延長戦です。では次の人」
★
リーヴァイもそうだが、皆んなが地獄を見たって事だな。
あれ、こっちの国に地獄って言葉あったかな?
こっちの国の聖書には、天国すら無かったんだが。
死ぬと大司教に送り出され安らかに祖先の元に行く、とかじゃなかったかな。
でもまあ、リーヴァイ自身も天国とか地獄とか、あまり信じていない所があるというか、魔法聖職者なんかやってると、その境目ってなんだろうと思うし、でも戦場に出ると確実に地獄はある、とは思ってきたんだけど。
目に見える物だけが全てではない。それは分かっているんだけど。
でも聖職者は、目に見えない物を信じ、信じさせなければならない。
★
「えっと。現地で出しても良かったんですが、この経験談を生きたまましたかったので今日にしました。これから1週間の休暇を出します。今回は、とても大変でした。でも、次は楽させます。楽するためには、授業ではなく、現場で状況の判断をしなければなりません。これには、軍隊との連携も入ってきますから、ややこしくなりますが、まあ、今回はみんなお疲れした。よく休んで下さい。来週の月曜からまたやりますよ。では1度解散」
★
リーヴァイは腕を組む。
ベンチの前に並んでいる薄茶の人たちに。
取り敢えずベンチに座りタバコを咥え、「名前の事ですよね」と聞く。
「はい。こういう方法はどうかと妻と話しまして。つまりですね、みんなの候補の名前を書いた紙に、あみだくじを作って決める」
リーヴァイは考えた。こっちの国に、あみだくじってあったかな?
「それで、線を選んで決めるんですよね」
「はい」
ちょっと、うんざりしてきたぞ。俺は精神的に疲れてるんだよ、みんな。
「それで問題が出ないなら、いいと思いますよ」
「出るでしょうか」
「出ます」
今度は拗らせ系の男だ。
「まさかと思うけど、まだ本屋の姉妹に取り合いさせてるの?」
「違うけど、かすってます」
「どういう意味?」
「オレジーナ地方に行ったんですよね?美人いました?」
「顔じゃないって言ったよね?それから俺、戦争に行ったんだよ。一面の男だよ。男風呂に入って来たんだよ。死体すら男なんだよ」
「んー、困ったなあ」
「俺が困ってるよ」
「聞いたんですよね、美人姉妹に。すると、姉の方は2年以内には婿が欲しいって言うし。妹の方は5年は待てるって言うんです」
「続いてんじゃん。まだその姉妹に振り回されてんじゃない。もう俺が決めてやる。君は後、3年は結婚するな。あるいはそれ以上だ」
「理由は?」
そこでリーヴァイは、ようやく気付いた。身を乗り出す。
「君はやっぱ、俺をからかって遊んでるよね?君もオレジーナ行ったよね?」
「いませんでしたねー、美人」
「はい、終わり終わり。あと3年は決めない。顔で決めない。本屋から離れる。以上、以上」
★
顧問、リーヴァイ顧問という声に振り向くと、ウイリアムさんだった。
「はいはい」
「すいません、お忙しそうなのに」
「ああ。あいつらはなんか、俺をからかって遊んでるだけ、って気がしてきたんで、いいんですよ」
「今回はと仰いましたが、次はどうなるのでしょう」
「さっき言いました。もっと後方で頭脳になります。本来の姿です。より判断が難しくはなりますが、今回みたいに命がかかるような事はありませんし、次回は200人と考えてますから、もっと負担は軽くなる、その変わり頭脳が必要になるという事っすかね」
「そうなんですか。それも難しそうですね」
「ある意味では難しいです。ですが今回の事で色々な事がわかりました。つまりですね、魔法連盟が使い物になんないって事なんですよ。アレク顧問と話して、あれはもう飾りにしちゃった方がいいなって話になったくらい、使い物にならないんです。あのクソバカ女が何も分かってなくて難儀しました。これから顧問はちょっとイータンに難癖付けますから、実はここだけの話、今回の事でもうバックれようかと思ったんですよ。でも、姪が見学に来るってんで、イヤイヤ行ったってカンジなんです。完全な後衛なんです。後方支援。ウイリアムさんも大変な目に合わせてしまって、すいませんでした」
「あの、それで振り込みに200万紙幣あったんですが」
「安いんじゃないですかね。こっちは命張ってんだから」
「頂いてもいいものか」
「いいんです、いいんです。ウイリアムさんは蘇生ができるんですから、安いもんですよ。あ、特別金とかではないですよ、これからの給料がそれだけって事です」
「毎月という事ですか?」
「そうです。毎月の給料がそれだけになりました。もう少し欲しかったんですけどね」
「ありがたいですが、ご無理をされたんでは」
「ご無理をするのはこれからです。マジ怒ってんですよ。前衛の後衛なんて陣はありえないんです。それでは頭脳としての役割が果たせないじゃないですか。ホーリーグレイルは頭脳集団です。今回の事で勘違いされると困るんですよね」
「頭脳プレイが出来るかどうか」
「してたじゃないですか。お互いを補ってたんでしょ?それで取り敢えずいいんですよ。まあ、経験としては良かったのでは?戦場ってのはあんなもんです。凄い矛盾を感じませんでしたか」
「感じました」
「俺はいつも矛盾を感じて、向いてないんですよね、この仕事。1番弱きを救うのが仕事なのに、その弱きを救えない。俺はなんたって戦場で馬が死ぬのが苦しいんです。アイツら、何をしました?言われたまま連れてこられただけなのに楽しみもないまま死んでしまう。アレク顧問はそれを知ってますから、今回は馬を殺さないでくれましたけど。実は戦場では、馬を殺すのが割といい手段であったりするんですよ。悲しいです」
「馬は蘇生できないものでしょうか」
「俺はできるんですよ。あ、猫もできますよ。理論的には同じです。首が無いと無理とかね。まあ、少しの差なんで、そのうち暇になったらウイリアムさんには教えますよ。猫が蘇生できるといいですね」
「そうなったらどんなにいいでしょう。それから、呼び止めたのは大変お恥ずかしいプライベートな事なんですが」
「お子さんの事ですか」
「はい。どうも出来ません」
「うーん。仲が良すぎても出来ないって言いますからね。奥方の月の物の周期は安定してますか」
「中々聞き辛いのですが、どうも安定しているようですね」
「やっぱこの前話した周期で、狙い撃ちしか無いんじゃないですかね。奥方はお幾つでしたか」
「もう25になりまして」
「まだまだいけますよ。後14年はいけます。あまり焦ってもいけませんよ」
「その」
「奥方に問題があると考えてらっしゃるんですね」
「その、はい。体は問題ないと私は思うんですが」とウイリアムさんは俯いた。
「だったら諦めるのも手かもしれないですね。どうしても家を存続させたいのなら、養子取るのも手ですが、もうは10年待ってみたらどうかな」
「そうですね。残すような家でもないのですが、どうしても妻の実家の目が厳しくて。妻が気の毒なんです」
「ウイリアムさんは愛妻家ですね。シーアの信条は、運命は気まぐれ、ですよ。想像主も気まぐれなのかもしれないです。試されてると思ってみたらどうかな」
「どう試されているのでしょうか」
「例えば、どんな子にしようか選んでるとか」
ウイリアムさんがやっと笑った。
★
「母ちゃん、見て!」とワイを見せる。「おや、オレジーナワイか」と喜ぶ。
「母ちゃんの親族さんの店に行った時に、チビが好きそうだから1本買ってきた」
「なんだい。アタシへの土産じゃないのかい」と、ジャンはとたんに機嫌が悪くなる。
「えーっと。気が利かなくて悪かったな。もう一走り行って買ってこようかな」
「いいよ、いいよ。どうせアタシの事なんか、これっぽっちも考えてやしなかったんだろ」
「そんな事ないよ。だから親族さんの店に行ってさ、トラム叩いたんだから」
「叩けたのかい?」
「最初遊んでただけなんだけど、コツを掴めばいいね。俺は気に入った」
「アンタやっぱ、ここで働きなよ。軍隊なんてもうやめな」
「俺だってやめたいよ」
「全く。リーといいアレクといい、スカーレットといい。人が心配してるのに顔も出さないでさ」
「あれ、アレクはともかくチビは来てないの?」リーヴァイはワイの瓶を下げて目を開いた。
「来てないんだよ。アタシはイヤなカンジがすんだよ。あの子が笑わない子になっちゃうんじゃないかって」
「何かあったのかな」
ミートボールスパゲティを食べてから厩に行くと、カイがいた。
「カイ、チビって乗ってこないの?」
「リーに言われた通り2時間待ってるけど、こないね。俺心配。お腹すいてないかな」
★
リーヴァイは夜、テラスでアレクに相談した。
「早く行ってみたほうがいいんじゃないか?」
「でも、急に行くと気を遣ってるみたいじゃない。アレってそういうの癇癪起こすし」
「それからお前、イータンにイチャモンはきちんとつけろよ」
「あ、これから手紙書くよ」
「どんな内容にする」
「公正証書に抵触しているとみなして、チビ連れて出るって書く」
「そのくらいの脅しは必要かもな」
「そん時はアレクも道連れ」
「それはそうだろうな。それでお前は運動して酒飲んで来たワケだな」
「やっぱあれだよね。死ぬかと思うと女抱きたくなるのは仕方ないよね」
「そんなものだろうな。とにかく、ドタバタは過ぎた。暫くは平穏でいられる」
「アレクの方に、報奨金とか入ってた?」
「見に行っていないな。そうか、もう給料日か」
「俺は引き出しに行ったけど、いつもより200万多く振り込まれてたよ。もしそこに差があったら、それもイチャモンの種にするから、急いでね」
「明日行く」
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