私たちに土はつくれないが、育てることはできる
英語で「土」を表す言葉には、「Soil」と「Dirt」があります。
「Soil」は植物の生育に適した生きものや養分を含む「生きた土(土壌)」を表すのに対し、「Dirt」は生命感のないただの泥や埃などを指します。植物を育てる豊かな土には、動物や微生物などの生きものが豊富に存在しています。
これらの土の生きものは、土壌中の有機物の分解・物質循環に関わています。これにより土中の腐植が増え、水はけ、通気性、保水性、保肥性を高める「団粒構造」の形成へとつながるのです。
生産性の向上を第一とした近代化農業は、土に本来そなわる機能(はたらき)への配慮に欠け、化学肥料や化学合成農薬の多用と大型機械による耕耘により、農地から土の生きものを排除する栽培を続けてきました。化学肥料や農薬の効果を計算しやすくするために、生きものの関与が少ない「Dirt」のような土壌にしてしまった一面もあります。
しかし、化学肥料の多用は農地の養分バランスを崩し作物の生育を悪くするとともに、地下水の汚染源にもなっています。
農薬の多用は病害虫に抵抗性を獲得させ、農薬への耐性を持った種類があらわれるため、新たな農薬を開発しなければならず、「病害虫と農薬のいたちごっこ」を余儀なくされています。
生物の世界では、個々の生きものそのものが環境に適応していくため、工学的に精製された薬品(製品)の効果は持続するものではありません。1960年代から本格的に進められてきた農業の近代化は、将来にわたって持続可能な栽培法ではないことが明らかになってきたのです。
どのようにすれば、作物が育つ<生きた土>で持続可能な栽培ができるのでしょうか?
それには、土壌中に有機物=土の生きものの「餌」や「棲みか」を増やすことです。棲息環境を整えることは、多種多様な生きものを増やすことにつながります。土の生きものを育て、増やしていく行為=生きものが棲みやすい環境を整える行為が<土を育てる>ことなのです。
土壌に棲息する多様な生きものの中には、栽培作物に病虫害を及ぼすものもいます。しかし、病害虫を抑制する天敵も存在し、多様な生きものの多くは、害虫でも天敵でもない<ただの虫>です。<ただの虫>の存在が、農地に複雑な食物連鎖を形成し、天敵の密度を安定させ、病害虫の密度を低く抑制してくれます。
土は、人間が手作業や薬品で「つくれる」ものではありません。
私たちにできるのは、生きものにより土が生成されていくしくみを理解し、<土を育てる>ことなのです。

