ポレポレ東中野 《三島有紀子監督特集》短編プログラム『オヤジファイト』『よろこびのうた Ode to Joy』『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』
映画館・ポレポレ東中野の1階にはカフェがある。
このお店の『居候』を自称しているのが映画監督の三島有紀子氏で、ポレポレ東中野での『一月の声に歓びを刻め』(2024年)の(凱旋?)上映にあたり、特集上映プログラムが組まれた。
2024年7月28日 15:20上映回は、三島監督の短編映画の特集で、『オヤジファイト』(2015年、27分。オムニバス映画『破れたハートを売り物に』収録)、『よろこびのうた Ode to joy』(2021年、11分。オムニバス映画『VIDOC-19』収録)、『インペリアル 大阪堂島出入橋』(2022年、15分。『MIRRORLIAR FILM Season2』収録)の3本(上映順)が続けて上映された。
続けて観て気づいたことは2つ。
三島監督は「男のロマン」に興味があるんだなぁ、ということと、「家族」は常に崩壊している、ということ。
『オヤジファイト』は、マキタスポーツ演じる中年男が別れた妻と復縁するためボクシングを始めるというストーリーで、「ボクシングって男が一度は憧れるよなぁ」、或いは「真っ白に燃え尽きた自分」に憧れるのかもしれないが、いずれにしても「ボクシングは男のロマン」である。
で、私を含む男性客が仮託する「ロマン」は案の定上手くはいかないのだが、三島監督はそれを茶化しているわけではない。
かといって美化しているわけでもなく、三島監督は純粋に「何故闘っているのか、何と闘っているのか」が知りたいのではないか。
結局リングに上がることを自ら放棄して日常生活に戻った男は、仕事帰りの夜の新橋駅SL広場で突然シャドーボクシングを始める。
その姿は初め滑稽に映るが、攻めるだけでなく殴られもする(このマイムが素敵だ)長回しを見ているうちに、身体中が熱くなってくる。
熱くなった理由を私は知ろうとは思わない。「ロマン」は「ロマン」として心の中で常に燃やしておきたいから。
知ろうとは思わないのは『よろこびのうた』で、藤原季節演じる男が一人カラオケボックスで熱唱しながら流す涙の訳だ。
福島県の海岸で倒れていた老女(富司純子)に声を掛けた男は、老女にある依頼を持ちかける。老女は話に乗り、依頼を遂行する。帰りの車の中で、男と老女は「ハーゲンダッツ」のアイスを食べる(とても良いシーン)。
その後、恐らく「二度と会わない」という約束をして別れただろう二人の別々のショットが映される。
男は一人カラオケボックスで熱唱しながら泣いていた。私は、彼の涙の意味を知ろうとは思わない。
世の中には知らないでいいことがある。
知ることで相手を傷つけることだってあるのだ。
「男のロマン」といえば、『インペリアル』での佐藤浩市演じる洋食料理店のオーナーシェフだった老年男性もそうだが、男は何故、自分の人生を振り返ろうとするのか。
男は、(映画『一月の声に歓びを刻め』の三話目の舞台でもある)大阪堂島にある自分の店「インペリアル」を手放さざるを得なくなる。
その最後の日。
男は、夜明け前に一人、店の定番で自慢の一品を持って店を出て、出入橋が掛かる大きな通りを目指す。歩きながら彼は、自分の人生を振り返る(15分の作品中、実に11分40秒・800mを彼が皿を持って歩きながらモノローグで自身の人生を振り返る長回しに費やされる。この圧巻のシーンは、夜明けと途中の信号のタイミングを計算し、1日1回、午前4時16分に撮影が開始されたという)。
さて、この3本は、別々の時期にそれぞれの意図を持って作られたものだが、面白いことにどの男の家族も壊れている。
『オヤジファイト』の男は、離婚していて高校生の娘(岸井ゆきのが初々しい)も冷たい。
『よろこびのうた』の男は、震災で家族全員を失っている。
『インペリアル』の男は、家を飛び出した息子と長年音信不通、妻にも先立たれた。
私は『一月の声に歓びを刻め』に関する拙稿にこう書いた。
(三島監督の)「作家性」ということで云えば、子どもにとって父親が絶対的な庇護者であることも挙げられるのではないか
今回の上映作でいえば、『オヤジファイト』と『インペリアル』が、絶対的庇護者になり損ねた父親の話だったというのは、興味深いと思った。
メモ
《三島有紀子監督特集》短編プログラム『オヤジファイト』『よろこびのうた Ode to Joy』『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』
2024年7月28日。@ポレポレ東中野
入場の際、三島監督自身が手書き(のコピー)のポストカードを観客に手渡ししていた。また、今回の特集上映の費用を捻出する意味もあって、ポレポレ東中野特製のブックレットが販売されていた(1000円)。三島監督の過去作のデータが収録されており、三島監督を知る上でも、また、これから作られるであろう作品を観る上でも、貴重な資料となるはずで、だから映画好きなら、特集上映を観て、ブックレットを購入すべきだ、と思ったりする。

合計約1時間の映画の後、約1時間のトークショーが行われ、これで一般的な映画1本分の長さとなった。
トークショーには三島監督の他、『よろこびのうた』に出演している藤原季節氏と、映画評論家・文筆家の児玉美月氏が登壇した。
1時間という通常のアフタートークより大幅に長いトーク時間中には、上映された作品や『一月の声に歓びを刻め』といった三島監督に関する話題だけでなく、藤原氏主演で現在各地で順次上映されている映画『東京ランドマーク』に関する話題や、それ以外の話題など多岐にわたった。
その中で興味深かったのは、映画『怪物』上映時に是枝裕和監督と鼎談した児玉氏の話で、私は『怪物』を観ていないし、その鼎談も読んでいない(検索したら、朝日新聞の有料サイトに掲載されている記事らしい(無料だった)最初の1ページだけ読めた)ので、軽々なことは言えないが、藤原氏の話及び無料で読めたページの内容から察するに、児玉氏が指摘したのは、『怪物』が『マスコミ向けに非規範的なセクシュアリティーやジェンダーに関わる展開を「ネタバレ」扱いするような箝口令が敷かれてい』たことのようだ(藤原氏と三島監督は、児玉氏のこの指摘とそれに対する是枝監督の応対を称賛していた)。
内容は全く違うのかもしれないが、先ごろ、ある作品がインティマシーコーディネータや性表現について物議を醸したが、これは「だから、こういった類のものは箝口令を敷くべきだ」という従来の手法を肯定するものではなく、逆に、「そうやって"腫れもの扱い"してきたことのツケが(運悪く、と言うのは不適切かもしれないが)その作品に回って来た(或いは、その監督は従来の手法への異議申し立てをしたのかもしれないが)」ということではないか、と、これはこの話を聞いた私が個人的に思ったことだ。
三島監督作品
藤原季節氏出演作品
児玉美月氏著作(北村匡平氏との共著)
