ありがとう、友よ。まだ信じられないまま、君を忘れない
当たり前だった時間
高校時代、3年間同じクラスだった友人がいた。
同じ教室で授業を受け、同じグラウンドで汗を流し、同じ野球部で過ごした友人だった。
何度もバッテリーを組んだ。
僕がピッチャーで、彼がキャッチャー。
ブルペンで交わした何気ない会話。
試合前の作戦会議。
くだらない話。
今思えば、あの時間はあまりにも特別だった。
その彼と、昨日最後の別れをしてきた。
車同士の交通事故だった。
あまりに突然だった。
あまりに早すぎた。
知らせを聞いてから3日が経った。
でも、今でもまだ信じることができない。
信じられないというより、
信じたくないの方が正しいのかもしれない。
その場所で言葉は出なかった
お通夜に向かう途中、事故現場に足を運んだ。
そこには、事故の跡がまだ残っていた。
写真で見た通りだった。
言葉が出なかった。
花を添えて、手を合わせた。
でも、
その場で何を思えばいいのかも分からなかった。
「なんで」
「嘘だろ」
「まだ早すぎるだろ」
そんな言葉すら、うまく出てこなかった。
ただ無言で立ち尽くすことしかできなかった。
もう自分にはどうすることもできない。
その現実だけが、静かに目の前にあった。
受け入れるしかなかった
葬儀場に着くと、彼の遺影があった。
この場所で、こんなにも若い彼の写真をそこで見る日が来るなんて思っていなかった。
高校時代を一緒に過ごした友人。
同じユニフォームを着ていた友人。
まだやりたいことがたくさんあったはずの友人。
その彼の遺影が、そこにあった。
本当は見たくなかった。
でも見た瞬間、初めて思った。
ああ、本当に受け入れるしかないんだ、と。
式は、あっさりと終わっていった。
人の人生が終わる瞬間は、こんなにも静かなのかと思った。
こちらの心だけが置いていかれて、時間だけが淡々と進んでいく。
最後は自分たちらしく、
笑って見送ろうと思っていた。
でも、そんなことできるはずがなかった。
笑顔なんて出なかった。
涙さえ、なぜか出なかった。
悲しくないわけじゃない。
悲しいという言葉では足りないくらいだった。
でも、涙が出なかった。
泣いてしまえば、全部が本当になってしまう気がした。
泣いてしまえば、
もう二度と戻ってこないことを認めてしまう気がした。
だから僕は、心のどこかで言い聞かせていたのだと思う。
これは嘘だ。
これは夢だ。
そんなわけがない。
何を言っても足りなかった
彼のお母さんとも少し話をした。
何か言葉をかけたかった。
でも、何を言っても足りない気がした。
「ご愁傷さまです」
「大変でしたね」
「寂しくなりますね」
どの言葉も、あまりに軽く思えた。
彼は、お母さんにとってかけがえのない存在だった。
その前で、僕が言えることなんて何もなかった。
ただ、胸の奥がずっと苦しかった。
僕たちのクラスを3年間担当してくださった
担任の先生も来ていた。
先生はほとんど口を開かなかった。
彼の遺影を、ただ真剣な眼差しで見つめていた。
そして最後に、一言だけ残してその場を後にした。
「教え子の葬式だけは行きたくないんじゃ。」
その一言が、すべてだった。
悲しみを説明する必要なんてなかった。
先生のその一言に、全部が詰まっていた。
明日が来る保証なんてない
あまりに痛い形で、
僕は彼から大事なことを教えられた。
僕たちはいつの間にか、
明日が来ることを当たり前だと思っている。
また会える。
また話せる。
またいつか行ける。
またいつか伝えられる。
そんなふうに思ってしまう。
でも、当たり前に明日は来ない。
たった1時間後でさえ、
命の保証なんてどこにもない。
彼は、やりたいことが多い人だった。
「ドイツに行って、うまいビールが飲みたい。」
高校時代から、彼はそう言っていた。
その夢は、叶わなかった。
この事実が、どうしようもなく悔しい。
あまりにも悔しい。
彼を忘れたくない
だから僕は、彼のことを忘れたくない。
彼が生きたこと。
彼と一緒に野球をしたこと。
何度もバッテリーを組んだこと。
バカみたいな話をしたこと。
彼の家に泊まった日のこと。
全部、忘れたくない。
これから先、
僕が人生に行き詰まることがあれば。
缶ビールを2本持って、彼のところへ行きたい。
そして、また笑顔でバカ話をしたい。
「お前、ほんま早すぎるんよ」
そんなことを言いながら、乾杯したい。
本当は、もう一度ブルペンで受けてほしかった。
成長した僕のストレートを、彼に受けてもらいたかった。
そう思った瞬間、ここにきて初めて涙が溢れた。
「ありがとう、友よ。」
まだ信じられない。
まだ受け入れきれない。
まだ写真を見返すこともできない。
でも、彼のことは忘れない。
彼が叶えられなかった分まで、なんて簡単には言えない。
そんな綺麗な言葉で片づけられるほど、
今の僕の心は整っていない。
ただ、ひとつだけ思う。
後悔しないように生きたい。
会いたい人に会いたい。
伝えたいことを伝えたい。
やりたいことを、明日に逃がし続ける人生にはしたくない。
彼が教えてくれたことを、僕は忘れない。
ゆっくり休んでくれ。
ありがとう、友よ。
