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■フォールン・サン:デス・オブ・キャプテン・アメリカ


■Fallen Son: The Death of Captain America
■作:Jeph Loeb
■画:John Cassaday 、Leinil Yu、Ed McGuinness、John Romita Jr.、David Finch
■翻訳:権田アスカ
■監修:idsam
■カラー/ハードカバー/1,999円
■ASIN ‏: ‎B0CP88SWNX

「マーベル グラフィックノベル・コレクション」第50号は、エド・ブルベイカーがメインライターを務めた『キャプテン・アメリカ(vol.5)』で展開されたストーリーライン、「デス・オブ・キャプテン・アメリカ」編のスピンオフとして刊行されたリミテッド・シリーズ『フォールン・サン:ザ・デス・オブ・キャプテン・アメリカ』を単行本化。

 内容的には、「デス・オブ・キャプテン・アメリカ」本編でキャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース)が死亡したのを受け、彼と親しかったヒーローらの様々なリアクションを描く。

 本作のメインライターは、ジェフ・ローブ。彼の希望により、本作のアートはジョン・キャサディ、レイニル・ユー他、各号ごとに異なるアーティストが担当している。

 収録作品はリミテッド・シリーズ全5話と、キャプテン・アメリカが暗殺されるエピソードそのものである、『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』#25(4/2007)。

 ちなみに、かつてヴィレッジブックスは、『フォールン・サン』の邦訳版を刊行していたが、たしか通販限定だったかで、一般の書店には並ばなかったので、現在では非常に入手困難……

 ……だったのだが、2025年7月から、小学館集英社プロダクションが「ヴィレッジブックスの過去の邦訳アメリカン・コミックスを電子書籍限定で再版する」ということを始め、その後、2025年11月に一連の「デス・オブ・キャプテン・アメリカ」の単行本と一緒に、『フォールン・サン』も再版された。ありがたい。


 なお、本リミテッド・シリーズの各章には、「拒絶(Denial)」「怒り(Anger)」「取引(Bargaining)」「消沈(Depression)」「受容(Acceptance)」のサブタイトルが冠されている。これらの章題は、エリザベス・キューブラー・ロスの著作にて紹介されている「5つの死の受容のプロセス」の各段階に基づく。

 そしてそれぞれの章の章題は、そのまま各章の主役たちの行動に反映される。例えば第1章「拒絶」の主人公ウルヴァリンは、キャプテンの死を受け入れられずにシールドの拠点、ヘリキャリアーに潜入するし、第2章「怒り」の主人公らは、キャプテン・アメリカの死に怒り、ヴィランに八つ当たりしたり、身内でモメたりする……等々。


 そもそも本作の企画は、マーベル編集部と作家陣らによるリトリート(※企業の従業員に、休息・レクリエーションの機会と会場を提供しつつ、その場で新たな企画を練ったりもして、従業員のチームワークを高めるイベント)の場で誕生した。

※そのリトリートは、2006年末の、クリスマスまであと2日、というタイミングで開催されたそうで、参加者全員が家に帰って家族と過ごしたがってたという。

 んで、その会場で、マーベルのエクスクルーシブ・エディター(まあ、当時のマーベルのイベントとかを統括する立場の人)のトム・ブレボートが、自身の担当するタイトルで、今後何が起きるかを延々と読み上げるという、そこそこウンザリしそうな奴が行われた。

 それを聞くでもなく聞いていたローブは、ブレボートが凄く淡々と、「『キャプテン・アメリカ』#25で、キャプテンが死ぬ」と言うのを聞いて、心底驚いた(その場にいた40名ほどの作家・編集者は、全員キャプテン・アメリカが『シビル・ウォー』後の展開で死ぬことを知っていたが、ローブはたまたまその辺を伝達する会議だかに出てなかったっぽい)。

 で、驚いたローブは、返す刀で「これは『デス・オブ・スーパーマン』以来の大きなイベントだ」と指摘し、「キャプテンの死をもっと重く扱うべきだ。それがキャプテンに対するフェアな態度であり、同時に、読者に対するフェアな態度だろう」と断じ、そうして「読者は、ウルヴァリンや他のヒーローらが、この件をどう感じたかを知りたがるだろう」と、キャプテン・アメリカの死が周囲にどのように影響を与えるかを描いたリミテッド・シリーズを送り出すことで、このイベントを盛り上げることを熱弁した(マーク・ミラーが言うには、ジェフ・ローブというのは、「どんな会議の席にいても、誰より頭の冴えたところを見せる男」であり、まあ、多分、いつもこんな具合に議題の「核」となりそうなトコを指摘して、会議をうまく転がしてくタイプなのだろう)。

 そしてリトリートの参加者は、このローブの提案に賛成し、その場でどんな内容にすべきかを話しだした。ナイスチームワーク。

※ローブが引用した『デス・オブ・スーパーマン』三部作も、第2幕の「ワールド・ウィズアウト・スーパーマン」編は、スーパーマンを失った人々の反応とスーパーマンの葬式だけで構成され、読者に偉大なるヒーローの死を噛みしめさせた。

 こちらが「ワールド・ウィズアウト・スーパーマン」編をまとめた単行本『スーパーマン:フューネラル・フォー・ア・フレンド』。


 やがてライターのJ.M.ストラジンスキーが、本作のテーマとして、「5つの死の受容のプロセス」を扱うのはどうかという提案をした。

 でー、このストラジンスキーによる「5つの死の受容のプロセス」についての説明を聞いていたローブは、突然、アイデアの奔流に撃たれた。

 なんとなればその瞬間、彼の頭の中にはこのシリーズの内容、登場人物、彼らの取る行動等々の細かなディテールまでが閃いていた。もはや、彼の頭の中には、完成したコミックブックのページが、ありありと浮かんでいた……らしい(ローブ本人がインタビューでそう言っている)。

 またローブは、2005年に息子サム・ローブ(享年17歳)をガンで失っており、本作のテーマである「5つの死の受容のプロセス」に似た経験を、自身でも体験していた。

 これらのことから、もう自分がこの作品を書かねばならぬと確信したローブは、本作のライターに志願し、認められた。運命。


 その後、この企画をズイズイ進めて行ったローブは、やがて本作の5つの章を描くのに相応しい、5人のアーティスト(当時のマーベルのトップ中のトップのアーティスト)をリストアップし、マーベルのマネージング・エディター(作家の仕事を管理する編集者)、デイヴィッド・ボガートに手渡した。

 そのリストを見たボガートは、ローブを見つめてこう言った。
「分かった。ところで第二希望のリストも作ってくれないか? このリストの作家は全員が全員、他の仕事で手一杯でね(そりゃそうだ)」

 が、自身の脳内に、彼らの描く『フォールン・サン』のページがありありと見えていたローブは、当時のマーベルの総編集長ジョー・カザーダと、パブリッシャーのダン・バックリーに掛け合い、どうにかしてアーティストのスケジュールを調整するよう求めた(※当時のローブは数々の名作を送り出し、超一流の作家として認められていたので、こういうことができた)。

 で、カザーダとバックリーは、ボガートと共に各アーティストの仕事の交通整理をし、ローブの希望通りの作家の起用を実現させてしまった。

 ちなみに、選ばれたアーティストの一人、ジョン・キャサディは、当時ジョス・ウェドンと組み、鳴り物入りで始まった『アストニッシングX-MEN』に専念していた。で、ジョー・カザーダから、「キャサディを起用したければ、君がジョス・ウェドンと直接話を付けてくれ」といわれたローブは(彼はウェドンと親しくしていた)、真正面からウェドンに企画について話した。

 で、ウェドンは「キャサディがやりたい企画なら、させるべきだろう」と、アッサリ許諾をくれたので、ローブは(幸い、やりたがってくれた)キャサディを起用することができた。
 キャサディは、本話のクライマックスとなる第5章の、キャプテン・アメリカの葬式の場面を、ローブが脳裏に思い描いた以上のアートで描き切り、本作のクオリティを盤石なものとした。


 なお、本作第5章「受容」の舞台が、キャプテン・アメリカの葬式になっているのは、ジェフ・ローブによれば、

・エド・ブルベイカーは、『キャプテン・アメリカ(vol. 5)』誌の方では、キャプテンの葬式を直接描かない(ダイジェスト的に済ませる)と決めていた。

・一方で、ローブ的には、コミック界屈指の偉大なキャラクターを送り出すのにはやはり葬式の現場を描くのが最適だと確信していた。

・またローブ的には、「5つの死の受容のプロセス」をテーマとする場合、「受容」の舞台を葬儀の場にすることは、理にかなっていると思ったから。

 ……とのこと。

 また、この葬儀の席でサム・ウィルソン(ファルコン)が述べる弔辞(葬儀の参列者たちが、キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースという存在を通じて繋がったことを称えるもの)は、息子サム・ローブの葬儀で、ジェフ・ローブ当人が語った弔辞を元にしている。

 息子サムの葬儀に、コミックを通じてサムのことを知った、数多くの人々が集ったことに心打たれたローブは、弔辞の中で弔問客に周囲を見渡すよう言い、見渡す限りの参列者が、サムという素晴らしい少年の存在によって繋がったことに感謝していたのだ。


 以上。今回は短め。

 ま、リミテッド・シリーズ1冊に関するエピソードなので、こんなものだろう。

  
  

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