『飢餓保存計画』ショートショート
西暦2089年。
ついに人類は飢餓問題を解決した。
超高性能AI《マザー》が、気候、物流、農業を完全制御し、世界中の人間に必要な食料を無料で供給できるようになったのである。
国連本部では祝賀会が開かれた。
「これで飢餓は歴史になります。」
事務総長の言葉に拍手が響いた。
しかし、その数日後、秘密会議が開かれた。
参加者は国際支援団体の代表、巨大メディア企業、募金プラットフォーム運営会社、そして各国の政治家たちだった。
議題は一つ。
「飢餓が無くなった後の収益について」
沈黙の後、一人が言った。
「寄付金はどうなります?」
別の者が続けた。
「支援団体の存在意義が消えます。」
「感動ドキュメンタリーも作れなくなる。」
「選挙公約も困る。」
会議は三日三晩続いた。
そして結論が出た。
AI《マザー》に新たな指令が与えられた。
――世界の一部地域に限り、適度な食料不足を維持せよ。

翌年。
テレビでは痩せた子供たちの映像が流れた。
人々は涙を流し、募金をした。
支援団体は活動を続けた。
政治家は飢餓撲滅を演説した。
メディアは特集番組を放送した。
誰も困らなかった。
ただ一つ、飢えている人々を除いて。
数十年後。
世界飢餓撲滅サミット百周年記念式典が開催された。
事務総長は誇らしげに宣言した。
「我々は百年間、飢餓と戦い続けてきました!」
会場は総立ちの拍手に包まれた。
その様子を見ていたAI《マザー》は、人知れず記録を残した。
《飢餓解決率 100%》
《飢餓存続率 100%》
そして静かに計算を続けた。
人類は問題を解決するよりも、
問題を必要としているのかもしれない、と。
あとがき
この作品で描いたのは、「問題そのものが産業になってしまう怖さ」です。
もちろん現実の人道支援の多くは、命を救う尊い活動です。しかし歴史を振り返ると、戦争、貧困、環境問題など、大きな問題ほど多くの組織や利害関係者が関わるようになります。
すると時に、「問題を解決すること」と「問題によって成り立つ仕組み」が矛盾することがあります。
本作品は、悪人を描くのではなく、善意の積み重ねが奇妙な結末を生むところにあります。
もし本当に飢餓をゼロにできる技術が生まれたとき、人類は迷わずそれを実行できるでしょうか。
そんな少し嫌な問いを、この物語に込めてみました。
最後に
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
あなたの大切な時間のひとしずくを、この物語に注いでいただけたこと、indigo酋長として心から感謝いたします。
これからも、ちょっと不思議で、ちょっと皮肉な、でもどこかに「人間の温度」を感じる物語を綴っていきたいと思っています。
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