【CF挑戦中!】デッドエンド。 —メスガキ無双冒険譚— 第55話:イヴァの選んだ道
アルケーの秘書として、恋人として過ごす日々。一ヶ月が経過したころ、イヴァは自身の任務に手ごたえを感じ始めていた。
アルケーは基本的に仕事をしない。バベルチップでギャンブルにいそしみ、飽きると私室に作らせたバーカウンターで酒をあおり食事をとる。そして稀に合衆国政府や他国からのレアメタルや兵器製造の要請を受けて、直方体の仕事場でそれを製造する。
どうやら現場にいる必要性もないらしく、仕事が来ているとイヴァが伝えるとすぐに実行し、後はクライアントが勝手に回収するだけである。
圧倒的な力を使い自堕落な生活をする男。これが、秘書としての視点から見たアルケーである。
アルケーは警戒心が強く、臆病な人間だ。
ギャンブルをしている時や抗争の中にいる時は絶対王者としてのギラついた目で他を圧倒するが、その実常に周囲からの裏切りや平和維持機構の監視を警戒し、怯えるように目を光らせている。
特にエリミネーターが怖いと、呟くように語ることもある。
強いがゆえに上を知り、恐怖と戦っている男。これが、恋人としての視点から見たアルケーだ。
そしてこの日、イヴァ・P・レーションは「アルケーが世界を滅ぼすつもりのある危険人物か、そうではない小心者か」、その結論を出すことになる。
「イヴァ……お前、家族はどうした」
私室のバーカウンターに座るアルケーに酒の入ったグラスを渡すと、唐突に、アルケーが話を始めた。今までに見せなかった、気遣うような目をしていた。
「いないわけじゃないだろう。お前の経歴は洗ってある……死んだとは報告されていないし家庭環境も悪くはないはずだ。連絡はしないのか」
「……十分な金額を稼げば、実家に帰り家族と過ごそうと思っています。だから、まだ連絡はしないでもいいかなと」
アルケーがそんなことを聞くとは予想もできず、咄嗟に嘘を吐く。「どうしてそんなことを?」と聞き返すと、彼は少しだけ押し黙って、重そうに声を絞り出す。
「……お前の家族が羨ましい」
「アルケー……?」
嘘じゃないことはすぐにわかったから、名前を呼ばずにはいられなかった。悲し気な目でこちらを見つめ、隣に座れと、彼の隣の椅子を叩く。
核心に触れられると直感した。任務を果たせるという理性とこの人を知りたいという感情、二つに従って、隣に座る。
「強い能力者は疎まれるか、売られるかのどちらかだ……俺の父親は自分の妻を守るため、俺を殺そうとした。あいつらにとって俺は、化け物だった」
だからアルケー・ミストは化け物になったんだ。そうイヴァは理解した。誰もが彼を疎み恐怖するから。本当は、居場所が欲しかっただけなのかもしれないと、そう思った。
きゅんと、胸が締め付けられる。核兵器の製造は平和維持機構も承知していることで、クラスゼロを一時的にでも抑えつけるための手段として容認している節がある。世界平和が、アルケーを化け物だと認識しているのだ。
本当はそうじゃないんだと、彼を助けてあげたいと、思った。だからそっと、アルケーの手を握る。
「アルケー。僕は知っているから……あなたは本当は、化け物なんかじゃないって」
「……イヴァ」
「僕は、近いうちに帰らなきゃならない。だけど……僕は……」
何か大切なことが抜け落ちているんじゃないかと一瞬よぎって、しかしその直感を振り払う。だって今じゃないといけないと思ったから。アルケーは嘘を吐いていない。それだけ感じ取れていれば十分だと思ったから。
キスをする。ふつふつと感情が沸き上がる。答えは出た。だから──。
「僕は、あなたを愛しているから……」
「…………」
アルケーは少し目を泳がせると、言葉を発さず、イヴァの左手を取る。すると薬指に銀色の指輪が現れて、イヴァはそっと微笑んだ。
「はい。アルケー……帰らなければならないけれど、いつか必ず」
そうして再び口づけて、長い夜を過ごす。
僕たちが守らなきゃいけない平和の中に、アルケーの幸せだって入っているはずなんだ。そう思いながら。
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