ショートストーリー|瀬戸際ソングコンテスト|下僕並べ
瀬戸際ソングコンテスト
(2900字くらい)
司会「闇バイト撲滅のためにつくったキャンペーンソングを自分で歌い、その技術点と芸術点の合計点数を競う、それが、人生終わるかどうかの瀬戸際に立つ君に贈りたい歌コンテスト! いったい誰が栄えある初代王者となるのでしょうか? それでは最初の挑戦者の方、早速瀬戸際ソングの発表をどうぞ! ヒヴィゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴーゴー!」
赤畑「それでは唄います。『First Automatic Secret』」
近づきたかった ワタシの理想に
大人しくなんてなれなくて
秘密が守れるか?って聞かれたけど…
自首しようか やめようか
このまま隠そうか
逃げ切れなくなるところまで…
ホワイトだって信じようか いやダメかな
本当に人生フっ飛んじゃうよ!
今はまだ悲しい瀬戸際ソング
ナウ・アンド・フォーエバー ♪
司会「それでは審査員の皆さん、講評をお願いします!」
審査員A「派手な遊びや浪費といった『理想』のために闇バイトに手を染めてしまった人物の、自首すべきかどうか悩む心情を表現したもの、ということで理解しました。どこかで聞いたことあるような、美しい歌詞ですね」
審査員B「悲しい瀬戸際ソングが この先も永遠に続く、という歌詞は芸術点は高いと思いました。ただ、闇バイトに巻き込まれて人生の瀬戸際に立つ悩める人を自首に導けるような歌になっているかどうかは疑問が残りました」
審査員C「ええと…私は、下僕並べグランプリの審査員をしてくれって言われて今日ここに来たんですが、そっちはどうなったんですか?」
審査員D「その大会はコンプラ面で問題があったため、後継番組として始まったのが、この闇バイト撲滅のための瀬戸際ソングコンテストなんですよ。これなら社会的意義の説明もたつだろう、というのが製作サイドの考えのようです。しかしこれはこれで問題がある気がします…だって歌詞はパクりですよね?」
司会「はい、そこまで! 次の方どうぞ~!」
青野「それでは唄います。聴いてください。『闇すぎて』」
クレイジークレイジー
この仕事はクレイジー
「もう我慢できません」
クレイジークレイジー
過去一番にクレイジー
「闇じゃないって証明できますか?」
僕の人生投げ捨てても問題ない?
いや、ある!
でも脅迫されそうでやめられない
いや、やめろ!
僕は一体どうなっちゃうの?
ふつうの人生は終了だ!
未来を好きに過ごしたいのに!
じゃあ通報だ!
闇すぎて…滅!
このままだと…破滅!
だから…闇バイト…撲滅!
クレイジークレイジー
こんなバイトはクレイジー
「もう我慢しなくていいんだよ」
司会「それでは審査員の皆さん、講評をお願いします!」
審査員A「普通のバイトだと思っていたのに、段々と闇案件に巻き込まれていってしまった人物の感情を、現代的な言葉遣いで表現したもの、と理解しました。キャッチ―で、つい口ずさみたくなるような歌詞ですね」
審査員B「ラスサビ前のブリッジですかね、『滅 → 破滅 → 撲滅』の部分は歌詞の内容とライムが自然に重なっており、技術点は高いのではないでしょうか。ただ、男性アイドルが熱心な女性ファンにむけて歌っているような印象があり、闇バイトで人生の瀬戸際に立つターゲット層に本当に響くのか、という疑問が残りました」
審査員C「確かに掛け合いや台詞といった売れ筋要素を多用している感はありますね。まぁでも、こういうのが結局ダンスと一緒にSNSで流行しやすいわけで、そうすればキャンペーンソングとしての役割は果たせるのではないでしょうか」
審査員D「そんなことより…これもほとんど歌詞パクりですよね? かなり際どい気がするのですが、これ続けて大丈夫ですか? 逆に我々が、どこかの権利団体とか、AIに相談した誰かさんなどからいきなり通報されたりしませんか?」
司会「事前に歌詞の内容は適宜リーガルチェック(※GeminiはAIであり、間違えることがあります)をしたうえでお送りしております! では次の方どうぞ~!」
緑谷「それでは唄います。『ゲッボック』」
五郎は自分を孤高な人間だと思っていた
でもそれは長く続かなかった
五郎は都会の光を求めて
田舎の故郷を後にした
そして気が付くと
不良たちの下僕になっていた
戻ってこい 戻ってこい
君がいる場所はここじゃない
戻るんだ 戻るんだ
もともといた場所に
ゲッボック ゲッバック
家に帰りなよ、五郎
司会「講評をお願いします!」
審査員A「いやぁ、何だか郷愁が胸に染みるような歌でしたね。道を踏み外しかけているけども良心がまだ残っている人物に、戻ってこい、と優しく呼びかけるような歌詞とメロディが印象に残りました」
審査員B「不協和音が鳴り響くような複雑な状況の中で、原点回帰を宣言するような、シンプルながらも奥深い一曲ですね。」
審査員C「確かに『ゲッボック・ゲッバック』というフレーズは口ずさみやすくもあり、いいですね。この曲が、正しい道に戻る勇気を悩める誰かに与えることを願ってやみません」
審査員D「いや、これもいろいろ問題ありでしょ。洋楽の和訳だったら著作権も問題にならない、ということはないんですよ? むしろもっと問題が大きくなっている気がします。ここまで言っても製作側に改善がみられないのでしたら、私はこの番組から降ります」
司会「はい、ありがとうございました! それでは、視聴者の皆様、キャンペーンソングとして最も推したい曲を、スマホから投票お願いします! 投票結果は次回(あれば)発表予定です! ではごきげんよう~!」
~出演者楽屋にて~
赤畑「お疲れ様でした。こんな歌を歌うのは私の本意ではないけど、まぁお金のためならしょうがないわね」
青野「確かにな。売れてる曲をちょっとパロディにして歌うだけで金がもらえるなんて、楽な仕事だな。しかし、こんなくだらない番組や歌詞を次から次に書くなんてさ、アンタよっぽど暇なんでしょ?」
緑谷「えぇまぁ、本業は別にあるんですがね。もう経営者のような立場なので、自分は結構暇なんですよ。だから好きな漫才とか歌詞でついつい遊んじゃうんです。有難いことにお金もそれなりに集まるようになってきましてね、だからこんな番組もつくってみたんですよ」
・・・・
テレビ局を出た後、緑谷は都内某所の仕事場に向かった。
丸眼鏡型のサングラスと長髪のカツラを外し、パソコンデスクの前に座る。
部下たちからの直近の成果報告はまずまずの内容だった。
彼は時折小声で歌いながら淡々と仕事をつづけた。
口ずさんでいたのは「Nowhere Man」のメロディだったが、歌詞は原曲と違うようだった。
居場所がない人達よ 聴いてくれ
俺には誰かのためになる計画があるんだ
そのために並ぶんだ 下僕たちよ
俺には見通しがあるんだ
この世界は俺のcommandのまま
仕事を待つ部下たちへの次の指令を送り終えた彼は、ソファで休憩をとった。部屋にはビートルズの「ラバー・ソウル」のLPレコードが流れていた。
"What goes on in your heart?" と唄うジョンとポールに彼は答える。
「本当に覚悟のある奴だけを、並べておきたいんだ」
(了)
あとがき
こちらの企画に参加させて頂きました。田原にか様、本当にありがとうございます。今週は3作も好き放題書いてしまいました。
最近また闇バイト的な嫌なニュースをよく耳にするようになり、
そんな、ふとした時にビートルズのNowhere manが頭の中に浮かび、
改めて歌詞をよく読んでみると、
闇バイトの実行役になってしまうような人って、
もしかするとなんだかこんな感じなのかな、
という妄想が生まれ、
そこから別の記事を再利用しつつできたのが今回のストーリーです。
noteにはオリジナルの歌詞というものは載せられないようなので、
ご興味出た方は各自でお調べ頂けると幸いです!
そういえば先日放送されたNHKの番組「ドキュメント72時間」を見たのですが(渋谷のタワーレコードの回)、いろいろ印象深い内容でした。その中で、「そうだよ、ジョン・レノン」というようなことを言っている青年がいたのですが、その言葉に何かしら影響を受けて、今回の作品のテイストが決まっていったような気もします。
「そうだよ、ジョン・レノン。でも本当はそんなに暇じゃないんだ。仕事とかいろいろやらないといけないことはあるんだ…本当の僕は経営者なんかじゃないんだよ…」
お読み頂きありがとうございました!
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