【絶賛】看板に偽り無し|挽肉と米 吉祥寺店
私はよく吉祥寺に行く。
ヨドバシカメラもあるし、本屋もあるし、散歩にはちょうどいい大きな公園もある。春は桜、夏は木陰、秋は光が涼しい。そして一年を通して、弁天様があの池のほとりを守っている街である。
吉祥寺の飲食店には、そこそこ通っている方だと思う。美味しいものも多い。そんな吉祥寺に、数年前にできて以来、ずっと行列の絶えない店があった。
それが、『挽肉と米』である。

存在はずっと知っていた。だが、行ったことはない。
まず人気店で、予約がないと入れない。
吉祥寺店の場合、ネットでサッと予約して終わり、という感じではないらしい。朝9時に店まで行って、ウェイティングリストに名前を書かなければならない。
開店は11時なのに、その前に一度、店まで行く必要がある。
これが、そこそこ大きなハードルだった。
いくら食べるものが好きな私でも、朝9時に吉祥寺まで行って名前を書き、そこからまた時間をつぶして戻ってくる、というのはなかなか腰が重い。
そして不思議なもので、行列ができていて、評判が立っていて、それなのに自分が行けないとなると、人間は妙な心理に陥る。
「あのブドウはどうせ酸っぱいさ」、と。
まるでイソップ童話の狐である。
食べられないブドウを眺め続けるのは悔しいので、自分に言い聞かせるのである。
まあ、ハンバーグでしょう、と。
まあ、コンサル主導のお洒落なお店だけでしょ、と。
そんなありもしない偏見を盾にして、私は挽肉と米に行かないまま、数年を過ごしていた。
それは突然に
「挽肉と米って行ったことあったよね?」
そんなある日、いつも色塗りなどをお願いしている、tacowasa氏が私にこう言った。確かに、挽肉と米の話を数年前にしたことはあった。
しかしいつも混んでて行った事は無かった。
「この間、渋谷店に行ったんだけど、すごく美味しかったよ!」
なんでも渋谷店はネットで予約する仕組みで、tacowasa氏の友人がたまたま予約を取っていた。ただ、その一緒に行くはずだった人が行けなくなった。しかも予約した段階で決済しているので、お金が返ってこない。だから、誰でもいいから今空いている人、ということで急にお呼びがかかったのだそうだ。
「吉祥寺店、近いなら行くといいと思うよ!」
人から勧められたらやれ。
善は急げ。
行けない、行けないと言い続けて数年。酸っぱいブドウを遂に食べる日が来たのだ
翌日
そんなわけで、朝の吉祥寺に立っていた。その日はぐずついた空模様で、空も気分もどうもスッキリしない。
店に行ってウェイティングリストに名前を書く。運の良いことに、たまたま一席だけ11時20分の枠が空いていると言う。

雨&平日だったから、たまたま空いていたのかもしれない。
私はすごいニコニコしながら名前を伝え、カードをもらい、近所の喫茶店で時間をつぶした。

時間になって店に到着すると、ちょうど名前を呼ばれたところだった。
全てがスムーズ。私はヘラヘラしながら食券を買った。
STANBY
席に通される。中央に炭火焼きのグリルが鎮座し、ハンバーグがジュウジュウと出番を待っている。

それを囲うようにカウンターの席が並ぶ。奥にはテールブル席もあるのかな。

スタッフの方が一つ一つに目を配りながら、丁寧に焼いていく。落ちた脂で盛大に火が上がり、その火とともに、脂の焦げた、肉の焼けた、どうしようもなくいい匂いが立ちのぼる。

もう、この香りだけでご飯が食べられそうだ。店員さんが追加注文した新玉ねぎのスライスを持ってきてくれた。

そして、お店の楽しみ方を説明してくれた。

まず、カウンターの下を見る。テーブルが引き出しになっていて、そこに薬味の説明や食器が入っている。のび太で言えばドラえもんが飛び出してくるタイムマシンの位置にある。

そこに目をやると、「挽肉と米のオトモ」の文字が。これは調味料の説明らしい。その紙を読みながら、手元の金属の入れ物を見てみることにした。
まず右手側にあった容器。


生醤油:自然醸造の生醤油。大根おろしや生たまごとどうぞ。
モウさんの麻辣辣粉:遊牧民が肉につけてた香辛料。キムチ用唐辛子ベースのクセになる香りは肉と相性抜群。
青唐塩レモン:塩レモンの酸味とほんのり青唐辛子の辛味。
ジャオマー:実山椒、青葱、生姜、ごま油を合わせたスパイシーな薬味。
青唐辛子のオイル漬け:生の唐辛子を塩漬けにしてオリーブオイルに漬けました。
大蒜ふりかけ:王道のにんにくを、細かく刻んで揚げたもの。
他の調味料と合わせても◎
なんとも楽しげなラインナップだろう。続いて、左の容器を見る。

白菜の梅酢漬け:お肉の合間の箸休めに。すっきりします。
食べる醤油:卵かけご飯をうまくする。熱々の炊きたてご飯とも相性◎
厨房の奥では、ご飯が釜で炊かれている。まるで日本昔話のように、湯気を立てている。

さらに、おひとり様ひとつ、生卵がもらえる。

卵を準備して、水を汲んでと、こうやって準備したり調味料に目移りしていく間に、米と味噌汁が運ばれてきた。

いよいよ。宴の準備は整ったのである。
SHOW TIME!
そして、それは唐突に目の前に現れた。

カウンターの目の前、わざわざ炭の火があり保温がされる工夫もある。
「焼きたて1秒」とホームページにも書いてある通り、まさしくたった今焼き上がったものがお出ましになる。

ハンバーグは全部で3つ提供さされるのだが、3つのハンバーグが同時に来るわけではない。
焼けたら、ひとつずつ、自分の目の前に置かれる。

箸で割ってみる。

パカリ!じゅわー。
肉汁が米へ滴り落ちる。私はたまらず1口頬張った。
パクッ!
挽!肉!と!米!
店名が、大きな明朝体で頭上の浮かぶ感覚だった。
うまい!
肉の旨みと米の旨みが渾然一体となり、店名を口の中で表現してゆく。噛み締めると心地よい弾力がある、でも粗挽きすぎることはない。柔らかさと歯応えのちょうど良いバランスを見極めているのだろう。

調味料を色々試した。
私は特に、青唐辛子の塩レモンが気に入った。
辛いのだけれど、ただ辛いだけではない。レモンの香りがあって、酸味が肉の脂を切ってくれる。
青唐辛子のオイル漬けもいい。米と肉に負けていない。

食べる醤油もよかった。
単なるしょっぱさではなく、米に乗せても、肉に添えても、それぞれを引き立てる。


大根おろしがやってくる。私はそれをかき込む。
ああ…、さっぱりとジューシーが共存する。

ジャオマーは山椒も入っているのだろう。ただ辛いだけではない。風味が肉の別の側面を際立たせる。

そして、モウさんの麻辣辣粉。
何だこれは。
一口食べた瞬間、以前食べたモンゴル料理を不思議と思い出した。
説明を見ると、なんでも遊牧民の方のスパイスを参考にしているようだ。
ほうほう、それでか。
私は無我夢中で食べ進めた。米はおかわり自由。こんな自由は徹底的に味わうしかない。自由の国アメリカだって、きっとここまで自由ではないだろう。
そして極め付けはこれである。

生卵。
ネットに載っているような、黄身だけ上に乗せるのは失敗した。しかしそんなことはどうでも良い。
このトロッとまろやかになる感じはどうだ。
ああ、うまい。うまいぞ。
私はそのまま、何度もおかわりという罪を重ねた。
ハレルヤ
見事。全くもって持って見事だった。
店員さんはご飯茶碗が空になると、スッと現れて
「おかわりお持ちしますか?」
と聞いてくれる。私は調子に乗って8杯も食べた。腹具合から考えれば、あと数杯胃袋のぶち込めたが、流石に恥ずかしくてやめた。
食べ終わって他のお客さんを見ると、皆さん笑顔だ。海外からやってきている数組も、英語でも日本語でもない言語だったが、親指を立てて👍喜んでいる。
言葉が通じなくたって分かる。あれは美味しい仕草に違いない。彼らの日本滞在の良い思い出になったのは、確実だと思う。
店員さんも真剣、お客さんも笑顔。
コンサルがInstagram映えを狙ったという根も葉もない妄想は、完全に消え去った。(本気でそんなことは思っていなかったが)
お礼を言って店を出る。
さっきまでしとしと降っていた雨は、いつの間にか上がっていた。
私は気分も上々に歩き出す。バスではなく歩いて帰ることにしたのだ。
それは米8杯の贖罪ではなく、単純に気分が晴れたからかもしれない。
記事:まるのすけ
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