世界が広がり、自分に戻る場所(心④)
大学では工学部に進んだ。
そこは、とても生きやすい場所だった。
高校までのような、曖昧な空気の読み合いも、
派手さやノリの良さで測られる価値観もなかった。
そこにいたのは、どこか不器用で、まじめで、
“正しさに傷ついた人たち”だった。
授業で出てきた疑問を、友人と議論した。
分からないことは教授に聞きに行った。
そのどれもが、恥ずかしいことではなかった。
「真面目に生きてると損をするよね」と言いながら笑い合えたのは、
人生で初めての経験だった。
“私だけじゃないんだ”と気づいたとき、
心の底から安心した。
ここでは、真面目でいることが息苦しくなかった。
努力することが、自然なこととして受け入れられた。
気づけば、成績優秀者としてパンフレットに載っていた。
卒業証書授与の代表にも選ばれた。
でももう、それが怖くなかった。
自分の努力を認めてもらうことを、
素直にうれしいと思えた。
けれど、サークルでは少し違っていた。
テニスサークルは、学部とはまったく別の世界だった。
楽しい行事には人が集まる。
片付けやOB対応のような面倒な仕事になると、
みんな姿を消す。
結局、残るのは私だった。
損な役回りばかりで、
また“孤独”が戻ってきた気がした。
でも、あの頃の私はもう違った。
観察して、考えて、分析した。
彼らの行動の裏にある「悪気のなさ」に気づくまで、
少し時間はかかったけれど。
——この人たちは、ただ「自然に生きている」だけなんだ。
そう思えた瞬間、私は他人を責めることをやめた。
そして、自分から「お願いする」「相談する」ことを覚えた。
すると不思議なことに、
少しずつ人が動いてくれるようになった。
損な雑用係だった私が、
いつの間にか、みんなをまとめる立場になっていた。
就職活動は、苦ではなかった。
好きな学問を活かせる営業職。
これまでの人生は、すべて“人間関係の研究”だったのかもしれない。
面接で話すたびに、
自分のこれまでを「研究成果」として語っているような気がした。
——ようやく私は、
誰かのルールではなく、自分の言葉で生き始めていた。
