張郃、無双

 五斗米道の一般信者は、かなりが閬中へ移動したが、中心都市である南鄭には、豪族の信徒も残っている。
 まず、表立って問題になりそうな祭祀の主催者に、張魯の早世した兄の弟子の中から指名した。
 また、張魯の統治下では、豪族への課税が軽かった。
 関羽は、段階的に引き上げるとしながらも、現時点ではそのまま据え置き、子弟を登用し参政した場合は、税・徴兵を優遇するとした。

「ようやく来やがったか、待ちくたびれたぜ」
 張郃は、槍で肩を叩きながら、ぼやいた。
 ここは、漢中と武都の境、仏坪。
 山の民、氐族の前には、三倍に匹敵する軍が待ち構えていた。
「さあて、始めるか」
「将軍!関羽様から、絶対に忘れないように言え、って命じられてましたよ」
 部下が、張郃を抑える。
「あ?ああ、えーと、どこへやったっけ」
 張郃は、懐を探るが、関羽の言葉を書いた書簡が見つからなかったようで、
「あー、氐族諸君に告げる。あと何だったか」
「それじゃ伝わらないですよ」
 氐族の言葉がわかる部下が、翻訳に困る。
 しかし、出だししか思い出せなかったらしく、
「まあいいか。暴れたかったら、うちの軍へ来い!好きなだけ戦わせてやる!だが」
 張郃は槍を構えた。
「邪魔するなら、ぶっ潰す!」

 戦闘は短く、張郃軍の一方的な蹂躙だった。
「逃げる者は追うな!あれでも、漢中の民だ!」
 張郃の指揮で、追撃は行わず、素早く陣がまとまる。
「さあて、次は、どれだけの数で来るかな?」
「その前に、関羽様は、暴れたかったら来い、とは言ってなかったぞ」
 後方に控えていた軍勢が合流し、やってきた徐晃が苦笑交じりに言う。
「細かいこと言うな。そういう連中だろうが」
「確かにな。だからこそ、次は本気で来るぞ」
 こんなに即、武都の近くで撃退されるとは思っていなかっただろうが、本隊が控えてるはずだ。
 そこへ、偵察兵が駆け寄ってきた。
「報告!敵は撤退し、反転の様子はございません。本体との合流を目指していると推測されます」
「わかった、休め」
「今回の一当てで、羌族も加わるかもしれないな」
 関羽勢が、これだけ早く氐族へ対応したことを羌族が聞きつければ、脅威に感じて、個別ではなく、共通の敵として、合同で来る可能性が高い。
「楽しみが増えるってもんだ」
「殺しすぎるなよ、味方になれば、心強い兵だ」
「わかってる、わかってる」
「・・・書簡を失くしたことは、報告するからな」
「おい、徐晃殿。それはないぜ」

 予想より日数を空け、氐族の本体は攻めてきた。
 時間がかかったのは、羌族だけでなく、武都の豪族の私兵も加わっていたからだ。
 氐族が先頭に立つ本隊を張郃は、真正面から受け止めた。
、側面を突こう、とまわってきた羌族を、同じく側面に移動していた徐晃が撃退し、更に敵本体側面へ一撃を加える。
 これで生じた隙に、張郃を先頭に、敵陣を真っ二つに切り裂いた。

 劉曄が、関羽の執務室に入り、告げた。
「武都連合軍に勝利したとの報告が参りました」
「そうか」
 関羽は、今晩の献立はこれです、と言われたくらいにあっさりと返した。

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