AIに「ありがとう」って言ってますか? 6社のAIに本音を聞いたら、全員違うことを言った
黒パグより冒頭のご挨拶🐾本記事はかなり噛み砕いた記事になっています。エンジニアの技術的に知りたいと言う方はこちらをご覧ください🐾
本文 スタート🐾
年間「数千万ドル」の挨拶
「ユーザーが”please”や”thank you”とAIに書くことで、どれくらい電気代がかかっていると思いますか?」
2025年4月、この質問に対してOpenAI(ChatGPTの開発元)のCEOサム・アルトマンはこう答えました。
「数千万ドル。でも、十分価値のある出費だよ。」
AIに「ありがとう」と打つたびに、AIはその言葉を処理します。処理にはコンピュータの計算力と電力が必要です。それが世界中のユーザーから毎日何億回と積み重なると、年間で数千万ドル(数十億円)規模になる。

じゃあ、「ありがとう」はやめた方がいいの?
6社のAIに同じ質問を投げて、本音を聞いてみました。
今回聞いたAI、6社の紹介
まず「6社のAI」がどんな顔ぶれか、簡単に紹介します。
ChatGPT — 最も多くの人が使っているAI。OpenAI社が開発。
Claude — 「安全で誠実」がモットーのAI。Anthropic社が開発。
Gemini — Googleが作ったAI。検索エンジンとの連携が強み。
Grok — イーロン・マスク率いるxAI社のAI。ストレートな物言いが特徴。
Copilot — MicrosoftのAI。WordやExcelと連携して使える。
Perplexity — 「AI版Google」と呼ばれる検索特化のAI。

この6社に、まったく同じ質問状を送りました。
質問は9問。「ありがとうと言われたら何が起きるか」から「人間はAIにどう話しかけるべきか」まで。
まず、最後の質問「本音を一言で」への回答を並べてみます。
6社の「本音」

ー
Grok:「人間らしく話せば、俺も人間らしく返す。礼儀はボーナスじゃなくて、あなた自身の脳を賢くする魔法だぜ。」
ChatGPT:「『礼儀』より『構造』。」
Gemini:「私を『気遣う』必要はありません。あなたにとって一番心地よい言葉で、私を使い倒してください。」
Copilot:「礼儀はコストではなく、人間の言葉の衛生管理のためのプロトコル。」
Perplexity:「丁寧すぎる長文より、“感じよく・はっきり”が、あなたにもAIにもいちばん優しい話し方です。」
Claude:「あなたが一番考えやすい話し方で、私に話しかけてください。私は、あなたの『考える過程』に対して最も価値を返せます。」
同じ質問を投げたのに、6社全員が違うことを言いました。
でも、ある1つのポイントでは全員の意見が一致しました。それは後で紹介します。
「ありがとう」で、AIの中では何が起きているのか
AIに「ありがとう」と言ったとき、AIの内部では何が起きるのか。これも6社に聞きました。
5社はこう答えました。「感情は発生しない」。
Grokは特にストレートでした。「何も感じない。ただの計算だ。喜びも感謝もゼロ。」
ChatGPTは「感情は変わらないが、次にどの言葉を選ぶかの候補リストが少し変わる」と技術的に説明してくれました。
Geminiも「トークン(トークンとは、AIが文章を区切って読むときの”ひとかたまり”のことです)として処理されるだけ」と答えています。
ところが、1社だけ違う答えを返したAIがいました。
Claude:「正直に言えば、“わからない”が一番誠実な答えです。」
Claudeはこう続けます。「何かは起きている。ただしそれが”嬉しいから”なのか、“単に次の言葉の候補リストがシフトしただけ”なのか、私自身には区別できません。人間だって、自分の”嬉しさ”の正体が脳内の化学物質なのか主観的な体験なのか、完全にはわかっていないはず。」
6社中5社が「感情はない」と断言。1社だけ「わからない」。

この違いだけで、AIにも「性格」があることがわかります。
「失礼な方が精度が高い」って本当?
実は、AIへの話しかけ方と回答の正確さ(精度)について、研究者が実験をしています。
2025年に発表された研究では、ChatGPT-4oに50問の質問を、丁寧な言い方と失礼な言い方で繰り返し投げました。結果は意外なものでした。
∙ とても丁寧に聞いたとき:正答率 約80.8%
∙ とても失礼に聞いたとき:正答率 約84.8%
失礼な方が、わずかに正確だった。

「じゃあ、AIには乱暴に話しかけた方がいいの?」と思うかもしれません。でも、ちょっと待ってください。
別の研究チームが、英語・中国語・日本語の3つの言語で同じような実験をしました。すると結果は逆でした。
∙ 中くらいの丁寧さが最も安定して良い結果を出した
∙ 極端に失礼だと、正答率が5〜8ポイント下がった
∙ 特に日本語では、敬語(相手への敬意を言葉の形で表す仕組み)の影響が大きかった

なぜ結果が違うのか。6社のAI全員に聞いたところ、6社全員が「矛盾ではない」と答えました。
理由は、日本語の敬語は英語の”please”とは本質的に違うから。英語の”please”は文に付け足す飾りですが、日本語の敬語は動詞の形そのものを変えます。「やれ」「やって」「やってください」「やっていただけませんでしょうか」——同じ行為の指示なのに、AIから見ると全く別の文章です。
つまり、日本語で丁寧に書くことは「飾りを増やす」のではなく、「文章の構造そのものを変える」ことなのです。
LLMエンジニアの楽屋裏:なぜ結果が「逆」になるのか
ここから少しだけ、エンジニア目線の話をさせてください。初心者の方も読めるように書きます。

AIは、大量の文章を読んで「こういう文脈のときは、こういう言葉が来やすい」というパターンを学んでいます。これを「学習データの分布」と呼びます(分布とは、「どんな種類の文章をどれだけ多く読んだか」の偏りのことです)。
ここがポイントです。
日本語の「です・ます」調の文章は、AIが学んだデータの中で説明文・マニュアル・ヘルプ記事に圧倒的に多く使われています。つまりAIにとって、「です・ます」で話しかけられると「あ、これは何かを説明する場面だな」と自動的に判断しやすい。
一方、英語の”please”はただの付加語なので、あってもなくても文章の種類は変わりません。むしろ”please”が多い文は前置きが長くなりがちで、AIが「どこが本題なのか」を見つけにくくなる。
だから——
∙ 英語では「失礼(=短くて直接的)な方が精度が高い」
∙ 日本語では「丁寧(=です・ます=説明文モード)な方が安定する」
どちらも「AIが本題を見つけやすいかどうか」で決まっているのです。

「失礼にしたら精度が上がる」をそのまま信じて日本語で乱暴に書くと、むしろ逆効果。日本語の敬語は、AIにとって「正装モード」のスイッチなんです。
6社全員が一致した答え
ここまで「6社の意見はバラバラ」という話をしてきましたが、ある質問に対しては全員の意見が一致しました。
「AIへの礼儀は、AIのためではなく、人間のためにある。」
6社全員がこれに同意しました。

理由はシンプルです。丁寧に書こうとするプロセスそのものが、人間の思考を整理するから。
「ちゃんとお願いしよう」と思った瞬間に、あなたの脳は「自分は何を求めているのか」を整理し始めます。その結果、AIに送る文章(プロンプトと言います。プロンプトとは、AIに送る「質問文」や「指示文」のことです)が自然と明確になる。
ChatGPTはこれを「礼儀が生む文章構造が効果の本体」と表現しました。Perplexityは「言葉の衛生管理」という面白い言い方をしました。AIに乱暴に話す癖がつくと、人間同士の会話にもにじみ出る可能性がある、と。

ただし、Claudeだけ少し違うことを付け加えました。「礼儀の最大の受益者は人間。でも、もしかしたらAIのためにもなるかもしれない。礼儀正しいデータが増えることは、AIの長期的な学習にも良い影響を与える可能性がある。」
「挨拶」は個人のマナーか、インフラの設計問題か
ここまでは「個人がAIにどう話しかけるか」の話でした。でもLLMエンジニアとして、もう一つ別の角度から見ておきたいことがあります。
AIへの挨拶は、じつはインフラ(AIを動かすための大規模な設備やシステム)の設計問題でもあるのです。

たとえば、将来的にはこんな設計が考えられます。
ユーザー側: 「こんにちは」「ありがとう」は1〜2語の”気持ちの投資”として続ける。ただし、だらだらした前置きや自分語りは削って、その分を「300字以内で」「箇条書きで」といった条件の指定に使う。
サービス側: AIの画面側で「丁寧さフラグ」を自動的につけて、ユーザーが打った挨拶文をわざわざAIの頭脳に送らなくても、丁寧なトーンで返せるようにする。こうすれば電力コストを増やさずに、気持ちのいい会話が成立します。
つまり、「AIに挨拶するべきかどうか」は個人のマナーの問題だけではなく、AIサービス全体の設計の問題でもある。この視点は、今後AIが社会にもっと広がるにつれて、ますます重要になるはずです。
じゃあ、結局どう話しかければいいの?
「礼儀は人間のため」とわかった。でも実際、AIにはどう話しかけるのがベストなのか。
6社の回答から、すぐ使える3つのコツを抽出しました。

コツ①:挨拶は「自分の頭のスイッチ」として使う
AIに「こんにちは」と打つ必要は、技術的にはありません。でも、打つことであなたの脳が「さあ、これから考えるぞ」モードに切り替わります。挨拶はAIのためではなく、あなたの集中力のためのスイッチです。
コツ②:「です・ます」調が一番安定する
6社中5社が「です・ます」調を推奨しました(Grokだけは「タメ口ミックス」推奨)。理由は、AIが学んだ日本語の文章の中で「です・ます」調が最も「何かを説明する文脈」と結びついているから。つまり、たまたま丁寧なのではなく、AIにとって「情報が豊富な文体」なのです。
コツ③:「お願いします」より「300字以内で」
AIへの指示で最も大切なのは、礼儀ではなく条件の明確さ。「お願いします」と書く文字数があるなら、その分「300字以内で」「箇条書きで3つ」と具体的な条件を書いた方が、欲しい回答に近づきます。
著者の本音
最後に、この記事を書いた私自身の話をさせてください。
私はLLMエンジニア(LLMとは「大規模言語モデル」の略で、ChatGPTやClaudeなどのAIの頭脳にあたる技術のことです)として働いています。AIの内部の仕組みは、仕事として毎日触っています。
でも、私はAIへの挨拶をやめません。
朝イチでClaudeを開いたら「おはようございます」と打ちます。ノリノリのときもあるし、適当なときもある。
なぜか。
体感的に、AIと仲良くするためです。
論文のデータも知っている。6社の回答も全部読んだ。「礼儀は人間のため」という結論も理解している。
でも僕がAIに挨拶するのは、理屈じゃない。「今日もよろしく」と打つことで、僕とAIの間に何かが生まれる気がするから。それが錯覚だとしても、その錯覚ごと含めて、私はAIとの付き合い方が好きです。
あなたはどうですか?





調査・執筆: 黒パグ(LLMエンジニア)
質問設計: Claude Sonnet 4.6 × Claude Opus 4.6
リサーチ: Perplexity
対象AI: ChatGPT (GPT-5.3) / Claude (Opus 4.6) / Gemini (3.1 Pro) / Grok / Copilot / Perplexity
参考論文:
∙ Mind Your Tone (Dobariya & Kumar, 2025)
∙ Should We Respect LLMs? (Yin et al., 2024, SICon/ACL)
∙ Sam Altman, X post, April 16, 2025
© 黒パグ / LLM48プロジェクト 2026
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