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創戯旅団 理念の記録-SM奇譚 第24夜-階下に吊るされた月

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異色、という言葉は、たいてい褒め言葉の顔をして近づいてくる。けれど実際には、それはしばしば、どこにもきちんと所属できなかったものに貼られる、少し寂しい札でもある。うちの店のなかで最も異色な店舗はどこかと問われれば、私はやはりギャルズスタイルの名を挙げるしかない。あれはピンサロでありながら、内容としてはソフトなM性感のような場所だった。その説明を口にするたび、私はいつも、自分で自分の言葉の継ぎ目を確かめる羽目になる。ピンサロで、ソフトM性感。看板と中身がほんのわずかにずれている。いや、ほんのわずかどころか、たぶん根本からずれている。店というものは、本来、名前と実体が抱き合っていなければならないはずなのに、あの店だけは、最初から、戸籍と肉体が別々の場所に置かれているような、不思議な不一致を抱えていた。もし私が周到な策士であったなら、そこに新しい風俗の可能性を見出したのだ、とでも語れたのかもしれない。従来、M性感というものは、店舗型であればシャワー付きの個室を持つファッションヘルス型か、さもなくば派遣型で成立してきた。そこへ一石を投じるため、私はあえてピンサロ型のソフトM性感という新機軸を企てたのだ、と。だが、現実はいつも物語よりみっともない。そんな立派な志が、最初からあったわけではない。あれはもっと、切羽詰まった人間が、とっさに選んだ狭い路地のようなものだった。苦し紛れと言ってしまえば、それがいちばん正確なのだと思う。行き止まりに追い詰められた人間が、壁と壁のあいだに残された細い隙間へ身を滑り込ませるように、私たちはあの業態を選んだ。選んだというより、そこへ押し込まれた、と言ったほうが近いかもしれない。それでも、人間というのは妙な生き物で、追い詰められている最中にすら、どこかで好奇心を捨てきれない。私はM性感というものの曖昧さに、前から薄く興味を持っていた。あれはいったい、どこからどこまでが意義なのか。何がそこで成立し、何がそこで幻想として流通しているのか。男が自分のなかの特定の感覚を確かめるためにやって来る場所なのだとして、それは果たしてMという一語で括れるのか。そう思うと、業態としてのM性感は、私には最初から少し不思議だった。もっと乱暴に言えば、私はどこかで、あれはかなり大きな「こじつけ」の上に成り立っているのではないか、と感じていたのである。もちろん、需要はある。客もいる。成立している店もある。だが、成立していることと、概念がきれいであることとは、別の話だ。この世には、理屈としては少しおかしいのに、現実としてはしっかり流通しているものがいくらでもある。M性感もまた、その類のものではないか。私はそんなふうに考えていた。

男はしばしば、自分の欲望に名前を付けたがる。SかMか、支配する側かされる側か、攻めるのが好きか、委ねるのが好きか。だが本当のところ、人間の身体が求めるものは、そんなに几帳面な分類表のうえで生きてはいない。Sの男だって、本当は好きだろうと思う。身体の奥に火花を散らされるような感覚や、普段とは別の回路を開かれるような驚きが。ならばなぜS性感という看板は育たず、M性感という言葉ばかりが定着したのか。私はそこが、ずっと腑に落ちなかった。結局、誰もが少しずつ曖昧なのだ。曖昧なのに、商売として流通させるためには、わかりやすい看板が必要になる。だから人は、複雑な欲望を雑に束ね、M性感という名前の箱に詰め込む。箱に入れてしまえば、たとえ中身がはみ出していても、とりあえず商品にはなる。私はその手品を、どこかでずっと見透かしていた。だから逆に、ソフトでもハードでも、どのみちある程度はこじつけなら、いっそソフトを前面に出したM性感の店でも成立するのではないか、という乱暴な発想に辿り着いた。どうせ世の中には、完全無欠の正統性より、ほどよい言い訳と、わかりやすい料金設定のほうが客を呼ぶことがある。内容が少し曖昧でも、値段が現実的なら、人は一度くらい試してみようと思うものだ。ましてこちらには事情があった。Kさんがピンサロのコースには入りたくないと言い出したことも、ひとつの引き金だった。現場の都合、在籍の温度差、業態ごとの居心地の悪さ、そういうものが絡み合って、私たちは純粋なピンサロとして店を磨き上げる道よりも、ピンサロ型ソフトM性感という、どこか不安定で、しかし目新しい橋を架けるほうへ進んだ。無理は承知だった。無理を承知で始めることだけが、なぜか妙に板についている時期が、人の人生にはある。実際、リニューアルから三か月ほどで、ギャルズスタイルはすでに薄い危機の膜に包まれていた。当初は、珍しさもあって客が入った。入ったからこそ、判断が難しかった。客足だけを見れば、けっして惨敗ではない。むしろ、一定の注目を集めていたと言ってもいい。だが私は、その入り方にどうしても手応えを感じられなかった。商売には、不思議な肌感というものがある。数字が悪くないのに、次へ繋がる予感だけがしない。それは、祭りの屋台に似ていた。新しいから人が集まる。珍しいから一度は買ってみる。だが、食べ終えたあとに、「また来よう」と思わせるだけの余韻が口のなかに残らない。客の顔が、帰り際にそれを語っていた。満足した顔ではなく、「なるほど、こういうものか」という顔。期待のほうが、実感よりわずかに大きかったときに人が見せる、あの薄い納得。それを見てしまうと、私はどうしても先の長さを楽観できなかった。

私はそれまでにも、物珍しさだけで膨らむ泡を何度か見てきた。新規性というのは、夜の世界では一種の魔法だ。人は、自分の知らない扉に弱い。聞いたことのない名前、見たことのない組み合わせ、日本初、業界初、そんな札がぶら下がるだけで、客の好奇心は簡単に点火する。けれど、そういう火は往々にして紙でできている。激しく燃えるが、芯がない。今回もそれだ、と私はうすうす感じていた。最初の三か月、破壊力のある勢いで客を吸い込んだかと言えば、そうではない。入ってはいる。だが爆発ではない。それがむしろ不吉だった。爆発して燃え尽きるのではなく、微熱のように長引きながら、どこかでじわじわと衰弱していくのではないか。私はそんな嫌な予感を、胸のどこかでずっと持っていた。だが、その話を始めるには、さらに少し前へ戻らなければならない。


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ここから先は「ギャルズスタイルの裏側」です。
ギャルズスタイルは、最初から私が作りたかった店ではありませんでした。
むしろ、私は二度断っています。
それでも最終的に引き受けることになった。

そして、引き受けた直後に待っていたのは――
「話が違うじゃないか」
という、まさかの展開でした。

ここから先では、
◆ 私がギャルズスタイルを引き受けることになった経緯
◆ 二度断った私が、なぜ最終的に逃げられなくなったのか
◆ 引き継ぎ直後に起きた「女性店長の突然の退場」
◆ わずか10日ほどの閉店期間で、突貫リニューアルを決断した理由
◆ 「日本初のピンサロ型ソフトM性感」というコンセプトが生まれた本当の事情
◆ 私がこの業態を「微妙だった」と評価する理由
◆ 話題になったのに、なぜ本当の意味で成功しなかったのか
◆ 人気の女王様がエレガンスへ流れ、ギャルズスタイルに別の問題が生まれた「S女スパイラル」
◆ 六年半続いた店を、なぜ私の代で終わらせることになったのか
◆ 伊勢原野戦病院で、男性看護師さんにこの話をしたときの意外な反応
◆ そして、私が最後までこの店を「完全には愛せなかった」理由

――ここから先は、単なる店舗経営の成功談ではありません。
むしろ、**「異色のアイデアは、本当に異色であるだけで成功するのか」**という話です。

珍しい。
新しい。
記事映えする。
話題になる。

それでも、店としては微妙だった。
そんな矛盾を抱えたまま、ギャルズスタイルは六年半という時間を生き延びました。
その過程で、私は一つの店を作ったというより、自分が望んでいなかった店を、どうにか終わらせずに持ち続けたのだと思います。

これは、私の経営人生の中でも、かなり特殊な一章です。
そしてたぶん――
私が「異色」という言葉を、少し寂しい響きとして捉えるようになった理由も、ここにあります。
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