第16稿 流氷が哭く前に、灯りはそこにあった。
この物語は、成功の話ではありません。
観光の話でも、癒しの話でもない。
ただ、北の辺(べ)の、名もない場所で、
ひとつの灯りを守っていた時間の記録です。
流氷が来る前の海。誰もいないデッキ。
薪のはぜる音と、まだ名付けられていない「気配」。
それらが確かに存在していたことを、
言葉にして残しておきたかった。
これは、流氷が哭き出す前の物語です。
北の辺(べ)のカフェ、静かな聖夜
雪に閉ざされた国道の先、
灯りだけが、理由もなくここにある。
薪がはぜる音。
ストーブの熱で、カップの縁がわずかに曇る。
デッキの向こうは、白と闇が溶け合う世界。
風は強く、海はまだ姿を見せない。
それでも――遠くで、氷が軋む気配だけが、確かにある。

この夜、
流氷の“哭き声”は、まだ聞こえない。
だからこそ、耳を澄ませてしまう。
誰かの成功も、失敗も、
旅の途中でこぼれ落ちた言葉も、
ここでは、ただ静かに暖められる。
北の辺の、名もなきカフェ。
クリスマスの夜、灯りを灯しながら、
その場所は、祝祭よりも、ずっと深い沈黙を選んだ。
――これは、
流氷が語り出す“前”の物語。
『流氷の哭き声レストラン』
静かな聖夜から、はじまる。
