見出し画像

「ゼロックスする」頃の私へ。今の私はね。

職場で上司に言われた。
「これ、Confluence (コンフルーエンス)しといて」
……コンフルーエンスして?

心の中で思わずツッコんだ。
「昔の『ゼロックス』かっ!」


Confluence (コンフルーエンス)は、会社で使っているDXツールの名前で、大変ひらたく言うと、情報を集約し、共有、管理、活用ができるものだ。
そこに入力することを、上司は「コンフルーエンスする」と言う。
それを聞くたび私の頭の中には、何十年も前の言葉がよみがえる。

「ゼロックスする」。

コピーを取ることを、そう言っていた時代があった。
Xerox(ゼロックス)は社名。そこに「する」をつけるという大胆さ。
Xerox 社のコピー機じゃなくなっても、「ゼロックスする」という言葉は残った。
今はキャノン製なのに、「キャノッて」とはならへんのかい!
ということだ。

「ゼロックスする」は、学生の頃に数ヶ月インターンとして働いた会社でよく耳にした。

当時、コピー機は今のように執務室に当たり前にあるものではなく、部屋の端に作られた小部屋、「コピー室」と書かれた扉の向こうにあった。
終業時には「コピー室の鍵を閉めまーす!」と、声高らかにお知らせも響いていた。  

「コピー機様」の前では、新人もベテランも皆、平等。
書類を抱えた平民が扉の前で列をつくり、順番待ちをしていた。

そのなかで私は、キラキラしている社員のお姉さん達の中に並びながら、コピーを1枚取るだけでも緊張し、手間取ったらどうしようといつもテンパっていた。

次に待つ人の視線を背中に熱く感じながら、「コピーなんて簡単」という素振りをしていても、内心はあたふた。
ヘマをして「なんだこの学生は」と思われるのが怖かった。
慣れないコピー機操作より、自分がどう見られるかばかりを気にしていた。


今、「コピー機様」は個室を用意されることもなく複合機へと様変わりし、紙を使うことも減って、DXツールが次々に導入されている。
まさに「コンフルーエンスしといて」の時代だ。

長年の社会人生活で仕事の道具はずいぶん変わったけれど、さて、私はどうだろう。
コピー室で並んでいた頃の私は、肩は力が入りっぱなし、何を見てもおどおど、ビクビクしていた。

今でも人の目は気になる。
急ぎの仕事が重なれば、しっかり、テンパる。
定年が見えてもなお「落ち着いたデキる会社員」にはほど遠いありさまだ。

それでも毎年、複合機の前で立ち尽くしている新入社員を見つけたら、

「何をしたい?」
「印刷するなら、パソコンにドライバをインストールしないと」
「紙、詰まった?いっしょに見ようか」

なんて声をかけている私は、キラキラした社員のお姉さんではないけれど、気さくに話せるおばさんにはなれているだろうか。
あの頃の私にも、大丈夫だからと、肩をぽん、と叩いてあげたい。


今日も上司は言う。
「コンフルーエンスしといて」。 
それを聞いて心の中でツッコみ、下を向いて「にやっ」とする。
「『ゼロックス』かっ」。


いいなと思ったら応援しよう!