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~広重~ 『六十余州名所図会』 の旅  <東山道 編> (下巻)

第五話:上野 榛名山 雪中

信濃の更科で幼馴染との情念に身を焼かれたお光は、母に薬を預け、さらなる秘薬を求めて上野国(こうずけのくに)へと足を踏み入れた。

季節は巡り、榛名山を包み込むのは、すべてを白く塗り潰す猛烈な吹雪であった。切り立った岩峰が重なる榛名の山道は、雪によって輪郭を失い、一歩踏み外せば谷底へと吸い込まれる白銀の地獄と化している。

「……寒い。指の感覚が……」

お光は雪に足を取られながら、必死に杖を突いた。薬草の知識があっても、この寒さだけはどうにもならない。体温は奪われ、意識が遠のきかけたその時、雪のカーテンの向こうに、小さな炭焼き小屋の灯りが見えた。

「どなたか……お頼み申します……」

這うようにお光が転び込んだ小屋には、一人の男がいた。
炭を焼く煙に燻され、岩のように逞しい肩幅を持つ男、鉄造である。

鉄造は無言でお光を抱き上げると、赤々と熾(おこ)った炉の傍へと運んだ。凍りついた旅装束が熱に触れ、白い湯気を立て始める。
彼は手際よくお光の帯を解き、濡れた衣を剥ぎ取っていった。

「……死にたくなければ、これを纏っていろ」

鉄造は、自分の分厚い羽織を、肌着一枚になったお光の肩に投げかけた。
炉の炎がお光の横顔を赤く染め上げる。鉄造はそのまま外へ雪掻きに出ようとしたが、ふと足を止めた。
炎に照らされたお光の、雨露を吸った花のような艶やかさに目が釘付けになったのだ。

二十八の女の身体は、厳しい旅を経て、野生の獣のようなしなやかさと、男を狂わせる熟れた果実の匂いを放っていた。
濡れた肌着が彼女の柔らかな曲線をあからさまに浮き彫りにし、熱を帯びた肌からは、薬草の香りと混ざり合った、抗いがたい女の香気が立ち昇る。

鉄造の視線が、お光の大きく波打つ胸元から、汗に濡れた項(うなじ)へと這い上がっていく。
「……あんた、そんな身体で独り、この山を歩いてきたのか」

彼の声が、先ほどよりも低く、掠れた響きを帯びる。

お光は、炉の熱に当てられたかのように、潤んだ瞳でじっと鉄造を見つめ返した。男の視線が自分の肌を執拗になぞるたび、凍えていた芯のあたりが、疼くような熱に支配されていく。

「……旅は、孤独でございました。けれど、今のこの火の熱さ……貴方の視線の熱さが、私の氷を溶かしてゆくのです」

お光はわざと、重い羽織を肩から少しずらした。
露わになった白い肩に、火の粉が舞い落ち、微かな刺激を与える。彼女は吐息をつきながら、鉄造の逞しい腕を、縋るように掴んだ。

「鉄造様……私の内側にある、この止まない震えを……止めてくださるのは、貴方しかおりません」

鉄造の瞳の中に、理性を焼き尽くすような欲望の炎が灯る。
彼は山男の硬い指先で、お光の顎をすくい上げた。お光の瞳に映る、己の野性的な餓えを確かめるように。

「……こんな深山で、毒のような女に出会うとはな」

鉄造の大きな掌がお光の頬を包み込み、引き寄せる。
もう、吹雪の音も、炉の爆ぜる音も、二人の耳には届かなかった。彼は耐えかねたように、お光の潤んだ唇を力任せに塞いだ。

炭の匂いと、雪の冷気、そして狂おしいほどの男の渇き。
お光は、彼の厚い胸板に指を立て、自ら身体を密着させた。凍えていた身体が、今、内側から激しく沸騰し始める。

「鉄造様……もっと、もっと熱く……私を溶かしてください……っ」

炉の炎が爆ぜ、火の粉が二人の肌の上を舞う。
鉄造は、お光の細い身体を軽々と持ち上げ、敷き詰められた枯れ草の上へと押し倒した。 雪に閉ざされた密室。窓の外では吹雪が咆哮し、すべてを拒絶しているが、小屋の中だけは、二人の情熱によって異質な夏が訪れていた。

鉄造の激しい突き上げが訪れるたび、お光の意識は白銀の世界と真っ赤な炎の間を激しく往復した。 彼女の身体は、寄せては返す熱い波に幾度も飲み込まれ、そのたびに魂が肉体の殻を突き破って、炎の中に飛び込んでいくような陶酔を覚えた。

再び訪れた高まりの中で、彼女の視界は真っ白に弾け、降り積もる雪のように静かな、しかし抗いがたい充足が、全身の隅々まで染み渡っていった。

やがて、炉の火が穏やかな光に変わる頃、二人は折り重なったまま静かな眠りに就いた。 窓の外の吹雪は、いつの間にか止んでいた。

翌朝、お光の薬箱には、鉄造が秘蔵していた「雪の下の霊芝(れいし)」が納められていた。

「……達者でな。山を下りるまでは、その熱を忘れるんじゃねえぞ」

鉄造のぶっきらぼうな言葉を背に、お光は再び雪道を歩き始めた。

第六話:下野 日光山 裏見ノ瀧

上野の雪深い山中で、鉄造の情熱によって命を繋ぎ留めたお光は、さらなる薬草の啓示を求めて霊場・日光山へと足を踏み入れた。

日光の山々は、神仏が宿る清浄な空気に満ちている。お光が目指したのは、飛瀑が巨大な岩壁から突き出し、その裏側に道が通る「裏見ノ瀧」であった。激しい水の帳(とばり)の向こう側は、外界から切り離された、瑞々しくも仄暗い聖域である。

「……ここが、神の御影を拝する場所」

お光が滝の裏側の濡れた岩道を進むと、轟々(ごうごう)たる落水が銀色の幕となり、陽光を遮っていた。
その湿った闇の奥で、一人の男が岩の上に端座し、滝行の合間の瞑想に耽っていた。
名は修験者の真海(しんかい)。
その肌は修行によって研ぎ澄まされ、濡れた白衣が、彫刻のように無駄のない肉体の線に貼り付いている。

真海は目を開き、立ち現れたお光を静かに見つめた。
その瞳は澄み渡りながらも、底知れぬ深淵を湛えている。

「……薬売りの女か。この清浄なる結界に、何ゆえ迷い込んだ」

「病床の母を救う、清き水に育つ苔を求めて参りました。……けれど、この水の響きを聞くうちに、己の内の迷いが、かえって騒ぎ立てるのです」

お光は一歩、真海へと近づいた。
滝の裏側の湿った冷気が、彼女の着物を肌に吸い付かせ、歩くたびに女らしい柔らかな肉の揺らぎを強調する。
真海は無言でそれを見つめていたが、お光から漂う、雨に濡れた花の蜜のような匂いと、幾多の旅路で男たちの熱を吸い込んできた女の「陰」の香気が、彼の鼻腔をかすめた。

「お前の瞳には、迷いがあるのではない。……果てのない渇きがある」

真海の声が、わずかに低く、濁る。彼は立ち上がり、お光との距離を詰めた。修行で冷え切っているはずの彼の身体から、お光の体温に呼応するかのように、じわりと熱が立ち昇り始める。

「真海様……仏の道を歩む貴方様には、私のこのような濁りは、醜く映るのでしょうね」
お光は潤んだ瞳で真海を見上げ、わざと自分の濡れた手で、彼の冷たい掌を包み込んだ。
「けれど……この冷たい水の下で、貴方の指先はこんなにも熱く震えておいでです」

真海の瞳の奥で、張り詰めていた戒律の糸が、ぷつりと切れる音がした。
彼は自らの掌を裏返し、お光の指を強く、痛いほどに握り締め返した。

「……お前は、仏の慈悲よりも深い毒を持っている。その毒が、私の十年の修行を、たった一息で焼き尽くそうとしている」

真海の手が、吸い寄せられるようにお光の項へと伸びた。
指先がお光の湿った肌に触れるたび、そこから熱が伝播し、彼の理性をじわじわと蝕んでいく。彼は、お光の耳元に唇を寄せ、喘ぐような低い声で囁いた。

「……私を、地獄へ連れて行くつもりか、この薬売りめ」

「……地獄などございません。ここにあるのは、この激しい水音と……私と貴方の、熱い肌だけでございます」

お光が真海の胸板に顔を埋め、彼の白衣をそっと寛げると、真海は耐えかねたように、お光の腰を強引に引き寄せた。滝の裏側の閉ざされた空間。水の帳に阻まれ、外界の音は遮断され、ただ二人の荒い呼吸だけが、岩壁に反響する。

真海の唇が、お光の首筋から肩にかけて、貪るように色彩を描いていく。
神聖な場所ゆえの背徳感が、彼の欲望をさらに鋭く、野性的なものに変えていった。彼の指先は、お光の合わせ目から滑り込み、瑞々しく熟れた彼女の深淵へと、祈りを捧げるかのように深く、執拗に分け入った。

「ああ……真海様……っ、そんなに、深く……!」

お光は濡れた岩壁に背を預け、仰け反った。真海はお光の脚を高く持ち上げ、己のすべてを叩きつけるようにして彼女を貫いた。
お光の身体は、聖なる静寂と俗なる歓喜の狭間で幾度も激しく打ち震え、そのたびに、魂が水の粒子となって散り、再び男の熱によって形作られていくような、神懸かり的な恍惚を覚えた。

真海は、お光の豊かな胸を両手で掴み、その頂を吸い上げながら、獣のような低い呻きを漏らした。
修行で培った強靭な腰の動きが、お光を逃れられない絶頂の渦へと突き落としていく。 再び訪れた高まりの中で、お光の視界は滝の飛沫に反射する虹色に染まり、己の濁りさえもが、この清らかな水の底で、一つの完成された愛欲へと昇華されていくのを感じた。

やがて、真海は静かに離れ、再び岩の上に腰を下ろした。
その表情は再び静謐な僧のものに戻っていたが、その肌には、まだお光の放った情念の紅が、生々しく浮き出ていた。

「……行け。お前の求める苔は、あの岩の陰に。それは濁りを知る者にしか、その効能を現さぬ」

お光は乱れた衣を整え、滝の裏側の闇から日光の眩しい陽光の下へと這い出した。薬箱の中には、真海が教えた、緑深く瑞々しい「裏見の苔」が納められていた。

お光の芯には、真海の修行僧としての冷徹さと、男としての荒々しい熱が混ざり合った、不思議な静けさが宿っている。
彼女は、轟々と鳴り響く滝の音を背に、奥州へと続く道を見据えた。

第七話:陸奥 松島 風景 富山眺望之略圖

日光の霊場にて、聖と俗が溶け合う峻烈な一夜を過ごしたお光は、さらなる長旅の果てにいよいよ陸奥(みちのく)へと至った。
眼前に広がるのは、八百八島とも謳われる絶景、松島である。群青の海に、緑の松を冠した無数の島々が、まるで宝石を散りばめたように浮かんでいる。

お光は、ある秘島にしか生えぬという、滋養強壮に類まれな効能を持つ「岩松」を求め、一人の船頭に舟を出させた。
名は太助(たすけ)。
この海と共に生きる彼は、潮風に晒されて鋼のように引き締まった肉体と、荒波を見据え続けてきた鋭い眼差しを持っていた。

舟が松島の島々の間を滑るように進むにつれ、空の色はにわかに翳り、穏やかだった海面に白波が立ち始めた。潮の香りが急に濃くなり、低く垂れ込めた雲が海と空の境界を曖昧にしていく。

「お光さん、ちいと時化(しけ)てきた。今日はこのあたりで舟を繋ぐしかねえな」

太助は手際よく舟をある無人島の岩陰に寄せ、松の根元に綱を打った。
入り江に守られたその場所は、波の音だけが岩壁に反響し、外界から切り離された密室のようであった。

「……申し訳ございません。私の我が儘で、このような危うい目に」

舟が波に揺れるたび、狭い船上でお光の身体は太助の逞しい胸板へと押し付けられる。お光が顔を上げると、太助の瞳には、荒波をねじ伏せる男の強さと、独りで旅を続ける女への隠しきれない好奇が混ざり合っていた。

「……謝るこたあねえ。海ってのは、いつだって気まぐれだ」

太助の大きな掌がお光の肩に置かれた。
日光での真海との情事以来、お光の身体には、男の熱を本能的に呼び寄せるような、湿った色香がより深く刻まれていた。潮風に乱れた黒髪が、白く露わになった項(うなじ)に絡みつく。

太助は、お光の腰を支える手にじわりと力を込めた。
「あんた、その細い体で、よくもまあここまで……。薬草のためだけに、命を懸けてるって顔じゃねえな。あんたの目には、何かを求めて彷徨う獣のような光があるぜ」

「……私はただ、母を救いたい一心で旅を続けてまいりました。けれど……」
お光の声が、波の音に紛れて震えた。
「……貴方のその大きな掌に触れていると、自分が何のために歩いてきたのか、その理由さえも波に浚われてしまいそうなのです。この海に、すべてを預けてしまいたい……」

お光の吐息が太助の首筋を掠めた。
その瞬間、太助の瞳に宿る欲望が、静かな凪(なぎ)から激しい荒天へと変わった。
「……なら、預けてみな。この松島の海は、飲み込んだものを二度と離さねえぜ」

太助は、お光の濡れた襟元に、潮気を含んだ無骨な指先をゆっくりと滑り込ませた。
彼の肌は太陽の熱を閉じ込めたように熱く、触れられるたびにお光の内の「業」が甘く疼き始める。陸路の険しさとは違う、舟の不規則な揺れが、お光の理性を最後の一枚まで剥ぎ取っていった。

太助はお光を狭い船底へと誘い、その重厚な身体で彼女を包み込んだ。
上空では松の枝が風に鳴り、波が島を打つ音が激しく響く。太助の唇がお光の鎖骨に、そして潮の香りが染みた柔肌へと深く沈み込んだ。

潮風に晒された彼の舌は、微かに塩の味がした。
その荒々しい愛撫に、お光は、広大な海そのものに抱かれているような錯覚を覚えた。彼女は太助の逞しい背中に縋り付き、舟が大きく揺れるリズムに合わせて、自らもまた熱い吐息を漏らした。

太助の指が、お光の脚を割り、奥深くの柔らかな領分へと力強く侵入した。

「ああ……っ、海の男の手は……こんなにも、激しく、温かいのですね……っ」

お光は、島々に打ち寄せる波の音と、己の身体を貫く太助の鼓動が一つに重なるのを感じた。
彼女の身体は、松島を揺らす荒波のリズムに翻弄され、幾度も押し寄せる官能の渦に呑み込まれた。そのたびに、魂が舟の揺れと共に浮き沈みし、深い海の底へと沈殿していくような、抗いがたい安らぎを伴う恍惚に身を浸した。

太助はお光の汗ばんだ髪を掴み、野性的な力強さで彼女を貫き続けた。
再び訪れた高まりの中で、お光の視界は空と海が混ざり合う深い青へと溶け込み、己の命が、この果てしない自然の営みの一部として、激しく、しかし美しく燃え尽きていくのを悟った。

やがて、時化が収まり、入り江に静寂が戻る頃、二人は潮騒を聞きながら重なり合った。
お光の薬箱には、太助が険しい岩場を伝って採ってきてくれた、潮気をたっぷり含んだ最高級の「岩松」が納められていた。

「……いい女だった。またこの海に来たときは、俺の舟に乗りな。あんたの居場所は、ここにもあるんだ」

太助の言葉をお守りのように胸に抱き、お光は再び、最上川の流れる出羽の国を目指して歩き始める。
松島の島影が遠ざかるにつれ、彼女の瞳には、旅の終わりを見据えた、静かな決意の光が宿っていた。

第八話:出羽 最上川 月山 遠望

陸奥・松島の荒波に揺られ、海の男の剛毅さを胎内に刻んだお光は、ついに旅の終着点、出羽へと辿り着いた。

眼前に広がるのは、北国の大地を貫く最上川の雄大な流れである。
夕映えの中、対岸には霊峰・月山が、神々しくも冷徹なまでの静寂を湛えて聳えていた。川面には黄金色の帆を上げた舟が幾本も行き交い、暮れなずむ空の下、すべてが現実離れした幻想的な色彩に染まっている。

お光はこの最上川のほとりで、最後の秘薬を求め、川の渡し守である五朗(ごろう)の庵に一夜の宿を借りた。
五朗は、川の深淵を見つめ続けてきたような、静かだが底知れぬ圧を放つ男であった。

「……長旅だったようだな、お光さん」

炉端で向かい合った五朗の声は、川底を流れる水音のように低く、お光の背筋をかすかに震わせた。
庵の中に焚かれた香の煙が、夕闇の中で紫に揺れる。お光は、信濃を出てからこの地に至るまで、幾多の男たちの熱を吸い込んできた己の身体の「重み」を自覚していた。

「はい。この川を渡れば、私の旅は終わります。けれど……この身に溜まった澱(おり)を、どこに捨てればよいのか分からなくなりそうで……」

五朗は、ただ静かに流れる川のような眼差しで、お光を迎え入れていた。
五郎はお光を「ただ一度の渡しを待つだけの、行きずりの客人」として、己の心の岸辺に留めるつもりでいた。しかし、揺らめく灯火に晒されたお光の横顔――雨露を吸った薬草の匂いと、幾多の宿場を経て熟れきった果実のような芳香が混ざり合うその「毒」に触れた瞬間、彼の内にあった静謐な水面は、激しい渦を巻いて崩れ始めた。

五朗は、お光が差し出した冷えた指先を、温めるようにそっと包み込んだ。

「澱などではない。あんたのその身体は、これまで出会ったすべてを糧にして、今、最も烈しく燃えようとしているだけだ」

五朗の指先が、お光の手首の脈打つ場所を執拗になぞる。
その感触は、これまでのどの男よりも静かでありながら、お光の奥底にある渇望を正確に射抜いていた。お光は、自らの内に飼い慣らしてきた業が、五朗の静かな熱に当てられて、音を立てて崩れ落ちるのを感じた。

「……五朗様。私を、この最上川の激流に沈めてくださいませ。すべてを、忘れてしまえるほどに」

お光は自ら五朗の胸板に額を預け、震える手で彼の衣を掴んだ。
五朗はもはや抗うことをやめ、憑りつかれたような眼差しでお光の帯に手をかけた。

薄暗い庵の中、五朗が彼女の項を深く吸い上げ、その逞しい肉体で彼女を貫き始めた瞬間、お光の脳裏に、東山道の各地で出会った男たちが、鮮烈な快楽の記憶とともに一人ずつ蘇り始めた。

「ああ……っ、んんっ……!」

五朗の指が秘所に深く沈み込むと、お光は石山寺の若僧、静真の指先を思い出した。あの禁欲的な男が、初めて肌を合わせた瞬間に見せた、狂おしいまでの飢え。静真の震える舌が鎖骨を這う感覚が蘇るたび、お光の腰は反射的に跳ね、一度目の烈しい絶頂が彼女を貫いた。

五朗の突き上げが、川の荒波のように激しさを増す。お光は目を閉じ、今度は養老ノ瀧の猟師、伝蔵を想った。飛沫の中で獣のように自分を喰らった、荒々しい野性の熱。伝蔵の太い腕に抱かれ、岩肌に背を焼かれた痛みが快感へと変換された瞬間をなぞるように、お光の身体は蜜を溢れさせ、二度目の高まりに狂った。

五朗は、お光の乱れた黒髪を掴み、彼女のすべてを暴き立てるようにその深淵を穿つ。
「お光……あんたの中には、どれだけの男が住み着いているんだ……」
その問いかけに答える代わりに、お光はさらに過去を遡った。

籠わたしの源次。
空中に吊るされた籠の中で、死の恐怖と引き換えに味わった、あの浮遊するような快感。源次の指が自分を奈落へ突き落とした感覚が蘇ると、お光の視界は真っ白に弾け、三度目の絶頂が波のように押し寄せた。

さらに、更科の幼馴染、伊助の奪い合うような執着。
榛名山の鉄造の、雪をも溶かす灼熱の吐息。日光山の真海が、戒律を捨てて自分を求めた、あの悲痛なまでの愛撫。

一人ひとりを思い出すたびに、お光の身体は、過去のすべての男たちの「技」と「熱」を今この瞬間に再現するように、かつてないほど淫靡に、そして激しく震えた。
五朗の突き上げは、それらすべての記憶を飲み込み、お光の身体の中で一つの巨大な炎へと変えていく。

最後に、松島の太助の、潮の香りがする荒々しい抱擁を想った瞬間、お光は絶叫に近い声を上げ、五朗の首筋に深く歯を立てた。

幾人もの男たちの情念が、お光の胎内ですべて溶け合い、渦を巻き、最後には最上川の激流のような巨大な奔流となって彼女のすべてを押し流した。
お光はこれまでにないほど長い、命そのものが果てるような深い、深い絶頂の深淵へと真っ逆さまに堕ちていった。

庵の外では、最上川が月山を映しながら、滔々と流れ続けている。
やがて訪れた静寂の中で、お光は五朗の腕に抱かれ、空っぽになった己の魂を感じていた。

「……お光。これで、お前の旅の澱はすべて川に流れたな。あんたは今、新しく生まれたんだ」

翌朝、お光の手には、最上川の霧に濡れた「月山の山茱萸(さんしゅゆ)」が握られていた。
彼女は晴れやかな、どこか神聖なまでの美しさを湛えた顔で、信濃の家へと向かう道を歩き始めた。

薬箱の中には、母を救うための数多の秘薬と、一人の女が命を懸けて旅した情欲の記憶が、静かに納められていた。

お光の旅は、ここに完結する。
最上川の流れは、今日も絶えることなく、すべてを飲み込んで海へと向かっている。


<東山道編 了>

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