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中目黒の桜(前編) 地獄の満員電車から逃げ出したかったあの頃

3月29日
本当は部屋の片付けをしなきゃいけなかった。
こういう「やらなきゃいけないこと」って、なぜか後回しにしてしまう。

結局できなくて、いつものようにFEELCYCLEへ行き、そのあと映画『ストリートキングダム』を観た。

帰りに、中目黒に住む妹に会いに行く。
岡山の実家ではお盆と正月にあっているが、東京出会えるのは最後かもしれないし、ちょうど中目黒の桜もきれいだろうと思ったからだ。

中目黒には、少し特別な思い入れがある。
一度目に東京で働いていた職場が、この街にあったからだ。

あの頃から桜はきれいだった。
でも今みたいに人は多くなくて、もっと静かだった。

ベンチに座って、コンビニのおにぎりを食べながら桜を眺める。
今思うと、ああいう時間って、けっこう贅沢だったのかもしれない。

――あの頃は、めちゃくちゃ忙しかった。

今では考えられないくらい、残業していた。
「今日は早く帰れるかも」と思った日に限って、仕事が終わらない。
そんな経験、ある人も多いと思う。

終電を逃して、そのまま事務所に泊まることも珍しくなかった。

近くの銭湯に行って、戻ってきて、
床に段ボールを敷いて寝る。

自分だけじゃない。
周りもみんな同じような状態だった。

「これ、いつまで続くんだろう」って思いながらも、
その場にいると、それが当たり前になっていくのがちょっと怖かった。

今思うと、完全に地獄だったなと思う。
ブラック企業なんて概念もなかった時代だな。

当時は経堂に住んでいた。

小田急で下北沢まで行き、井の頭線で渋谷へ。
そこから東横線に乗り換えて、中目黒へ向かう。

この乗り換えが、とにかくきつかった。

特に井の頭線の満員電車。
あれは本当にしんどかった。

ぎゅうぎゅうに押し込まれて、
足が床についていないんじゃないかと思うくらい。

――ほんとに、空中に浮いているみたいだった。

満員電車って、毎日乗っていると麻痺してくるけど、
冷静に考えると、かなり異常な空間だと思う。

この満員電車、なんとかならないのか。

当時はスマホもなければ、ChatGPTなんて当然ない。
調べることもできないし、誰かに簡単に相談もできない。

だから、ない頭で必死に考えた。
……チャリで通えばいいんじゃないか?

通勤時間も短くなるかもしれないし、
定期代も浮く。

何より、あの満員電車に乗らなくてよくなる。

それだけで、だいぶ救われる気がした。

もしかしたら、この地獄から抜け出せるかもしれない。

(後編:運命の自転車「TOKYOBIKE」との出会い に続く)


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