短編小説『デッドライン・ポートフォリオ』第一話:12月8日の亡霊


「亡霊の日」

午前7時45分。

 佐久間 慧(さくま けい)は、いつものように目覚ましが鳴る前に目を覚ました。ベッドサイドのスマートスピーカーが、静かにニューヨーク市場の終値を読み上げている。

「...ダウ平均株価、19ドル安で引け。台湾半導体TSMCの株価は、地政学的リスクの高まりを背景に、わずかに続落いたしました。」

「わずかに、か」

 慧は独りごちた。ウォール街はまだ、この薄氷の上で踊っている。彼の視線の先には、壁に貼られた巨大な世界地図。台北と沖縄を赤いラインで結び、そのラインの上に、彼の筆跡で「12月8日」という日付が書き込まれている。

 今日、12月7日。日本時間ではもう8日になろうとしている。真珠湾攻撃から80年以上の時を経た、その奇襲の日付を、彼はあえてこの仮想シナリオの「デッドライン」に設定した。

 慧は、日本の大手証券会社で、プライベート・バンキング部門のエースとして名を馳せていた。彼の顧客は超富裕層。彼らは、通常のリターンでは飽き足らず、「不確実性」という最大の変数の中で利益を上げる、悪魔的なまでの投資戦略を求めていた。

 昨夜、彼はすべての顧客に向けて、たった一行のメッセージを送っている。

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