ワシはこのダンジョンに住んでいるゴンベじゃ。
おお、迷い込んだか。
この迷宮には、いくつもの行き止まりがあってのう。
そんな時は、そっと引き返すのが良い。
ちなみにここを触れてみるがよい。
おおっ、戻ってきたか。
ああ、ワシか。
ワシの名は、ゴンベ。周りからは灰色髭のゴン爺とよばれておる。
このダンジョンに気がついたら、住んでいてのう。
元々は地上で火薬の調合を派手にトチってな、顔も髭も真っ黒になってしもうた。
「色が落ちるまで」と逃げ込んだ地下が、気づけば住処になっとった。
ある日、ふと壁の石に指を這わせてみたら、その冷たすぎず熱すぎぬ、絶妙な「しっとり感」にすっかり心を奪われてしもうたんじゃ。
冷たすぎず、熱すぎぬ。
ただそこに在る石の“しっとり”とした感触。
石壁をなぞる指の感触を楽しみながら、「こいつが乾くのを見届けてから帰ろう」などと考えているうちに気がつけば数十年が過ぎ、今では鍋が時折出す「ポスッ」という間の抜けた音を聞くのが、ワシの人生のすべてになってしまったというわけだわい。
まあ、ワシの話は役に立たん話だから、ダンジョンに迷って暇になったら聞きにくるが良い。
