BAR シェリル27
そろそろ冬支度ね。
営業時間の終わり、店内がずいぶん冷えてきたのを感じて呟いた。
明日はお休みだし、ちょっと冬モードに変えましょう。買い出し行かなくちゃね!
そういって2階にたくちゃんは上がって行った。
翌日…
ママ、わたしで良かった?ヒカリちゃんとお買い物する方が良かったんじゃないの?
うふふ、アナタもそろそろ外出ても良いんじゃない?セツコさんもそう言ってたじゃないの。
それにアタシがアナタとお買い物したかったし、インテリアでも見たら気持ちも晴れるわよ。
笑いながらたくちゃんがミチルに言う。
バーチェアの背もたれに使う小さめのクッション、ひざ掛けとポスターにおしぼりに使うハンドタオル…。
ミチルも久しぶりの外出を楽しみながら、ベビー用の食器とペアグラスを買っていた。
たくさん買ったわね!
ペアグラス、素敵じゃないの。ぽんちゃんと使うのね?
あ、ペアグラスはパパとセツコさんにプレゼントです。にっこりと笑いながらミチルが言う。
まぁそれは喜ぶわ。まだ時間大丈夫でしよ?ウチでお茶でも飲んでいきなさいな。
ありがとうございます。じゃあちょっとだけ
そう言ってふたりは店に入りお茶を飲みながらクッションが背もたれに合うか確認して
…次はポスターも変えましょうと中腰になったとき…グキッ…痛っ…とたくちゃんはそのまま床に膝をついた。
え!ママ!どうしたんですか?大丈夫ですか?
声を掛けるミチルに弱々しく「腰をやっちゃったみたい」みるみるうちに脂汗がにじんでくる様子に「とりあえず冷やしましょう、裏から毛布取ってきますね」言うが早いか毛布を床に敷いてたくちゃんを横たえて氷水で絞ったおしぼりを痛むところに当てる。
ごめんね、もう大丈夫だから帰って…
なにを言ってるんですか、放っておけませんよ、今パパとぽんちゃんが向かってますからとミチルは冷たいおしぼりを換えながら言う。
しばらくして店に来たふたりは、普段見ない弱ったたくちゃんに驚きつつも湿布を貼ったり鎮痛剤を飲ませたり、今日は店の奥で寝起きできるようにミチルの指示で2階から着替えなどを下ろしたりポスターの貼り換えをしたりしていた。
ごめんなさいね。すっかり迷惑かけちゃって…。
ナニ言ってんの!こんなときに役に立つために常連客はいるってもんよ。おっとミチルちゃんはそろそろ帰んないと!なに?メシ?そんな心配なんざしなくていいって。カミさんがおでん炊いてるからあとでぽんちゃんに取りに行かせるからとりあえず寝てな!
少々乱暴にパパが言いながら笑ってる。
うわぁー!綺麗!
ポスターを額に入れて飾ったぽんちゃんが感嘆の声を上げる…サントリーニ島の夕陽からメタセコイヤの鮮やかな紅葉とまだ緑のこる並木がそこにはあった。

今度はどこの国だろうねとパパと話していると。し…が…と地を這うような声がする
滋賀県?えぇ!日本なの!へぇスゴいね初めてこんなの見たよ。行ってみたいな。
…ったく息もできやしない。お化粧も落としたいしお風呂入りたい、でもムリね…今日はムリ。明日はお店開けなくちゃならないけどこの分じゃマズイわね。困ったわ。
ぽんちゃんの明るい呑気な声を聞きながらぼんやり考えていると
たくちゃん、今日は動かさない方が良いってカミさんが言うから病院は明日連れてくことにするよ、他になんかやっておくことはあるかい?
ないわ、ありがとう…ふたりともごめんなさいね。パパ…店の鍵預けて良いかしら。やっとのことでそれだけ言うと痛み止めが効いてきたのか眠ったようだった。
寝ちゃったね。晩ごはん、今のうちに取ってこようか。
そうだな、じゃそれまでオレはここに居るから頼むわ。
じゃ行ってくる。とぽんちゃんは出ていった。
ひとり残ったパパは、何やら思い付いた顔をして、電話を架けていた…。
そうなんだよ、ぎっくり腰なんだろうけどかなり痛そうで。あ、それは大丈夫…悪いね、急に…じゃ、待ってるから。
~しばらくして目を覚ましたたくちゃんの目に映ったのは缶コーヒーを手に座るヒカリの姿…。
あら、ナイチンゲール…こんな格好でごめんなさいね。
ふふ、資格は持ってませんよ、湿布換えましょうね。とカウンターに置かれた湿布薬を手に持って足元にきた。
今日はここに泊まらせてもらいますね。ソファで寝るから何かあったら声掛けてください。
お仕事は?
ここから出勤します、わたしが出勤したらセツコさんと交代しますから安心してね。たくちゃんをひとりにしないように、みんなで考えました。じゃ、患者さんは消灯の時間だからお利口におねんねしてくださいね!
ありがとう…なんと言っていいやら。
ひとりじゃない安心感から再び目をつぶるたくちゃんだった。
