JR常磐線・内原駅|巨大モールへ向かう途中、何もない午後
JR常磐線の内原駅。
水戸駅の少し東京寄りにある駅だ。
イオンモール水戸内原は、茨城県内でも大きなショッピングモールとして知られている。
けれど、車社会の街らしく、駅そのものは驚くほど静かだ。
平日の午後なら、なおさら人の気配が薄い。
新しい駅舎を出る。
エンジン音も、会話も、待ち合わせの気配もない。
駅前にはタクシーが一台だけ停まっているが、運転手の姿も、乗り込む人もいない。
ただ、そこに“待っている”という状態だけが残っている。
駅前のベンチには、誰も座っていない。
座ろうと思えば、いつでも座れる。
けれど、そうする理由も、必要も、ここには見当たらなかった。
モールの方へ向かって、老夫婦が一組だけ歩いている。
急ぐ様子はなく、会話があるのかどうかも分からない距離感。
ゆっくり、ゆっくりと、同じ方向へ進んでいく。
この駅前で「目的を持っている人」が、はっきり見えるのは、その二人だけだった。
駅前のセブンイレブンで、ホットコーヒーを買う。
紙コップを手に持つと、湯気が立ち上る。
けれど、その湯気は風に乗って、さーっと消えてしまう。
残るのは、手のひらに伝わる熱だけだ。
何もない。
そう感じる空間は、巨大なキャンパスに絵を描く前のようでもある。
白すぎて、広すぎて、どこから手を付けていいか分からない。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなる感覚がよぎる。
人は、どこにいるのだろう。
駅前にはいない。
街としての重心も、ここでは感じられない。
視線の先には、巨大な建物だけがある。
人は、あの中にまとめて収まっているのかもしれない。
そんな想像が、自然と浮かぶ。
他に行く場所が思い当たらず、足はモールの方へ向かう。
選択肢があるようで、実は一択。
歩いていく途中、軽自動車やワンボックスのファミリーカーが、駐車場へ吸い込まれていくのが見える。
ここでは、人よりも車の方が、はっきりと意思を持っているように見えた。
モールの近くに来ても、車の音はほとんど感じない。
ただ、遠くの方から、バイパスを走る車の大きな音が、低く響いてくる。
近くは静かで、遠くが騒がしい。
音の重心も、少しずれている。
空は広く、青い。
きりっとした空気が心地いい。
冬の終わりか、春の手前か。
そんな境目のような午後だった。
内原駅は、何もない。
けれど、その「何もなさ」は、はっきりと記憶に残る。
人は確かに集まっているはずなのに、姿が見えない街。
静かすぎる駅と、巨大すぎる建物のあいだを歩いた、何もない午後だった。
